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幼馴染のソーサラーと盟約の冒険者  作者: 猫街道
IV.廃れかけの貴族
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38.御使いそして修羅場

 ある日の朝、朝食を終えるとフィーネの部屋へ来るように言い付けられたテルとルビー。部屋へとやってくると、いつもの如く3人分の紅茶を準備し、今や遅しとフィーネが待っていた。


「お呼びでしょうかご主人様、フィーネ当主」

「ご主人様はやめなさい、確かに主人ではあるけど」


 つまらない冗談はさておき、フィーネがさっそく本題を切り出す。


「今日は街に買い出しに行ってきて欲しいの。ルビーさん同伴で」

「ルビーも一緒に?」

「そうです、ルビーさん同伴。これはとても重要なポイントです」


 何を改まってお願いされるのかと思いきや、普段からテルが熟している街への買い出しの依頼。気になるのはルビーの同伴が重要という点。さっそくテルが意図を探る。


「今日はまた、なんでルビー同伴なんですか?」

「それは、その……物がモノだけにルビーさんに選んでほしいと思って」

「へぇ…… で何を買えばいいんですか?」

「テル、あなたって本当デリカシーがないわね」

「ん?」


 フィーネにデリカシーが無いと言われ、おまけにルビーにも軽蔑の眼差しで見られるテル。いまいち状況が掴めず今にも頭上に疑問符が表れそうだ。


「依頼品が何かは置いといて、そんなに大切な物なら自分で買いに行ったらどうです?」

「私は主人なのよ。使用人のあなた達に行かせるのは当然よ」


 それはまぁ御もっともであるが、テルとルビーが屋敷にやって来て以降、フィーネが街に出ていった姿を一度も見ていない。クライエ家の家訓には、屋敷の敷地から出てはいけないという条項でもあるのか?

 これ以上気に留めない様にと思えば思うほど、気になるのが人の(さが)


「まぁ、この際隠しても仕方がないわね」


 テルが気になっていた矢先、フィーネが自ら事情を語り出した。事情は複雑なようだ。

 世間ではクライエ家は既に滅びた貴族と認知されている。今更まだ生き残りが居ました、とフィーネが表に姿を現す訳にはいかないのだという。

 加え、クライエ家は嘗てある事業を成功させ、富を築き貴族たる地位に上り詰めたのだという。その事業が現在となっては、大きな過ちとされ世間から軽蔑されているのだとか。さすがに、クライエ家が具体的に何をしてきたのかまでは、フィーネの口から語られなかった。

 フィーネの話を聴くに、自ら街へ姿を出せないのも無理は無い気がしてきた。


「もっとも、あなた達が来る前はどうやって買い出しに行ってたかというと…… 幻影の能力を使って姿を偽っていたの」

「そこまでしないと屋敷の外に出れないんですか……」

「そうね、私は最期まで一生この屋敷の中で過ごすことになると思うわ」


 フィーネが屋敷から出なくなったのは端くれとは言え、貴族として背負っている重い事情があってのことだった。テルもルビーもフィーネの言葉に表情が暗くなる。


「フィーネの心配はいらないの。フィーネの分まであなた達が外で楽しんでくれればそれで良い」

「まるで後先短いの病人みたいな言い方は……」

「後先短い病人、適切な表現ね。そう、私は後先短い消えゆく定めの貴族。それは覆らない」


 表面(おもてづら)はいつもと変わらぬ表情を浮かべるフィーネ。しかし死期を悟り受け入れた病人のような、そんな悲壮感がどこからか感じ取れた。

 その後、フィーネは小遣い程度の小金をルビーに与え、私の分まで楽しんでくるように命じた。楽しむ事、それが主人としての命だと。


 ――――――――


 テルとルビーは屋敷から最も近い街へと来た。それ程大きくない街ながら、必要なものは大抵手に入る勝手の良い街。普段からフィーネに買い出しを頼まれていたテル、本日お目当ての店が何処にあるのかも頭に入っている。


