『RPGの洗濯屋さん〜鎧、兜、やります。』【一画面小説】
「また明日の朝一番で出るんだ…いつも通り頼むよ。」
なぜ戦士たちは、『朝一番』にこだわるのだろうか―。「化物共も寝入っている時間だから」などは客からよく聞く話だが、何も寝入っているのは化物ばかりではない。私の犬も、獣だが寝息を立てている。私の嫁は、夜以外は獣ではないが、寝息を立てている。私は、獣ではないが、寝息を立ててはいない。早く寝息を立てたいところだ。
眠気覚ましのコーヒーがすっかり冷めた。鎧のアンダーシャツというものは、水気を飛ばしてから火にあてていれば、パンが焼ける程度の時間で乾くものだ。私は今、洗い桶の上の物干し竿に掛けたアンダーシャツを、ただじっと眺めている。
その戦士が連れの仲間へ漏らした、「前の店で焦がされたことがある」だの、「そのニオイで戦いに集中できなかった」だのという言葉が耳にさえ入らなければ、私は火にシャツをあてて乾かせ、この仕事をとうに終えていただろう。コーヒーが冷める前、私の目が冴えてしまう前には寝付けたはずだ。
「まぁよ、何度も世話になりたくなる良い職人ってのはよ、頼まれた以上のことをしてくれる奴を言うのよ」―暗く、少し肌寒い空の下、きしむ椅子の音だけが響いている朝に、私はふと、師の言葉を思い出した。