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ウラギラレ勇者 ー勇者号略奪ー  作者: 綾(りょう)
1/10

プロローグ「勇者号略奪」1-日常-

本ページを開いていただきありがとうございます。

あらすじにあるとおり、カレンダー上で休日の日に更新します。

平日は・・・察してくださいませ。とは言いつつ、日本の将来的には察せる人が少ないことを祈ります。


小さい頃から、社会人の今でもストーリーライターになるのが夢です。

会社に負けず、コツコツ執筆していきたいと思います。


皆様にすこしでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

「栖雲 勇次」

「はい」


 壇上の端で待機していた男子は、名前を呼ばれて大きめに、しかし静かに返事をした。声が高校の体育館内の広い空間に響いた。

 全校生徒が集められた体育館では、先週行われた全国大会の表彰式の最中だ。

 名前を呼ばれた男子こと、2年の栖雲勇次の同級生はスポーツで優秀な人が多く、例年よりもはるかに好成績を納めた者が多い。彼も、その一人なのであるが、本人は少しばかり、いやだいぶ不満そうに見えた。


 とにかく、例年よりも大会の表彰台に多くの名前を連ねた本校である。普段は面倒くさがって教頭に任せている校長が、いたくご機嫌な表情で生徒たちに賞状を手渡していた。しかしそれも最初のうちの話で、校長は既に飽き始めた顔を浮かべている。間延びした声で読み上げる校長とはどうやっても目が合いそうになく、どこか遠くを見つめる校長は存外に「何故、今年に限って引き受けてしまったのか」と後悔していることが容易に感じ取れた。拍手をする生徒たちも同様にここではないどこかを見つめている。気力のないまばらな拍手をしているせいで、校長の様子にも気づいていなかった。

 そんな彼らの態度に対して、栖雲は特に思うことはない。そもそも、この表彰自体嬉しくもない。


「剣道全国大会3位。おめでとう」


 なぜなら、彼は3位だったのだから。


 ありがとうございます。そう小さく応えて賞状を受け取った。前の生徒たちに倣って、3歩下がって礼をするのも忘れない。

 礼を終えると生徒たちが拍手をした。はじめと比べて張りのない、まばらの拍手だ。


「バレーボール部 代表、猪原勇人」


「はい!」


次の生徒の名前が呼ばれた。ひと際大きな声で応じたのは猪原勇人、栖雲の親友だ。


「全国大会優勝おめでとう。更なる活躍を期待しています」


 優勝のほうが学校の評判も高まるからだろう。校長に一時的に活力が戻っていた。


栖雲と猪原は幼稚園からの付き合いで、昔は一緒の道場で剣道を習っていたが、中学進学と同時に猪原はバレーボール部へと入部した。高い身長を生かして直ぐに頭角を表し、いまや3年を差し置いて全国1位のバレーボールチーム部部長になった。対して栖雲は幼少から続けた剣道で全国3位。正直なところ引け目を感じていないかと言われれば、嘘になる。しかしそれ以上に、敗戦した試合を思い出し、「あの時こうしていれば」「なぜ、あんな動きを」と後悔の念が止まない。特に今のような何もない時間にはずっと試合の記憶が流れて止まない。頭の中では選択に成功した自分が全国優勝を称えられているが、現実はそうなっていない。優勝できなかったことが、ただひたすらに悔しかった。バレーボール部の優勝に対して贈られる、生徒たちの張りのある拍手を聞きながら栖雲は壇上を降りて行った。


「弓道部 代表ーー」


 その後も表彰は続いた。周りを見れば、生徒は皆眠気眼だ。大きな欠伸につられて隣の生徒も欠伸をして、小さく伸びをしていた。


「俺らまで立っている必要があるか?」

「まったくだ」

「だりい」


 そんな会話が聞こえてきた。その点に関しては栖雲も同意見だ。

 結果を求めるのは自己満足で、評価を決めるのは他人だと思っている。実際審査は他人が点数をつけるし、勝敗を判じるのも審判だからだ。だから、結果に対してすごい、すごくないと論じるのは自由だと考えているのだが、何とも思っていない彼らには何も語ってほしくない。だから叶うなら望みどりに退出してもらって、教室で勉強するなり、校庭で遊んでいてほしいくらいだ。

 だからまったくもって同意見だ。とっとと、出ていけ。そう心の中で思った。

 だけど一人だけ、表彰される生徒たちに心の底から拍手を贈る生徒がいた。猪原同様、幼少から付き合いのある常夏千里だ。栗色のセミロングヘアを、耳の上あたりでサイドに小さく結った彼女の拍手からは、表彰者たちの結果とそれに至るまでに費やした努力を称賛する音が響いていた。

 なぜそんなことが分かるのか。それは簡単なことだった。彼女は校長や周りの生徒と違って、表彰者たち一人一人を見ていた。彼女だけは、自分の世界に彼らを映して讃えているのだ。「すごいなあ」と。


