When bliss, the sunrise is shining.
あの日からどれほど歩いただろう。
既に5つも街を回った。
街によっても異なるがそれぞれ何年かづつ滞在していたこともあった、そこではギルドで仕事を受けて報酬をもらって、それで食いつなぐ必要もあった為だ。
ユークリッドにまだ世界を全然見せられていないはずだ。
まだ旅を続けようと思う。
14年という月日はあっという間に流れていった。
俺はその14年の間でそれなりに強くなった。
もう19歳らしいが、ここならユークリッドと楽しく暮らせるかもしれないと思える場所はなかった。
ユークリッドは恥ずかしがり屋だからあんまり人の多いところは難しいかもしれない。
でも人が居なかったらユークリッドはひとりぼっちで可愛そうだ。
程々がいいよ。
次の街はどんな街か楽しみだね、ユークリッド。
新たな街に着いた。
やることは決まっている。
宿をとって、それから街を歩き回る。
そして街にどんなものがあるかユークリッドと一緒に見て回るのさ。
腹の虫が鳴る。
近くに喫茶などがあれば寄ろう。
首を抱え歩き回る姿を見て驚くものは少ない。
誰もが俺のことを認識しているからだろう。
有名になったものだ。
子供の首を抱えた『歩く死者』がギルドの仕事を片っ端からこなしていくという噂が出回ったらしい。
確かに目立つが大したことないのにな。
一つ前の街で子供の教育にリビングデッドが来るぞーという脅しを使われ始めた時には本当に驚いた。
俺悪いことしてないのに、なんでだろう。
ともかく、昼食が取れそうな喫茶を見つけたので入る事にした。
しかし昼時というだけあってどの席も人が座っている、座れそうな席はないなと感じつつも辺りをを見渡す。
すると、ある男女のカップルに目が止まった。
男の方のがすごく特徴的だった。
「あいつ…腕がないのか?」
俺が見ていることに気付いたのか女の方になにか話しかけている。
ゆっくりと彼は立ち上がりフラフラとこちらに向かって歩いてくる。
「よぉ、おめェ見ねぇ顔だな…この腕が珍しいか?」
「いや、仲睦まじいカップルだなって思っただけだ…あーんなんて普通恥ずかしくてできねぇよ…」
「あっはっはっ!お前こそそいつは彼女か?ん?聞いたことあるな…幼女の頭持ち歩いてる変態がいるって噂…マジだったのか…ってことはおめぇさん」
「「歩く死体」」
「あっはははははは!まさか生きてるうちに会えるとは思わなかった!俺はケテルあそこの席に座ってんのは俺の嫁、タウミエルだ」
俺たちの目線が彼女へ向かうと彼女は表情を変えずに会釈する。
「ここであったのも何かの縁だ、一緒に食おうぜ、奢ってやるから来いよ!もちろんその手に持ってる彼女も一緒でいいからよ!」
特に断る理由もなかったので相席することにした。
ケテルはすごいお喋りな男だった。
会話ばかりでろくに食事が進まないんだが?
「ところで聞きてぇことがあるんだが、おめぇ名前なんてーの?知らねぇと不便だろうしリビングデッドって呼び続けるのもなんか悪いし…よければ教えてくんね?」
随分と気さくな男だ、こいつを見てるとヤツを思い出すな。
「…ディーオだ、そして彼女はユークリッドだ」
でも不思議とこいつは悪いやつじゃないと俺の当たらないカンがそう言っている。
それだけで名を名乗るに値するとも。
「ディーオとユークリッドちゃんか!んじゃ俺らも改めて自己紹介と行くかねぇ」
ケテルはフラフラと立ち上がり椅子に片足を載せて大声で話し始めた。
「俺様の名前はケテル!この街最強の冒険者!…だった男だ…しかぁし!このちぎれた腕と引き換えにドラゴンを殺したことは間違いない!聞けぇ!皆の衆!ここにおります我妻タウミエルは、かつて殺したドラゴンの嫁!そう!彼女もまたドラゴンなのだ!そして今は私の嫁!美しいだろう?誰にもやらねぇけど!」
周りの客はまーた始まったよとも言いたげな表情6割、迷惑だと思ってる奴が2割、いいぞもっとやれと煽るやつが1割、その他が1割ぐらいでこれを話の種としてつまみに昼間から酒を飲んでいる。
おおよそ日常茶飯事で何日かに1回程度ここで話でもしているのだろう。
店の人はもはや慣れたように横を無視して素通りする。
意外とこいつはヤバいやつかもしれないなと思った。
「そういえばさっきタウミエルさんがドラゴンだとか言っていたが本当なのか?」
