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ウラギラレ勇者 ー勇者号略奪ー  作者: 綾(りょう)
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プロローグ「勇者号略奪」2-真白(ましろ)-

昨日の続きです。

よろしくお願いします。

 表彰式が終わり、いつも通り授業が始まる。数学の授業だ。

 時期は春が過ぎ、夏がやってくる準備をし始めた季節の変わり目。開けた窓から教室に入ってくる暖かな風が、淡い薄緑のカーテンを揺らしていた。


 2年生の教室で、栖雲は何か違和感を感じていた。

 周りを見渡せば、授業を聞くクラスメイト達もどこかそわそわしている……ような気がする。

 数学教師のブラックボードを叩くチョークの乾いたリズム音が、何かのカウントダウンを意識させてしまうほどに、「今から何かが起こるんじゃないか?」という根拠のない不安が頭の中を渦巻いていた。


「地震か?」


 誰かが呟いて、何人かが、「そうかもしれない」と言った。しかしそれを聞いてまた何人かは、「違う気がする」と思った。


 天井から吊るされた蛍光灯は揺れていなかった。感覚を研ぎ澄ましてみても、その正体をつかむことはできそうにない。それでも、皆何かを感じ取っていた。


 そして、変化は唐突に起こった。

 木に停まっていた鳥が、カメラのシャッターを切った瞬間に、或いは瞬きをした瞬間に訪れる僅かな暗闇の合間に羽ばたいているかのように、一瞬で。


「おい、田畑!授業中に勝手に出歩くな」


 数学教師が、勝手に席を立った生徒に注意をする。席が廊下に近い田畑が、スライド式にのドアを開けようとした。


「開かないぞ。鍵は……掛かってないな」


 鍵も掛かっていないのに、ガチャガチャと音が鳴るだけで開く気配がない。

 教卓に近いドアのガラスは、スモークになっているため、外が見えない。数学教師の静止を無視して田畑は後方のスライドドアに走っていったのだが。


「うお! 何も見えやしねえ」


 スライドドアの上部にはめられたガラスから廊下が見えるはずが、白しか見えなかった。遠近も感じられない。白い紙が張り付いているのか、またはずっと遠くまで、この白い景色が続いているのかわからない。


「鍵も掛かってないのに、開かねえ。どうなってんだ」


「こっちも、何も見えないよ!」


 今度は窓側にいた生徒から声が上がった。

 窓から見えるはずの校庭。しかしそこには300メートルトラックの白線も、サッカーゴールや野球の防球ネットも無かった。見えるのは、奥行きのわからない真白だけだ。

 色鮮やかな世界が、教室を残して白く染まってしまった。もしかしたら本当は白ですらなく、無なのかもしれない。


「く、何故開かない」


 ただ事ではないと感じた数学教師も、ドアを開けようとするが、やはりびくともしない。それどころか。


「おい、何かおかしくないか」


 先ほどの田畑が開けようとした時とは異なる点があった。


「音がしない」

「らああああああああ!!」


 そう指摘したあと、田畑がドアをけりつけていた。しかし回し蹴りを受けたドアは音も出なければ僅かに動くこともなかった。


「やめないか!」


「どうなって……やがる!!」


 今度は椅子を持ち上げる田畑を数学教師が止めようとしたが、またも無視をしてドアのガラスに叩きつ

けるが、びくともしない。音もしなかった。


「窓も開かない」


 田畑を真似て窓に椅子を叩きつけた生徒が知らせてくれたが、音がしなかったために誰も気づかなかった。


「本当だよ。ほら」


 そう言って何度も窓に椅子を叩き続ける生徒。別の生徒はブラックボードにチョークを乱暴に叩きつけているが両者とも無音だった。


「わ、わかったから」


 隣の生徒が止めるように言った。これ以上見ていたら非現実過ぎて頭がおかしくなってしまいそうだった。


「明らかにおかしい。神隠しにでもあったみたいだ」


 話かけてきたのは幼少から付き合いのある猪原勇人だ。189センチの身長の彼は、今年の全国大会で優勝したバレー部のキャプテンだ。短髪で切れ長の目が似合う。クラスでも男。女問わず人望の厚い生徒だ。教師からもそのリーダーシップが認められている。


