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幼馴染のソーサラーと盟約の冒険者  作者: 猫街道
I.平和な日々の終末
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3.夕暮れの村

 陽が傾き始める前に、二人は村に戻ってきた。

 シトラスの街からそう遠く無い場所に位置する小さな村がテルとルビーが育ってきた場所である。まだまだ科学の英知を受けているとは言えない古臭い(おもむき)が漂う。住民の多くは農業を営んでいるため、買い出しがある時以外は村からでない、そんな閉鎖的な場所である。


 村の男達はノエル祭の準備のため、忙しそうに動き回っている。


 ノエル祭……それはこの国最後の魔法使いとされるノエルが処刑された日を祝う祭りで、毎年この近辺の地域で開催される。最後の魔法使いノエルが処刑された地が()しくもこの村であった。

 何故こんな小さな村に身を潜めていたのか今となっては知る術も無い。が、最期の魔法使いが眠る因縁の地ということもあり村での祭りは教会からも重要視されている。今年はノエル処刑から20年の区切りということもあり教会の大司祭も来訪する。



「ありがとうテル。ここまでで大丈夫だよ」

「いや、久しぶりに親父さんに挨拶しにいこうかと思う」

「挨拶だなんて大袈裟だよ、すぐ近所なのに」

「まぁそう言うなって」


 テルは一旦、自宅に荷物を置きに行くとルビーと共に直ぐ目先にあるルビー宅を訪れる。


「ただいま、お父さん」

「あっどうも、お久しぶりです」


 ルビーに続いて、テルも挨拶する。


「おかえり。おっ、テル君も来てくれたのかい?」


 ベッドの上でゆっくりと痩せこけた上体を起こし、テルの立つ方へ顔を向ける。

 ルビーの父親は嘗て都の研究機関におり優秀な研究者だった聞くが体を悪くし、ルビーのいる村に帰還。現在はルビーと二人で暮らしている。

 最近では体調が悪化し家から出る事も殆ど無いという。


「今日も街でルビーに付き添ってくれたのかい?」

「ええ、そうですよ」

「テル君いつも悪いね。 こんな歳になっても付き合わせちゃって」

「いえいえ、良いんですよ」

「他人から見たらデートだと間違われたんじゃないかな?」

「まぁそうでしょうね」


 ルビーは二人の淡々としたやり取りを聞きながら何か物申したそうな顔をしていた。二人の会話が御もっとも過ぎて何も言えないルビーはそのまま自分の部屋へと戻っていった。

 それを見計らい唐突に話題を変える親父さん。


「話題を変えるが……」

「どうぞ」

「テル君、どうか家の娘を頼む」

「って、えええええぇ。何言ってるんですか急に、縁起でもない。まるで最後の別れ際みたいな……」

「いいや、自分の身体の事は自分が一番わかってる。私もこの先そう長くは無い……」


 あまりにも突然すぎる話である。

 そして縁起でも無い事を(ほの)めかす親父さんの言葉を否定しようと一瞬考えはした…… しかし、日に日に枯れていく姿を目の当たりにしてきたテルは何も言えなかった。現に親父さんの身体は健康な成人とは程遠い体型を成している。


 テルが茫然と立ち尽くしていると、親父さんが昔の思い出話を始めた。テルとルビーが幼かった頃の話。テルの両親がまだ健在だった頃の話。それは走馬灯のように次から次へと出てくる……


「親父さん……」

「キミだけがあの娘の理解者であり味方なんだ。これからもあの娘を守ってやってくれ」

「わかりました。俺が守ります、誰に言われなくともそのつもりです」

「ありがとう」


 優しい表情で笑みを浮かべた親父さんは、再び横になる。短い一瞬のやりとりであったが、テルは親父さんの思いにしっかり答えた。


 窓からは橙色の西陽(にしび)が差し込み、忙しく動き回る男たちの声が入ってくる。


「外が騒がしいな…… 今日はノエル祭だったか」

「そうですね、村にも大司祭が来るそうです」

「……教会の人間には気をつけろ」


 ――陽が落ち、空が闇に飲み込まれ始めた頃。

 大司祭を筆頭に教会の御一行が村にやってきた。大司祭の護衛だろうか、10人ほどの義勇兵を引き連れている。

 村長が大司祭に一礼したところで、広場に置かれた人形に火が放たれた。人形は火炙(ひあぶ)りにされている魔女をモチーフとしたものである。


 つい20年前まで行われていた”魔女狩り”では女性の魔法使いつまり魔女は遺体が灰になるまで火炙りに。

 男性の魔法使いは軍に連行され死ぬまで強制労働をさせられたという。


 油を浸み込ませ燃え盛るように作られた人形からは黒い煙と大きな火柱が立ってた。その燃え盛る人形を背に大司祭が経典を開き、演説を始める。


「神は三つの災いを世に作り出した。魔獣、魔法使い、獣人…… 民を愛する神がなぜこのような愚行にでたのか? 神は人間を試そうとしたのだ。 人間がこれらの災いを跳ね除けてなお歩むことができるか否か。そして今から20年前、忌まわしき魔法使いは根絶された。魔法使いがこの国から居なくなったのと同時に、疫病は収まり魔獣の脅威も殆ど影を潜めるようになった……」


 大司祭という地位に立つ者だけあって存在感があり、その一言一言にも人を引き付ける力がある。村の者たちは燃え盛る人形と大司祭を囲うように輪になり話を聞き入る。

 テルも輪の外側から上の空で話を聞いている振りをしている。大した信仰心も無く大司祭の話にも興味の無いテルには祭り自体がどうでも良い。しかし小さな村なので周りの目もあり、形だけでも顔を出さざる得ない。


「魔法使いは疫病をばら撒き多くの民の命を奪った。魔獣を使役(しえき)し多くの民が命を奪われた。 今からきっかり20年前、この村で処刑された魔法使いを最後にこの国から災いの元凶は排除された。神は褒美に科学の英知を授けた……」


 大司祭の声など頭に届かず、腕組みをしながら暇を弄んでいる(もてあそんでいる)テル。少しでも気を紛らわす事が無いかとあたりを見回す。


 雲一つ掛かっていない宙に浮かんだ月が田舎の暗い夜を照らす。

 ふと、遠くで手招きするようなジェスチャーをしている者が見えた。よく見ると服は破け額からは鮮血が流れていた。人だかりの輪を早歩きで離れ、額を血で染めた村人の下に駆けつける。


「おい、ど……」

「魔獣、魔獣だ!」

 テルが事情を聴こうとするよりも先に、手負いの村人はそう言葉を発した。


「数体の群れだ。 森に入っていった他の奴らはみんな殺されちまった」

「わかった、あんたは……」

「魔獣どもは村の方へ向かってきている。 早く、早くなんとかしないと……」


 テルが一言話し終わるよりも先に、傷ついた村人は興奮した様子で状況を伝えると地面に座り込んでしまった。

 状況から察するに冒険者という立場上、取るべき行動は決まっていた。テルに迷う余地など与えられてはいなかった。


 速やかに戦闘用の装備を整え森へ入ろうとする頃には、武装した冒険者が森の手前でテルの合流を待っていた。

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