It is like a lullaby.
翌日、目が覚めたら既にユークリッドは居なかった。
イドやENDLESSに聞いても知らないという言葉が帰ってきた。
いったいどうなっているのか意味がわからなかった。
ENDLESSはその事を聞いてからすぐに走り回って情報を集めてくれているようだ、しかしそれでも情報がうまく集めることが出来ていないようだった。
1度戻ってきて状況を確認してすぐに飛び出していったその背中を覚えている。
イドに関してはユークリッドを探す素振りすら見せなかったが、何かを隠しているようにも見えなかった。
一応ギルドに依頼として張り出してくれたのだけは救いかもしれない。
俺は街中をひと通り歩き回って探そうとしたのだが、ENDLESSから子供にさせる訳にはいかないからここで待っていて欲しいと念を押されてしまった。
本当はわれを忘れて探して回りたいが、体力が持たない。
そう感じていたからこそ、ENDLESSを信じて、ギルドに来る冒険者に話を聞いてまわっていた…のだが、有益な情報はひとつも得られず昼になってしまった。
「ENDLESSのやつ…まだ帰ってこないのか…」
そろそろ何か一つでも情報が出てきてもおかしくはないはずだのに、その端すら姿を見せない。
ユークリッドはいったいどこへ行ってしまったのだろうか。
「突然消える…最近あった出来事…使える魔法…もしかして!?」
魔法の暴発?
いやそんな馬鹿な。
ユークリッドは自分の存在を否定するような娘ではないはずだ。
ユークリッドはアレでいて自分の事が大好きだからないと思う。
いや、主観でしかないか…
突如、バァン!とギルドのドアが勢いよく開かれる。
そこにはENDLESSの姿があった、いつもの少しおどけた顔ではなく、とても真剣な表情をしている。
ずかずかと大股で俺の近くに進んでくる姿は少しおっかない。
「いい報告と悪い報告がある、どちらが先の方がいい?」
とても真剣な面持ちで俺の方を見てくる。
良い知らせはおそらくユークリッドが見つかった。
悪いお知らせは不明、なら先は悪い知らせからだろう。
「悪い知らせからお願いします」
「悪い知らせは近々、世界規模で戦争が起こるらしい、その戦いに否定魔術を使う魔女が参加するという話を聞いた」
「は?」
戦争に否定魔術使いの魔女が参加する?
否定魔術と言えばユークリッドのことを思い出す。
否定属性の魔法を使える人間は他にもいるのだろうか…認めたくないだけだな。
参加する否定魔術使いの魔女は間違いなくユークリッドの事だろう。
だがしかし、なぜその戦争に参加しようと思ったのだろうか。
彼女は少し臆病でとてもおとなしい子だ。
彼女は人がたくさん死ぬ戦場に自ら向かうわけがない。
それはENDLESSが知っているだろうか。
「次…いい知らせを教えてください…」
「ユーリを攫った犯人と居場所が分かった」
うん、だろうと思った。
むしろここでいい知らせというのだからそうでなくてはならないだろう。
「ユーリはどこに?」
「ここから遥か北にある魔界と現界を繋ぐ門に向かって進行中の軍に連行させられている」
「分かりました、向かいましょう」
即決。
当たり前だ、ユークリッドのためなら俺はいくらでも命を差し出そう。
「犯人は聞かないのかい?」
「イドでしょう?」
「ご名答、なぜ気づいたんだい?」
「あいつの態度が昨日とまるっきり違ったからです」
「なるほど」
短い会話を交わし急ぎ足でギルドを出る。
目指すは北、行軍中の軍隊に向けて。
絶対にユークリッドを取り戻してみせる。
進軍せよ!
我々は誇り高き人間族なり!
我々人間族を脅かす魔族共に鉄槌を!