★  ★  ★


「うわああああああ……やっと、終わった」

「腰捻るだけで、骨メッチャ鳴るわ」

「今年はいつにも増して多いって言ってたからなあ。聞いた最初はすげえって思ってたけど、まさかこんな地獄が待っているとは思わなんだ」


教室への移動のため、廊下を歩いているとそんな会話が聞こえてきた。教室に戻ると、より騒がしくなるが、さすがに表彰式の話題は出てこない。表彰者に聞こえてしまうから、というのもあるかもしれない。

栖雲としては、担任が来る前までのちょっとした騒々しさに独特な解放感を感じられて好きなのだが、今回ばかりは少し憂鬱だ。


「あれ、田中のやつ休みか」

「あいつ昨日、『表彰式とか疲れるから休む』って言ってたぜ」

「俺は『右腕の黒龍を鎮めなければならない。そろそろ周期が来るからな』って聞いたけど」

「あははは! 似てる!」


少々騒がしすぎる気もする。


「勇次、3位だったんだね。惜しかったけど、すごいよ」


 席に着いて休んでいると、常夏が話しかけてきた。


「すごかないさ。千夏こそ準優勝おめでとう」


「ありがとう。ほとんど先輩たちの力だけどね。私は引っ張ってもらっただけだよ」


常夏は謙遜ばかりで本当に他人を尊敬する。栖雲は同年代で、彼女以上の人格者を見たことがない。栖雲が尊敬する一人だ。

常夏と話していたら、今度は猪原が話かけてきた。


「よう。お前3位だったのか。というか全国大会行ってたのかよ。言えば観に行ったのによお」


「お前はお前で練習で忙しかったろ。それに3位だしな。来てもらったところで悪かったさ」


「いやいや、3位もすごいと思うぜ」


 そんなに嬉しくもないが、ありがとうとだけ伝えた。


「勇人もすごいよね! 優勝するんじゃないかって、学校で噂になってたけど本当に優勝しちゃうなんて」


「かなり練習したからな。努力が実ってよかったよ」


 二人の会話を聞き流しながら、栖雲は考えていた。

 あのとき、どうやったら勝てたのか。試合の映像が脳裏に流れる。あのとき、踏むこむべきか躊躇した。小手を狙われるんじゃないかと躊躇った。それを見透かすように、相手は栖雲の正面を叩いた。竹刀と兜が当たる音がしても何が起こったのかわからなかったが、審判の勝負ありの声で負けたんだと気づいた。そう負けたのだ。これは過去の出来事。だから幾ら考えたところでやり返しは利かないことだ。考えても無駄なことだ。それでも、延々と振り返ってしまう。


「私も、来年は後輩たちを引っ張っていきたい」


 どこまでも人格者で、前を見据える常夏。

 対して、過去に悩まされ続ける栖雲。

 悔しがるのも正しい。それは負けず嫌いというものだ。だが、すでにひと月が経っていてもなお感情が衰えることのない栖雲は少しばかり異常なのかもしれない。


 そんな彼を見つけるのは、それにとっては簡単なことだった。

 真白の世界に、孤高な存在がいた。地球を管理する者が少し外している隙にアクセスを試みた結果、目当てはすぐに見つかった。彼は栖雲勇次というらしい。周囲には彼以外の生命反応があるが、一般的な人間と比べて能力が高いようだし、共として一緒に連れて行ってしまってよいだろう。


 それは、空間を歪ませるほどの力を漲らせた。不可視なそれの存在が、力を纏うことによって僅かに姿を現した。それは大層お美しい女性だった。眩い光に阻まれて輪郭を捉えるだけに留まるが、ただただ美しい。見とれることすらも下劣な考えのように思えてしまうほどに。


 それを呼称するとしたら、一つしか思いつかない。


「後ろを振り返るのもまた、力。何故自分が勇者なのか。何をなすべきなのか。そして成したことは、果たして正しいことなのか。それを考え続ける思考をもった人間――栖雲勇次、女神たる私の求める勇者の理想に等しい」


 ――女神だ。

 その存在は女神以外にあり得ない。

 神々しさ。慈愛に満ちた光を見れば誰しもが心温まり、例え殺しあっている最中であっても武器を持つ手を止め、心から平伏することだろう。


「そして何故、栖雲勇次を選んだのかすら、私自身考え続ける。そもそも勇者が必要なのかさえも」


 女神が、己の力を勇者とその仲間たちに与えた。その力で世界を救ってほしいと願った。


「選択した道が正しいのかを考え続け、もしも正しくないのであれば正す。そんな勇者に汝が為らんことを願う。女神の名に於いて儀式召喚を発動する。要請者センセアーレ。発動【トランゼ・ヘレ・ピリオゼーション】」


読んでくださり、ありがとうございました。

明日も更新しますので、是非いらしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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