表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドアノブ

作者: 因幡白兎

「ただいま……って、誰もいないんだよね……」

玄関の鍵を開けて家に入る。今は十八時。両親は共働きで帰りは遅いから、家の中には私以外誰もいない。私は玄関の鍵をかけ直し、居間のテーブルの上の書置きを確認する。

「えっと、今日のご飯は……冷やし中華ね。冷蔵庫の中、 っと」

冷蔵庫の中に冷やし中華があるのを確認して、まだ夕食を食べるような気分ではないので、自分の部屋に向かった。


おそらく、三十分くらい経っただろう。そろそろお腹が空いてきた私は、居間に戻ってご飯を食べることにした。

「……っ!?」

自室のドアノブに手を掛けた時、私の手が止まった。正確には、ドアノブが動かなかった。まるで、外側から誰かがノブを握り締めているかのように、びくともしなかった。私の部屋のドアには鍵は付いていない。だからドアノブが回らないわけないのだ。ドアが壊れたという可能性もあるが、何よりも私が先に思いついたのは『ドアの外に誰かがいる』という可能性だった。

疑心暗鬼、というやつだろうか。一度思い込んでしまうと、そう思ってしまうのが人間である。外に人がいると思ってしまったためか、ドアの外から僅かに人の気配を感じる。小さいが息遣いも聞こえてくる。

私は怖くなって、部屋の窓を開け、部屋から逃げ出した。幸い、私の部屋は一階にあるため、窓から容易に出入りできる。私は地面に降り立つと、そこから玄関に向かって駆けだした。

幸運というものは続くもので、玄関に着くと、母が帰宅していた。不思議な顔をする母に一連の事情を話すと、そんなことあるわけないじゃない、と笑われた。いや、本当に怖かったんだって……。

とにかく母に鍵を開けてもらい、再び家に入ると、私は母と一緒に自分の部屋に向かった。ドアの前には誰もいなかった。

「なぁんだ。やっぱり勘違いかぁ……」

安堵に胸を撫で下ろしながら、私は部屋のドアに手を掛ける。少し引っかかる感じはあったが、ドアはちゃんと開いた。

「まあ、古い家だから何かの弾みにドアが歪んだのかもね。今度、修理してもらおうか」

母はそう言うと、居間の方へと向かった。

部屋にも特に何もなかったが、私は若干の違和感を感じた。まあ、些細なことだろう、と思い、部屋の窓を開けて外の風を浴びる。心地良い夏の夕暮れの風が私を撫でる。

その瞬間、背後でガタッと音がした。驚いて振り返ると全身黒ずくめの性別不明の人影がいやらしい笑顔を浮かべて立っていた。えっ? 誰?

そう思うのと同時に、私は先程の違和感の正体に気づいた。

私は窓を開けて外に出たはずだ。恐怖に駆られていたので当然窓は開けっ放しにしたはずだ。それがどうして、今、私は窓を開けられたのか・・・・・・・・・? そんなの、誰かが閉めたからに決まっている。つまりこいつは、さっき部屋のドアを開けられないよう、外からドアノブを握っていた人物ということになる。

私はまた恐怖に駆られたが、精一杯勇気を振り絞って叫ぼうとした。しかし、お腹に激痛が走り、それは叶わなかった。

一瞬、何が起こったのか、理解できなかった。

多分、私が叫ぶために息を吸い込んだのが分かったのだろう。人影が私のお腹を殴ったのだ。

「ぐふっ……」

私の口から吸い込んだ空気と一緒に低い呻き声が漏れた。

それでも満足しなかったのか、人影はもう一発、またもう一発と私のお腹を殴った。

「うぐっ……もう……やめ……ぉえっ!」

お腹を繰り返し殴られたせいで、私は思いっきりお腹の中身をぶちまけた。幸い、空腹のため胃液しか出なかったが、私はそれで完全に脱力し、胃液が撒き散らされた床に倒れこんだ。

朦朧とする意識の中で私が最後の見たものは、何かきらきら光るものを手に持って笑う、人影だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