「本当だ、気になるか?しかしこいつぁ俺以外に尻尾を見られるの極端に嫌がるし、何より俺が見せたくねぇな」
まぁ、そのへんはこの夫婦と関わって行くのならそのうち分かるだろう。
「嫌なら無理に証拠を見せろなんて言わないさ…そうだ、しばらくここの街に腰を落ち着けたいんだがいい家とかあるか?こいつと一緒に住めるぐらいの簡単な感じの家がいいんだが」
「あぁ?んなこと俺に聞いてどうするってんだ、俺らは冒険者であって商人じゃねぇんだぞ?…まぁ、宛がない訳じゃないが…分かった、整えといてやる明日暇なら明日の昼頃この町の中心にある肯定魔術士様の像前に集合な、遅れんじゃねぇぞ?」
「わかった」
「よし、俺たちは先に行くけどゆっくり食ってけ、ここの飯はうまいからな…ついでに奢りにしといてやるよ、また明日な」
彼らが店を出ていくまでその後ろ姿を見つめる。
出来た嫁だな、と。
「また明日…か…」
料理の乗ったテーブルに向き直し、少しぬるくなった飯を食べた。
さて、昨日の約束通りに町の中心に行くとしよう。
ユークリッドももちろん一緒だ。
宿を出て町の、おそらく中心だろう場所に向かって歩き出した何というか、景色がとても懐かしい。
ふと、ユークリッドと遊んだあの町をおもいだす。
人のいない町。
あの場所には確か俺とユークリッドしかいなかった。
そういえば何から逃げて誰と出会ったんだっけ?
…思い出せないな。
まぁ、思い出せないならどうでもいい事なのだろう。
そんな事より俺とユークリッド、二人のこれから住む家を探しに行くんだ。
楽しいことを考えよう。
そんなこんな考えているうちに予定よりも随分と早く肯定魔術師の像前へと着いてしまった。
どんな家があるのか楽しみだね、ユークリッド。
〝忌々しい魔力を感じる…〟
どこからともなく聞こえてくるしわがれた声。
〝否定属性か、久しく見ておらなんだがこんな所に封じられておったか…〟
周囲を見回すが俺とユークリッド以外で立ち止まっているヒトはいない。
〝後ろじゃ戯け〟
振り向くとそこには大きな像がある、その彫りはとても人が作り上げたものではないようにも見える。
〝何じゃ?この儂がどこにいるか分からなんだか?目の前の像じゃぞ?〟
まぁ、剣と魔法の世界だし像が喋っても問題ない…のか?
〝儂に二度も戯けと言わせるでないこの戯け…しかして、一体どういう巡り合わせかの?〟
俺の心を読み取ったかのように自分の話を続ける『何か』を見ていて思った、なんか良くないことが起こりそうな気がする。
〝何?儂に貴様を消せと申すか…まぁよいわ、儂とて貴様の痛々しい姿を見てなにも感じぬ訳では無いしの〟
俺ではない、誰かに対して語りかけるような口ぶりだ。
消す?痛々しい?何のことだ?
いったい何が起きるのだろうか。
〝肯定魔術師の名において、ユークリッド、主が星の記憶から消えることを肯定す〟
すると抱えていたはずのユークリッドの頭が光を放ち、そして消えた。
頭が痛い、記憶が流れ出すのを感じる。
痛みに頭を抑える。
「おーい!わりぃ!待たせちまったみたいだな、早速行こうぜ」
ふと頭を上げるとそこには、ケテルとその嫁、タウさんがいた。
あぁ、そうだった。
今日は俺の家を探すんだったな。
「かなり待ったからな…これはいいところを紹介してもらわないと割に合わん」
「いや予定してた時間より割と早いが!?どんだけ楽しみにしてんだか…」
かくして、肯定魔術師の像前から家探しの小さな旅に出るのだった。
〝彼奴…儂の声が聞こえておったようじゃが…あやつの未来は…くっふふふ、愉しみじゃのう〟
一つ目の物件は訳アリでゴーストの類が住み着いているらしい。
神官クラスの浄化魔法(天属性)を扱える人間ならただ同然の値段で売り出しているところらしい。
住み着いているゴーストはフレンドリーらしく浄化しなくても問題なく住めるらしいがいかんせん、死に近い場所となっているためあまりオススメはされないらしい。
安いが割に合わん、次。
二つ目の物件は、まぁボロ屋。
さっきの物件は訳アリだが、それなりに綺麗な物件だったのも相まってかなり汚く見えてしまうのもまた仕方ない。
ここも安いが豚小屋に住む趣味はない、次。
三つ目の物件は普通だった。
値段も普通、内装も普通。
しいていえば家具がないぐらいか。
揃えるのに金がかかりそうだがいい感じの部屋ではある。
キープして次の物件を見よう。
四つ目は…なんだこれ馬小屋じゃないか!