猛々しい雄叫びが反響する、行軍中にそれをやってはスタミナを消耗するだけなのでは?とも考えるが士気を高めるための発破のようなものなのだろう。
会話もなく進むよりこうしていた方が恐怖心も薄れる、そう考えた兵隊共の叫び声。
揺れる馬車の中、一人の少女が目を覚ました。
幼い彼女は自分が今どのような状況にいるのかわからずパニックに陥ってしまった。
声は出ない。
彼女はパニックを起こしても絶対に叫ぶことは無い。
叫べば殴られる。
そういう、教育をされて育ったからである。
周囲にいた他の少女達は怯える彼女の姿を見て、寄り添う様に集まってくる。
その馬車は幼い少女ばかり集められていた。
恐らく兵隊の慰みものになるために連れてこられたのだろう、ユークリッドを除いて誰一人として衣服をまとっていない。
しかし首輪だけはしっかりと付けられている。
ユークリッドは少女達の抱擁で少しづつ落ち着きを取り戻し、ようやく周りの状況を見渡すことが出来た。
まず初めに、ここはどこだろう。
「ようやっと落ち着いたね…私はユートラ、ここは…戦争に向かう馬車の中だよ」
14歳ぐらいの少女が話しかけてきた。
「…せんそう?」
ユークリッドは自分が置かれている状況がうまく飲み込めないでいた。
わからないことが多い。
理由としてはまともな教育を受けていないためだ。
「あんただけ特別なんだか知らないけど服いいな、暖かそうだ」
「…着る?」
「いんややめとく、あんたの剥ぎ取ったら後で兵隊さんたちに何されるかわかったもんじゃない」
やれやれと言ったように両の手を肩の高さに上げて首を横に振る。
「あたしはね、妹たちのために自分を売ったのさ…それで今は兵隊たちの慰みものになっちまったけど、たまに妹達の元気な姿を見に行かせてもらえるだけ良かったよ」
突然自分語りをしはじめたユートラは、少し悲しげだった。
「だけどそれも今回の戦争で終わりかねぇ…」
「…どうして?」
「何でも世界を巻き込んだ戦争らしいんだよ、魔界と現界、つまり魔族と人族の世界大戦だ、この戦争に負けたら人族は滅ぶ、魔族が負けたら人族が滅ぶ、二つに一つなんだよ…って少し難しかったかな、悪い悪い」
悲しげな表情のまま笑う彼女はそのまま話を続ける。
「勝てる戦らしいけど、何でも否定魔術使いの魔女が参加するらしいから負けないはずだって兵隊さんたちが偉そうに言ってたの覚えてる」
彼女の目はどこか虚ろだった。
「あたしの妹達は可愛くてさ、みんないい子だったんだよ、んで昨日これで最後になるからって会いに行ったんだ、そしたら行かないでって止められちゃって…でも行かなきゃあいつらを助けてやれないから…だからここにいるんだけど…いるんだけど…」
脈絡がなくなり始めた会話、独り言を繰り返していくうちに彼女は涙を流し始めた。
それは伝播するように周囲に広がる。
これから死ぬのだという恐怖と、知らない男たちの慰みものになるということへの屈辱とが入り混じって悲しみに包まれた。
世界が大変になっている?
知ったことではない。
ユークリッドさえいれば俺は何もいらない。
ENDLESSの背中におんぶされながら俺はそう考えていた。
エンドレスは早い。
馬よりも早いのでは?と感じるほどの速度で走る。
この世界で鍛えるというのはここまでの強さを獲得できるということなのだろう。
そんなことよりもユークリッドが心配だ。
まだ戦争自体は起こっていないらしいがこちらの軍勢に気づいた魔族の軍が強襲してこないとも限らない。
「もっと早く走れませんか!?」
「ごめんよ、これが限界だ、しかしまぁなんだね、落ち着いてくれていると嬉しいかな、ユーリちゃんは絶対に助けたいと思ってるから、だから僕は全力で走ってるんだけれど意外と行軍早いねぇー、結構走ったと思うんだけどなぁ…まぁでももう少しだと思うよ、それまで僕の背中で寝ててもいいからね、僕は気にしないから大丈夫、君たち、子供の未来を守るのがこのENDLESSの願いにして信念だからね!だからほら元気出して!僕らは絶対にユーリちゃんをたすけるぞー!おー!なんちゃって、あ、見えてきたんじゃない?あのちっちゃい人影、軍隊っぽくない?なんか馬車みたいなの見えるしそうだって!きっとそうだよ!やった!追いついたんだ!」
はしゃぐENDLESSと背中のディーオ。
ユークリッドがすぐそこまで迫っている、待っていてくれ、今助けるから。
次の瞬間爆音とともに規模の大きなきのこ雲が生まれた。
何かが爆発したのだろう。
耳鳴りがする、近くで大きな爆発があったみたいだった。
戦争が始まったのだろうということはおおよそ予想がついた。
先程まで続いていた復唱が爆音と同時に止み、雄叫びに変わったからだ。
戦争が始まった。
突如、馬車の幕が開かれる。
何人かの兵士が馬車の中へ入ってくる。
一番偉そうなやつが口を開く。
「どれが否定魔術使いの魔女だ?ええいめんどくさい!全員連れて前線へ向かうぞ!さっさと馬車から降りろ!」
ユートラだけ他の兵士から顔面を意味もなく殴られていたのが見えた。
でもどこか喜んでいたようにも見えた。
ようやく追いついた頃には戦いの真っ最中だった。
まだ否定属性の魔法が使われた形跡がないことだけなんとなく分かった。
ただ、心がざわついている…あの時と同じような感覚に陥る。
あのときはギリギリ守れた、今回も、守れるだろうか。
まずはユークリッドを探さなくちゃいけない。
待っていてくれよ?
