Even if the world breaks down, I will help only you.
最近、夢から覚めない。
それは隣国に当たる従属国からの宣戦布告で始まった。
名目は革命だそうだ。
確かにうちの国は独裁国家で資本主義の薄汚れた汚い国だけど、それでも俺にとっては生まれた国だ、なんとしても守りたい。
まぁ、もう無理だ、敵兵はもう城の目の前まで来ている。
王族は城の中に立て篭もっているが城門を破られるのも時間の問題だろう。
助からないと悟った俺はユークリッドは大丈夫だろうか、そんなことを考えていた。
俺は彼女のために何かできていたのだろうか。
そう考えた時に、俺の中の何かが外れた気がした。
そうだ!
ユークリッドを助けなければ!
考え出したら俺はいてもたってもいられなかった。
駆け出していつも通る王族専用の抜け道を通りユークリッドの家の近くの路地に出た。
シェラもいつの間にか俺の後ろを走っていた。
「母さん、俺はユークリッドを助けたいんだ!」
「止めません、お供します、我が息子」
あぁ、我が母はどうしてこう、俺のやろうとしていることを止めないのだろうか。
いつもそうだ、あれをやりたいと言えばやらせてくれる、これをやりたいから手伝ってと言えば手伝ってくれる。
幾ら何でも甘やかしすぎだよ、母さん。
でも、今は感謝だ、甘やかしてくれて。
「ありがとう、母さん」
「さぁ行きますよ、あまり時間はありません」
俺達はユークリッドの家に向けて駆け出した。
道中敵兵らしきものは一人もおらず、辺り一帯が静寂に包まれていた。
それでも、壁や地面の至る所に血飛沫が舞っていたのでここも戦場だったことがうかがえる。
違和感を覚えたが今はそれどころじゃない。
早くユークリッドの元へ行かなければ。
門を潜りユークリッドのいる庭へ向かう。
そこで俺は戦慄した。
ユークリッドが血だまりの中に倒れていたのだ、子供がフットサルをするのに丁度いいくらいのサイズある庭を覆い尽くす程の血の海の中心に居た。
ユークリッドはもう生きていないだろう、そう考えた。
しかし。
「……ディー…………オ」
小さな声だけど確かに聞こえた。
俺は服が血で汚れるのも厭わずユークリッドに駆け寄り抱き上げた。
シェラも近寄り、ユークリッドに回復魔法をかける。
「ユークリッド!しっかりしろ!生きているなら返事をしてくれ!」
「ディーオ、ユークリッドは生きています、外傷もありません、気を失ってはいますが」
良かった、そう思った次の瞬間、目の前にいたシェラの胸を剣が貫いた。
「シェラ!」
剣は即座に引き抜かれ俺の目の前に突きつけられた。
剣を持っていたのはユークリッドの父親だった。
「どうだい、親を殺される気分は、僕は実に愉快だよ」
ケタケタと歪な笑みを浮かべながら俺に語りかける。
「僕はね、そこで寝転がっているクソガキに親と娘を殺されたんだ…あぁ、あの時は楽しかったなぁ!」
剣を引き俺を蹴り飛ばす。
俺は腹を抑えて転げ回る。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「痛いか?痛いよなぁ!俺の両親と娘はこいつに痛みもなく殺されて可愛そうだよなぁ!こんなに愉しいこと他にないのになぁ!」
剣を向けて歩きながら俺の元へと寄ってくる。
「なのにさぁ、こいつだけ楽しそうに笑ってんだぜ?殺したくもなるだろ!でも殺せなかったァ!この国が!法律がァ!全てが邪魔だった!殺したら捕まって今まで築き上げて来たものが全部台無しになる!そんなのあんまりじゃないか!そこでグースカねてるクソガキが法で裁けなかったのが全ての原因だ!これから国が滅びるのも、これからお前が死ぬのもさっきお前の母親が死んだのも全部お前ら王族のせいだよ!だから死ねよぉ!お前ら全員殺して俺も死ぬ!それで全部終わりだァ!」
「…狂ってる」
「じゃあねーバイバーイ」
俺の目の前で構えられていた剣が大きく振り上げられ、振り下ろされる。
ドサッ。
大きな音が俺の耳横から聞こえた。
俺の顔の横に大きめの剣が地面に刺さっていた。
ついさっきまで剣を振りおろそうとしていた奴はいない。
どこへ消えてしまったのか、俺は分からなかった。
そしてそのまま気を失ったのだった。
誰かに揺さぶられている。
「……て……きて…起きて…」
徐々に覚醒していく俺は夢でも見ているようだった。
俺は生きている、ユークリッドも生きている。
しかしそこには気絶する前にあったものがほとんど無かった。
血の海も、壊れたユークリッドの父親も、死んだ我が母シェラもいない。
ただただそこにはいつも通りの殺風景な庭だけがあった。
「え?一体どうなってるんだ?」
そしてすぐ異様な雰囲気が漂っていることに気がつく。
気を失う前まで悲鳴や雄叫びが至る所から聞こえていたのに、あまりにも静かすぎる。
ここにいるのはまずい。
そう感じた俺は次の言葉を発するよりも先にユークリッドの手を取って走り出していた。
俺達は町中を走り抜けてