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幼馴染のソーサラーと盟約の冒険者  作者: 猫街道
I.平和な日々の終末
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2.昼下がりの街

「待たせたなルビー」

「お疲れ様、冒険者さん」

 揶揄(からか)うような笑顔の上目遣いで出迎えてくれた少女、幼馴染のルビーである。腰程まで伸びるサラサラとした銀髪は今日も若草色のリボンで結ばれしっかりと整えられている。


「今日も大冒険をしてきた冒険者テルですよー。今日は何処へ付き添いましょうかお姫様?」

「お、お、お姫様……」

 ”冒険者”と揶揄われたので”お姫様”と揶揄い返してみると、ルビーは前を向いたまま目を見開き照れた表情を浮かべる。


「い、いつもの所……」


 ルビーはテルにエスコートされるが如く、くっつきながら人通りの多い街中を行く。

 ルビーは内気で、重度の人見知りである。村から街に用事がある際は、いつもこのような調子で付き添っている。幼い頃からの付き合いなため面倒だと感じたことはないのだが……今や、傍から見たらデートしている男女にしか見えない年齢である。


「今朝は、街まで誰と来たんだ?」

「村長と一緒に来た。馬車に乗せてもらった」

「ふーん。んで、村長となんか話したか?」

「何も話さなかった……」

 ルビーは首を振る。


(やはりか、いやそうだろうなとは思ったけど。村長も気まずかっただろう、すみません村長……)


 いくつになってもルビーの内気な性格は変わりそうにない。そんなルビーが心を許している数少ない相手の一人がテルである。

 他愛もない話を続ける。


「最近、親父さんの体調はどうだ?」

「あまり良くないみたい……」

「そうか…… 見舞いに何か買っていくか……」

「そうね……」

 …………心を許している幼馴染相手でも、こんな具合に基本的に会話は長続きしない。

 不愛想な感じは一切ないのだが、純粋に会話が苦手なようで言葉が続かない。


 しばらく間が開きなんとなく気まずい空気に染まっていく。これもいつもの事ではあるが……


 そうこうしている内に”いつもの所”へやって来た。

 ルビーご指名のいつもの所とは、装飾品を扱う露店である。装飾品といってもセレブでゴージャスな高級品を取り揃えた大層な店では無い。質素な髪留めだったり、ブローチなどを取り揃えた露店だ。


 ここでは、女の子が試着して男に対し感想を求めるといったイベントとは皆無である。そんなイベントがあろうものなら、恥ずかしさのあまりルビーの顔は茹で上がってしまうだろう。

 ルビーはいつもの所でいつもの物を買い足すだけなので、そんなイベントは自動的にキャンセルされるのである。


「これを5つ。あ、あと……こ、これもください」

 おどおどしながらも本人なりに勇気を出したのだろうか。いつもとは違う装飾品を1つ頼んだルビー。

 子供の頃からいつも若草色のリボンで後ろ髪を結んでいるルビーだが、この日は黒と赤の混じったリボンも購入していた。


「珍しいな、若草色以外のリボンなんて」

「こ、これはその…… たまにはいいでしょ」

(若干恥ずかしそうな顔をしている辺りから察するに……あまり突っ込まないでおこう……)


「テルも用事あるんでしょ?」

「あぁ、武具屋に寄ってく。矢を買い足しておきたいからな」

「ふーん。最近は片田舎の護衛任務でも、矢を射るほど物騒(ぶっそう)なの?」

「いやそういう訳ではないけど、備えはできるだけ多くしておいたほうが良いだろ。護衛の仕事以外で矢を射る局面に遭遇しないとも言えないしな……」


 どういう話の脈絡なのか、ルビーは唐突(とうとつ)に忘れたい幼少期の思い出話を掘り返してきた。

「昔は冒険者気取って私の事を連れまわしてたのにね」

「やめろ……あれは黒歴史だ。ルビーを危ない目にも遭わせたしな……」

「でも嫌いじゃなかったよ」

「ふーん、そうか……」

「足ガクガクさせながら剣構えてたよね」

(ルビー、一番思い出したくない光景を覚えてやがった!)


 薄ら笑いを浮かべるルビー。早くこの話題を終わらせたいテル。

 ふとルビーの首元を見ると赤い六芒星(ろくぼうせい)のチャームをつけていた。

 思い返すと、幼少期に森の廃屋で見つけてルビーにプレゼントしたものであった。今思えば得体の知れないガラクタだと思うが、ルビーは首飾り用に加工してまで大事そうに身に着けている。


「その星の飾りまだ持ってたんだ、本当に物持ちいいよなルビー。もっとちゃんとした飾りくらい買ってやるぜ?」

「ありがとう。でも、これは縁起が良いお守りなの。それにテルがくれたプレゼント、すごく嬉しかったから……」


 照れながら小声でそう答えるルビー、後半は小声過ぎて聞き取れなかったが本人は飾りを気に入っているようだ。これだけ気にってくれてるのであれば、子供の頃の”冒険者ごっこ”も収穫があったのかもしれない。