 テルは店に着くなり、店内には入らず表に立っていた。ただただ煩悩を殺しながら無心を貫く。それはお目当ての店が女性下着を扱う店だったからだ。

 これより先の任務はルビー隊長に任せ、煩悩まみれの下っ端テルは煩悩退散に励む。フィーネが言っていた”デリカシーが無い”の意味がようやく分かったテル。男一人で店に入ったら、周りの客から顰蹙(ひんしゅく)を買うのは目に見えている。それを見据えていたフィーネの優しさがルビーの同伴であった。ありがとうルビー。


 一方ルビーはというと、店内で下着を選びあぐねていた。フィーネの分は、あらかじめ希望を聞いていたいたので直ぐに選び終わったが、自分用の下着がなかなか決まらない。誰に見せるわけでも無いので、質素なものにしようかと思っていたところで、店員に絡まれる。


「お客様、質素な品も良いですが、これなど如何ですか?」


 店員が一押ししてきた下着を見た瞬間、ルビーの顔が真っ赤に染まる。


「科学の英知によって実現した最新の製紡技術を使った素材。肌触りも最高ですよ」

「……ハ、ハレンチだと思います」


 素材などそんな事はどうでも良い。ルビーにとって問題なのはデザインが、男に対し攻め過ぎている事であった。一言でいえばルビーの言葉通り”ハレンチ”な下着である。しかし、ルビーが押しに弱いと見抜いたのか、店員もあの手この手でハレンチ下着を猛プッシュする。


「外で待ってる彼氏さん、今日はデートなんでしょ?なら、攻めていかないと」

「いや、ちが……」

「この下着を見せれば、男なんて一発で落ちます、私が保証しましょう」

「いや、だから……」


 ルビーの言葉など耳にも入らない店員は、ルビーの背を押しそのまま試着室へと押し込む。


「お客様、着替え終わりましたか?」

「は、はい……」

「ではカーテンを開けさせてもらいますね」

「は、恥ずかしいから、やめ……」


 着替え終わった旨を確認するや否や、カーテンを開けルビーの下着姿を見入る店員。


「最高に似合ってますわ。お世辞抜きで素晴らしい」

「そ、そうですか。恥ずかしい……」

「失礼かとは思いますが、控えめの胸。その控えめの胸がより下着の威力を引き出しています。私の見立て通り、お似合いですわ。これなら彼氏さんも即落ちるでしょう」

「だから違います!」


 結局その後、値引くだのなんだのと押し切られ、ハレンチな下着をお持ち帰りすることとなったルビー。決して透けて下着が見えるわけではないのに、テルの目線が向くたび恥ずかしい。


 ――――――――


 その後、街の郵便交換所へと足を運びフィーネ宛の封書を引き取る。フィーネから預かった郵便交換所の会員証はクライエ家の名義ではなく偽装品であったが、素性を隠す以上止む得ないだろう。


 フィーネに頼まれた買い出し等が全て終わり、陽が暮れるまではまだ時間があったので街を散策することにしたテルとルビー。テルは兎も角、ルビーは毎日、屋敷内での手伝いに追われているため街に来るのも初めてであった。事前に『テルがお勧めするお店に行きたい』とルビーから頼まれたので街のケーキ屋へとやって来た。


「この店自慢のブランデーケーキだ。フィーネのお気に入りで、度々買ってくるように頼まれてな。今日はいつもお世話になってるお礼に、俺が買っていこうかと。って聞いてる?」

「美味しそう……」


 テルが店の説明をするが、まるで耳に入っていないルビー。目の前にケーキが運ばれてくるや否や、夢中になってその味を堪能する。あっという間にケーキを平らげたルビーの表情は甘味から来る、女の子特有の笑顔であった。


 ――ケーキ屋で一息ついた二人が店を出て屋敷へ戻る途中、二人は連れ込み宿に居た。どういう魂胆でこんな場所にやって来たのか。

 家路の途中突然激しい雨が降り出し、雨足から逃れたい一心で目先の建物に飛び込んだ。が、あろうことかそこは男女が仲良く楽しむ場所であったのだ。暫く雨も止みそうにないし、他に雨宿りできそうな場所も無いので結局、連れ込み宿で時間を潰すことになった。

 この連れ込み宿という施設、近年急激に広まっており何処の街にも一つや二つは存在する。もちろん雨宿りに使っても良いのだが、主な用途はあくまで男女が楽しむための場所である。