早まるんじゃないぞ?
それは一瞬の出来事だった。
偉そうに話をしていた兵士の首から上がなくなったのだ。
周りで一糸まとわぬ裸の女の子達が悲鳴をあげる、何人かは粗相をしているようだった。
次は自分だ、と考えてしまったのだろう。
ユークリッドは非常に落ち着いていた。
父親がユークリッドの心を壊すためにペットを与えて愛情を持った当たりで残忍な殺し方をする遊びをしていた事が理由のうちだろうか。
魔族の兵士が人族の兵士を蹂躙したすぐあとの事だった。
言語はわからなかったが、だいたいやろうとしていることは理解した。
魔族の兵士たちは次々とズボンを脱ぎ始めたのだ。
ユートラはかなり嬉しそうな表情をしている。
すきなのだろうか、こういうの。
ユートラは我先にと媚を売るかのように魔族のそれをくわえる。
まるで犬のようだった、私は助けて、他のやつは全部殺していいからという様な雰囲気すら感じる。
周りにいた少女達も同じことを始めだした。
残ったのはユークリッドただ一人。
戦場でまさかこんな光景を見ることになるとは思ってもみなかった。
戦争真っ只中で乱交パーティーなんて、魔族からの余裕を感じる行動だった。
ユークリッドは彼等のものを受け入れることを拒んだ。
彼等はそれを是とせずユークリッドの首めがけて剣を振り上げる。
あぁ、また私を殺そうとするのね?
みんな消えてなくなればいいのに。
俺は地面に落ちていた、先程まで自分を背負っていた暖かな広い背中はない。どころか周囲を見渡しても人が一人もいない。
消えたのだ、一瞬のうちにして。
さっきまでここで戦争が起きていたのかどうか怪しいぐらいの沈黙。
遠くに小さな影を見つけたのでそこへ向かうことにした。
小さな影は紛れもなくユークリッドそのものだった。
ただ、その体には首から上が無かったのだ。
間に合わなかった。
俺はその場に崩れ膝立ちのまま頭のない少女の死体を見下ろす。
周りを見渡す、ユークリッドの頭らしき丸いものが落ちているのが見える。
俺はそれを拾い抱えて来た道を戻りはじめた。
街につくのにおおよそ1日かかった。
街についてすぐ奴の元へと向かう。
奴は驚愕の表情を浮かべたが、すぐ、冷静にギルドの奥へと誘導した。
「気の毒だったな…なんてーか…悪かった…」
「そんな事はどうでもいい、これに腐食を防ぐ魔法をかけろ、お前がかけれないならかけれるやつを呼んでこい、じゃなきゃ殺す」
5歳の子どもとは思えないほどの威圧感を感じたイドは言われるがまま腐食防止の魔法を生首へかける。
もう要はない。
これから旅をしようユークリッド。
二人きりで誰にも邪魔をされない旅に出るんだ。
そしていつの日か、一緒に死のう。
だからその時まで。
ずっと一緒だよ、ユークリッド。
やっとこオープニング終わり。
ユートラにはニューとリズっていう妹がいますが今後出てくることは無い予定です。
理由は簡単。
既に死んでいるから。
描写したかったけど面倒だったので省きました。
許してください。