却下だ却下!
次!
それからいくつも見て回って
奴隷商が営む住宅にたどり着いた。
なんでも、部屋を貸しているだけでなくそこには備え付けとして一人、子供の奴隷が備わっているらしい。
部屋の値段プラス奴隷の値段かと思えば、なんと部屋の値段だけでいいらしいのでお得だ。
流石に殺しちゃったり、買い取らなきゃいけない状態にしちゃったら奴隷分の料金が出るらしいんだけど。
育てて奴隷商に売ることも出来るらしい。
奴隷商も人手不足らしく管理が面倒だと。
ならいっその事奴隷を預けていい感じになったところを買い取って他の所へいい値段で売りに出してしまえばいい。
もし商品にならなくなったら文句つけて金をぶんどってやればいい。
わかりやすい説明をされたところで俺はこの住宅へ住むことを決意した。
理由は色々あるのだが一番の理由は値段が安くて質がいい、だな。
今まで見てきたところより圧倒的な高待遇だった。
いい話には裏がある、だろうがまぁ大丈夫だろう。
ケテルに聞いて大丈夫という話をされたからな。
騙されてたらおしまいだけどその時はその時だ。
俺は奴隷商から渡された鍵と先程選んできた奴隷を連れて住宅へと向かった。
ケテルからロリコンとか言われたけど別にそんな意図があってこの奴隷を選んだわけじゃないからな。
数週間がたった。
奴隷の調子も良好だしある程度必要な家具も揃ってきた。
奴隷にユークリッドという名前をつけた、我ながらなかなかいい名前だと思う。
これからどんな成長を見せるのか楽しみだ。
ユークリッドが言葉を覚えた。
まだ拙いがそれでも頑張って言葉を覚えようとする姿はとても愛らしかった。
さらに数週間。
ユークリッドが家事を覚えた。
初めは雑巾がけぐらいしか出来ていなかったが、徐々に料理のしかたや洗濯、その他諸々を教えていた甲斐があり今では日常生活を送る主婦並みのことはこなせるようになっていた。
一年が過ぎた。
ユークリッドは7歳になったが、おおよそ学校と呼べる機関がないので文字を知らない。
流石に不便もあるだろうと文字を教えてやった。
ユークリッドはとても喜んでいた。
さらに一年が過ぎた。
ユークリッドは8歳になった。
種族的には成人年齢らしいが人族目線だとまだまだ幼く見える。
ケテルがロリコン扱いしてた理由が今になってわかる。
今日の日記を書き終えて、背伸びをする。
「ディー、何書いてたの?」
「お前の成長日記だ、見たいか?」
「見たい、どんなこと書いてるのか気になる」
「あんまり見せられたもんじゃないけどそんなに見たいならいいぞ、ほら」
今しがた閉じた日記をユークリッドへ手渡す。
はじめの頃はとてもみすぼらしい姿をして、とてもやつれていた彼女だったが今となってはどこに出しても恥ずかしくないぐらいの絶世の美少女だ。
髪の毛は透き通る程白く、肌の色はチョコレートのような褐色、瞳は燃えるような赤。
顔立ちも整っており何よりその年齢相応の成長具合もなかなかにいい。
それ故に、奴隷商から幾度となく買い取らせてほしいという相談が来たが全部突っぱねた。
当たり前だ。
この子は何があろうと俺が守らなきゃならない大切な家族だ。
そういえば昔にも誰かを守らなきゃって思ってたこともあったけど、誰のことだっけ。
「ディー、えっち」
ユークリッドはジト目プラス頬染めで俺の方を見ながらあるページを開いて俺に見せてきた。
何のことかと思って見せてきたページを見るとそこに書かれていたのはユークリッドの年間成長記録、身長とか体重とかまとめてあるやつだった。
いや待て、何だってこれでえっちに繋がるのかわからんぞ?
年頃の女心はわからん。
その次の日、一日口を聞いてもらえませんでした。