 雨宿りするだけ、ならば不純異性交遊など発生しない、大丈夫。

 と思っていたが、今まさにテルの目の前で修羅場が繰り広げられようとしていた。


「テル……」

「ちょっと待て、待てい。おちつけルビー、どうしたんだ急に」

「見て…… 目を逸らさないでちゃんと見て……」


 濡れた体を拭うためのタオルを床に捨て、ルビーはあられもない姿でテルに迫ろうとする。雨水で透けかけたハレンチな下着、ハレンチ下着に包まれた成長途上かもしれない控えめな体。下手な全裸よりも男に対する威力の高いハレンチな下着を身に纏ったルビー。

 テルは一瞥もくれずに目を逸らしているが、徐々にルビーが迫る。


「どうしちまったんだルビー、早くシャワーを浴びて、服を着て……」

「どうもしてないよ。一緒に浴びよう?シャワー」

「いやいやいやいや……」


 普段取るはずもない突然のルビーの行動にテルは狼狽する。そしてテルは気づいた。ルビーは何かに酔っている。原因は……ケーキ屋で口にしたブランデーケーキ、ケーキに含まれていたブランデーで酔っていたのだ。普段の恥ずかしがりな性格は何処に飛び去って行ったのだろうか。そんな推理をしている場合ではない。尚もルビーがテルに迫る。


(まずい、このままだと非常にまずい)

「テル、脱がせて」

「ちょっと、何言ってるんですか」

「テルが脱がせてくれないなら、自分で脱ぐ……」


 さらに迫ってくるルビーから後ずさりしていたテルもついに壁際まで追い詰められる。息がかかるような距離までルビーが迫り、下着を下ろし始めようとする。


「ストップストップ!」

「どうして?」


 テルがルビーの手を抑え、脱ごうとするのを止めさせる。ルビーは何故テルが止めにかかったのか、理解していない様子。


「どうして、どうして嫌なの?テルは私の事が嫌いなの?」

「いや、そういう問題じゃなくてですね。ほら、雨も止んだみたいだし、屋敷に帰りましょう。うん、そうしよう」


 そう言い切るとテルがルビーを押し離し、荷物をまとめる。それを見たルビーは残念そうな表情で、上着を着る。

 結局、事故が起きる前に連れ込み宿を後にし、二人は屋敷へと戻って行った。


 ――屋敷へ戻り玄関に入るや否や、ご立腹のフィーネが仁王立ちしている姿がテルとルビーの目に入る。


「遅い、遅すぎます。何をしていたんですか?」

「「すみません」」


 空は月が目立つ程度に薄暗くなっており、フィーネの言う通り遅い帰宅であった。しかし”何をしていたか”などとても口にできない。正確には何も起きなかった、起きかけたけど……


「何してたんだっけ?」

「そうだなぁ俺も覚えてない、はははは……」


 束の間の酔いから覚めたルビーは自分が何をしていたのか覚えていないようだ。テルにとっては幸いだ。これで一部始終を覚えていようものなら、後々面倒事になるのは避けられない。

 いや今はそんな事より、フィーネの機嫌をどう修復するかだ。


「これ以上深く詮索しませんが、使用人としての勤めであることは忘れないでください。よろしくて?」

「「はい。すみませんでした」」

「それにしても、あなた達、随分と仲睦まじくなったように見えるけど、気のせいかしら?」

「気のせいです、いつもどおりですよ」


 何を感じ取ったのか妙な事を言い出すフィーネ、それに対しテルは即否定する。事故は起きてない、起きてないんだ!


「そんなことより、フィーネさん。お詫びと言うわけではありませんが、お気に入りのケーキを買ってきました」

「まぁ、素晴らしい心がけですわ。使用人として主人に言われなくとも気が利いた行動を。あなた達も使用人として板に付いてきたみたいね」


 ケーキを献上すると、分厚い雲が一瞬にして消え晴れ渡るかのような表情になったフィーネ。年相応、甘い物を前にして喜ばない女の子はいないということだろうか。

 その後、フィーネは夕食後に紅茶と共にブランデーケーキを機嫌良く食した。

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