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幼馴染のソーサラーと盟約の冒険者  作者: 猫街道
I.平和な日々の終末
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4.魔獣との交戦

 村にはテル以外にも冒険者と呼ばれる者達がいる。例に漏れず、普段は護衛任務などをこなしながら、危険を冒さない冒険者として生計を立てている。とはいえ村の中でも武装できるものは冒険者くらいしかいない。


 数人の冒険者達は一列になり、森へと入って行く。

 テルの装備は弓矢と剣。特に弓の扱いに関しては腕に覚えがあり、村でも一目置かれている。街で調達してきたばかりの矢を合わせ、対魔獣用の矢は持てるだけ持ってきた。

 剣は近接戦闘になった場合の装備だが、生身の盗賊相手ならともかく魔獣相手では、こんな通常鋼製の鈍な剣は無力であろう。

 なにを隠そう、この鈍は幼少期に廃屋からパクっ…… 拝借してきた錆びまみれの剣を鍛冶屋に鍛えなおして貰った代物だ。無論ピンチの時に覚醒するような聖剣だったり、魔獣の血に飢える(たた)られた剣である筈もない。


 ふと、魔獣から逃れ手負いの男が伝えた”数体”という言葉がテルの頭を過る。数体が具体的に何体なのかは分からない。ただ分かるのは魔獣用の矢が尽きたらお終いであるという事。

 正直、魔獣を自分の弓で仕留める事ができるのかも疑問に感じていた。

 人生で一度だけ魔獣と遭遇し生きて帰還できたのも、ルビーの力であったし……


 森は不気味なほど静かで、風が吹くと葉の擦れる音が聞こえる程度の静寂さだ。月は出ているものの、背の高い木々に遮蔽された林道では人間の眼にとっては不十分な光量である。


「開けた場所に出る前に襲われたらお終いだな……」

「おい、冗談は止めろ」

「そもそも、開けた場所に出られても複数の魔獣相手に……」

「いい加減にしろ! ここで仕留めなきゃ村は全滅だぞ」


 魔獣との戦闘経験などある筈もない冒険者達は不安に駆られギスギスとした空気となる。


「テル! 後ろから魔獣の気配はあるか?」

「いや…… ありませんね……」


 列の最後尾を往くテル。こんだけ暗い森の中で、人間の目視で魔獣の存在に気づいた頃には手遅れだろうと内心思っていた。問いに対してテルは”魔獣の気配”は無いとは答えたが正確には人がつけてくる気配を感じていた。それが誰なのかはわからないが……


 やがて木々が生えておらず開けており月明りが遮られない場所に冒険者達は出た。


「うっ、なんだこの匂いは!」


 開けた場所で風が吹いた時だった……血の匂いが漂ってきた。


「うわぁ! こりゃ酷い……」


 声を発した冒険者が目を背けた先には千切れた人間の脚が転がっていた。転がっていた人間の脚は、刃物で綺麗に切断されたような断面ではなく明らかに食い千切られた物である。

 騒めき始める冒険者達、無理も無いだろう。

 この界隈の冒険者は護衛任務で戦闘になり、人を切るようなことは滅多に経験しない。

 そう、人間の肉片など初めて見るに等しいのだから。


 そんな騒めく冒険者の傍ら、テルは既に気づいていた。


「囲まれてるな……」


 魔獣の気配に気付いたテルが一言発した途端、周りが一斉に黙り込む。

 程なくして、茂みから月明かりを赤く反射した眼光が浮かび上がる。

 冒険者達は一斉に武器を構える。相手が飛び出してくるタイミングを固唾を飲んで待つ。


 一体の魔物が茂みから駆け出してきた、それと同時に逆方向の茂みからも一体魔獣が駆け出してきた。

 透かさずテルが矢を放つ。空気を鋭く切り裂いた矢は、魔獣の首に深く突き刺ささり、魔獣は倒れ伏せた。


「まずは一体…… そっちは大丈夫か?」



 テルが後ろを振り返ると、大剣を握ったガタイの良い冒険者がもう片方の魔獣と交戦していた。

 傍からみても明らかに防戦一方である。いや防戦一方どころか明らかに力で押され、踏ん張っている足が後ろへ押し戻されている。いくらガタイが良いとはいえ相手は人間と同じくらいの体高を持つ四足歩行の獣だ。真っ正面から押し合いをしても勝てるわけが無い……


 テル以外にも弓を持った冒険者が構えてはいるものの、魔獣と交戦中の冒険者に当たるのを恐れて矢を放たない。状況を察したテルが弓を構える、村でも弓の扱いにおいてテルの右に出る者はいない。交戦中の冒険者の背後から放たれた矢は肩を(かす)れ、魔獣の眼を射止めた。凄まじい咆哮を発する魔獣、冒険者達は魔獣を一斉に囲い滅多刺しにする。


「やったか?」

「いや、まだ数体潜んでるぞ……」


 斥候(せっこう)の同志が仕留められたのを見るや否や、今度は3体の魔獣が茂みから飛び出してきた。テルは透かさず弓を構え向かってくる1体の魔獣目掛け矢を放つが胴体を掠めただけで、勢い衰えず飛び掛かってくる。サイドステップで魔獣を交わし、直ぐに次の一打を放つ。矢は後頭部に突き刺さり、その巨体は地面へと倒れこんだ。


「他の2体はどうなった……」


 テルが目視にて周りの様子を確認するよりも先に、断末魔のような悲鳴が耳に入ってきた。

 一瞬にして数人の冒険者は屍となり、今この瞬間にも魔獣の強靭な顎によって人間の頭部が噛み潰されようとしていた。

 テルは目の前の惨状に恐怖だの怒りだのを感じるよりも先に弓を構え矢を放っていた。


 ――気付くと残り2体の魔獣を射止めていた。魔獣の動きを封じ終わり周りを見渡した時テルの足が震え出した。

 他の冒険者は誰一人生き残っていなかったのだ。森の開けた場所に散乱していたのはつい先程まで生きていた人間の変わり果てた屍と、魔獣5体の残骸だった。


 魔獣は狩り・戦闘において高い知性を発揮すると言われている。

 斥候として飛び出してきた2体で人間側の戦力を確認したうえで、次の3体を。そのうち1体を最も脅威となる人間相手の(おとり)として交戦させている間に、残りの2体に他の人間を仕留めさせたのだろうか。


 震える膝に手を当て深呼吸をするも、風で流れてくる血の匂いが鼻につく。顔を上げれば、すぐ目の前に広がる肉片と血の海。

 ふと背後に人の気配を感じる。

 しかし同時に、そんな事など一瞬で意識の中から消えてしまうようなショッキングな事実をテルは目の当たりにした。

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