「みんな、ひとまず冷静になろう。騒いでもここから出られそうにない」


 猪原の言葉に皆頷く。しかしそうは言ったものの、全員パニックになったりなどしていなかった。むしろ冷静過ぎた。普通理解の及ばない現象に立ち会えば冷静さを失う者が出てもいいはずだが、皆無だ。なんとなく、そういった負の感情を抑え込まれているような感覚すらある気がしてきた。むしろ安心感があるくらいだ。


(安心感? 何を馬鹿な)


 勇次が否定した直後、それは来た。

 

教室の中心の空間が無理やり拡大されたかのうに、メキメキと、あるはずのない空間の内側からこちら側へ捲れていく。異変の下にいた生徒たちは悲鳴を上げながら左右に避難した。

 同時にブラックボードや、スライドドア、窓といった四方を囲む壁が室内の空間が歪んだことで軋み始めていた。その軋みは室外の真白がこちらへ侵入するための一助となった。壁に亀裂が入り、そこから真白が滲みだした。教室内もそろそろ持ちそうにない。


 そして空間が十分に捲れたとき、中から光が差した。そしてその空間からそれが、こちらに一歩を踏み出した。


 それは大層お美しい女性だった。その存在の前では見とれることすらも下劣な考えのような気がしてしまう。顔はベールで覆われている。顔どころか全身から光が溢れ出ているようで見ることができないか、光のシルエットから女性なのだと推測できた。

 見ることすらも穢れとなってしまう程の美しい存在を前に、女神という言葉が脳裏を過ぎる。教室以外が真白になってしまった摩訶不思議な空間に突如現れ、高貴な存在感を放つ存在。おとぎ話にしか出てこないと思っていた女神に違いない。


「異界の住人方よ。魔を退ける力を授けます。どうか勇者と力を合わせ、魔王を討ち取ってください。そして世界をお救いください」


 女神の麗しいに違いにない唇から零れた言葉。


『異界』『勇者』『魔王』なんてファンタジーな単語だ。そんなものはゲームの中だけの話だ。しかし現在進行形でファンタジーを経験している最中だ。あり得るのか?


 考えていると、頭痛がした。ただの頭痛じゃない。脳が痛い。

 脳というメモリに新しいソフトがインストールされたかのような感覚だ。大きい容量が、高速で脳に流れてくる。思わず顔をしかめてしまう。栖雲が周りを見渡すと、皆戸惑ったような表情をしているから、同じ体験をしているのだろう。


 痛みに耐えた後、インストールされた情報を知覚することができた。


 栖雲にインストールされたのは、『勇者』。


 これが女神の授けた『魔を退ける力』なのだろうか? いや、そうである、と理解した。理解させられた。PCに新しいソフトがダウンロードされたように、全く知らない知識を植え付けられて気味が悪かった。


「勇次くん、今の……」


「あ、ああ。頭に入ってきた。千里もか?」


「うん。私は『弓使い』だって」


 弓道部だからだろうか。他の生徒達にも確認したいところだ。


「勇次くんは何だったの?」


「俺か? 俺は『ゆうし――」


 常夏に答える前に、教室の壁に阻まれていた真白が、唸りをあげた。真白とを隔てる壁が耐え切れなくなり、亀裂から真白が噴出する。噴き出る勢いが強すぎて壁が一気に崩壊し、真白に覆われた世界の中で唯一色が残っていた室内からもついに色が消えた。

次話は、真白の世界で勇者が女神と相対します。

女神から白の世界とは何なのかの説明と、勇者に対して追加で新たな能力がえられます。

その能力が偽勇者と称号なしの勇者を一層狂わせていく要因になります。そして異界の上層達の計画も……


体調不良等理由がない限り、遅くとも5月18日(土)中に次話を投稿いたします。

少しでも気になると思ってくださった方がおりましたら、5月18日にまたいらしていただけますと嬉しいです。

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