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TRPGなるもの

 私がピカピカの1回生であった春。構内にさらりと流れる、実しやかな噂があった。


「TRPGにハマると廃人になる」

 ——ハマった者は、気づかないうちに単位をぽとぽと落としていき、終いには留年する。


 という怪談じみたものである。


 誠に純粋無垢で毎日がキラキラと輝いているように感じた私は当時、「TRPGってなあに?」としか思っていなかった。怪談なんて歯牙にもかけなかったのである。


 それの何が悪いことか。気に止めなくとも、TRPGを知らずに毎日が過ぎていく学生の数は、TRPGを知ってハマって何もかもがどうでも良くなる学生の数を、遥かに上回っていたのである。


 が、結論から言えば、お察しの通り。

 私はTRPGを知ってしまった。そして、味わい尽くしてしまった。


 講義で隣に座った学生がたまたまTRPG信者だった、というだけで。


 誠に純粋無垢で毎日がキラキラと輝いているように感じる私に、怪談が差し迫ってくる事態になったのは、TRPG信者のいる教室の出場判定でクリティカルヒットを叩き出してしまったことに起因する。


 この判定でもしファンブっていたなら、私の文章力はもう少しマシなものになっていたに違いない。



 ○○○



 しばしば、ポルトガル人とネットで五目並べをして遊んでいた私は、外国語選択講義でポルトガル語を習うことにした。仲良くなった友達は皆、ドイツ語や中国語を専攻したので、私は独り寂しく教室へ向かった。


 ぽつねんと席に座っていたところ、「隣に座ってもいい?」とすこぶる明るい声があった。声のする方を見やると、笑顔の素敵な女性がいらっしゃったので、私はぜひお友達になりたいと思った。


 これが、TRPG信者のニラとのファーストコンタクトである。


 心細い思いをしていたためか、私はいつもより饒舌になり、あっという間に2人の距離は縮まった。


 他愛のない話をする中で、今度ニラの友達を交えて、ニラの家で遊ぼうということになった。

 そして、私はのこのこ出かけて行って、初めてTRPGと対面することになる。


 なぜ、私は人見知りをするのにも関わらず、トントン拍子で話が進んでいったのか、長いこと不思議に思っていた。


 だが、今ならわかる。TRPGは謂わば、コミュニケーションが必要なゲーム。TRPGが好きで上手い。しかも自然に布教ができたとなれば、理由は1つだ。


 圧倒的なまでに、ニラのコミュニケーション能力が高かったのである。



 ○○○



 一緒に何度か卓を囲んだところで、屈託のない笑顔でニラが言った。


「莉南はGMも向いてると思うよー。話作るのも好きならオリジナルシナリオやってみると良いよー」


 その日から私はせっせと、昼夜を問わずにいくつものシナリオを作り始めた。ニラが褒めれば褒めるほど調子に乗っていった。


 下記に、最初に作ったシナリオ概要を載せる。



 ×××



恋愛脳スイーツ卓

●キャンペントレーラー


 いつだって私はどこかに行きたくて

 「どこか」がわからずに泣いていた

 記憶を白紙に戻すことはできなくて

 だから上から濃い色で塗りつぶすよ

 男と女は一生わかりあえないけれど

 それでも歩み寄れたらいいって思う

 あなたさえいればもう平気だよね?


 ダブルクロス The 3rd Edition 『ふたりぼっちのセレモニー』

 ——心に壁を作るのが自分ならば、それを壊すのも自分なんだ


●レギュレーション


 GM:野田莉南

 キャンペーン名:『ふたりぼっちのセレモニー』

 人数:3名以上、5名以下

 ステージ:A知県N市

 使用可能ルールブック:既存のものすべて

 初期使用経験点:できる限り初期作成

 シナリオ傾向:ロール重視です。


●今回のシナリオ


 まず第1話めの、PLの目的は『シナリオロイスの相手を恋人にすること』です。

 どのPCで参加するか、どのNPCをシナリオロイスにするか決めましょう。

 性格と容姿指定くだされば、みなさまの心の恋人をNPCとしてお作りすることもできます。


●アクトトレーラー


 とある秋の午後。

 須磨菜月が庭で紅茶の香りを楽しんでいる頃。

 風邪薬を生成していた瀬名あかね は、その美しく光る指先を猫に噛まれ、持っていた薬品の小瓶を窓の外へ。

 困った表情を浮かべたのは1人で散歩をしていた松原紫苑。白いブラウスに空から降ってきた薬品がかかり、ブラウスが透けた。

 それに気をとられたのは下校中の木田宏斗、飲み物を口にしようとペットボトルのキャップを開けた時だ。ペットボトルは手から飛んであらぬ方向へ。

 驚いた須磨菜月、突然降ってきたペットボトルのせいで服が濡れ、服は斑点模様。走って謝りにきた木田宏斗の秘められた能力に気づき、意味ありげに微笑んだ。

 それらの騒動に何1つ気づかない京極愛華、読み返した小説を静かに閉じた。


 ダブルクロス The 3rd Edition 『ふたりぼっちのセレモニー』

 ——嗚呼、それは美しき縁の午後。




 ×××




 最初に作ったシナリオにはまだキラキラの女子大生の陰があった。完全に毒されていたわけではないことがわかる。


 しかし、シナリオを作ることで、私のちっぽけな創作意欲はすっかり満たされた。


 小説は1()()()()()()()書かなくなった。


 廃人になるか、ならないか。そのような取るに足りないことを問題にしているのではない。


 キャラクターを動かすのに参考になる、複眼的な思考が身につく、という利点はあるように思うTRPG。


 踏み込んでいくと、もう小説は書かなくても良いのではないか、と思いやすい。


 小説を書きたい人には絶対に、断固として、おすすめしない。



 伝えたいことは以上である。


 あ、最後に念押しの一言。本文の内容は私小説です。実際の人物や団体に関わりはございません。

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