 ――カラカラン…… 店の扉に括り付けられた鈴が鳴る。

 店内には誰一人客がおらず閑散(かんさん)としており、髭を生やした店主は暇そうに本を読んでいる。鍛冶屋の選別落ちした剣や、遺留品の防具などを扱っている寂れた武具屋である。仮にも売り物であるのに埃を被っていたり、光沢を失いザラザラになった金属類の武具。いつまで経っても廃業する気配が無いのはシトラスの街の不思議の一つであるとテルは思う。


「おう、テルの冒険者さんか」

「生温い護衛任務しかやってない冒険者だけどな。矢を買い足しに来た」

 普段から客足が少ないせいか、頻繁に訪れているわけでもないのに店主に顔を覚えられている。もちろん常に付き添っているルビーの顔を知らないわけはないが、内気な性格であることは重々承知しているので、敢えて絡まないようにしてくれているのだろう。


「通常の矢を10本、あと魔獣用の矢を5本頼む」

「はいよ、少し待ってな…… にしても、魔獣用の矢とは物騒だな…… 魔獣相手の商売でも始めるのか?」

「進んで魔獣と対峙(たいじ)するような冒険なんかお断りだ。そもそも、この国の魔獣討伐は正規軍だけで事足りてるだろ」

「そうだな、この国は魔獣の個体数自体が少ないからな。たまに報奨金狙いで魔獣に手を出して帰ってこなくなる冒険者もいると聞くが、まぁあんたはそんな真似しないよな……」

「そうだ、俺は楽で生温い護衛任務専門の冒険者だからな。魔獣用の矢は万が一への備えだよ」


 硬い毛皮もとい外装を持つ魔獣相手に弓矢で有効打を与えるのであれば、通常の鋼鉄製の矢尻では役不足。シュピル鋼と呼ばれる特殊な鋼を用いた矢尻でなければ魔獣の毛皮を突き破る事ができないという。当然普通の矢に比べると値が張る。


 店主が店の奥から在庫をかき集め、カウンターに並べた。

 通常の矢が5本、魔獣用の矢が5本……


「店主、本数間違えてるぞ」

「いまウチにある鋼鉄製の矢(通常の矢)はそれで全部だ。このところ、市場への流通量が激減している。軍が大量に仕入れていくという話もあれば、そもそも生産量が減退したという話もあるが詳しいことは俺にもわからん……」

「軍事的な動きに関心は無いが、今ある分だけでも貰っていく。どうせ練習くらいでしか使わないから十分だろう」

「まいどあり。さて、今日はもう店仕舞いだ」


 お代を払い、店を後にするテルとルビー。昼過ぎにもかかわらず、店主が店仕舞いを始めている。なぜこんな調子で潰れない、この店は……


 ――街の中を少し歩くと、広間に人だかりができており、力の籠った声が聞こえてくる。人だかりの中心では教会の大司祭が声高らかに演説を行っていた。


「国、教会、民の絶え間ない努力により20年前、忌まわしき魔法使いはこの国より駆逐された。魔法使いの恐怖、魔獣、疫病(えきびょう)という苦難の時を乗り越え我々は平和なこの時代を作り上げた。そして現在この国は科学の英知により素晴らしき発展を続けている……」


 演説を横目に、早足で人混みの広間を抜け出す二人。いつも以上にルビーはテルとの距離を詰めて歩く。


 子供の頃にルビーが見せた力も忌み嫌われる”魔法”に属するものであるということは二人とも薄々と認めている。

 テルとルビーが生まれる前の事ではあるが、国と教会は”魔女狩り”と呼ばれる非人道的な活動を行っていた。魔女、正確には男の魔法使いを対象に公開処刑だの奴隷として徴用されたという。

 20年前に魔女狩りは終焉を迎えた、テルとルビーが生まれる前の事である。

 時の流れとともに人々は(かつ)て魔法使いが存在したという史実も忘れかけている。

 それでもルビーは後ろめたい気持ちを消せないでいるようだ。だからこそ、一番近くにいる自分がルビーの支えにならなければいけないし、ルビーの力の事は二人だけの秘密にしておかなければいけない。


「大司祭、夕方には村にも来るんだって……」

 不安げに大司祭が村にやってくる事を伝えるルビー。


「大司祭が村にねぇ…… そっか、ノエル祭だったな今日は…… 不安なら一緒にいようか?」

「ありがとう、でも大丈夫。今日はお父さんの傍にいるから」


 自分の事を気にかけてくれていることを嬉しく思いつつ、気を使わせたら申し訳ないという気持ちなのだろう。


 街から歩いてしばらく、シトラスの街からそう遠くは無い場所に位置する村が見えてきた。

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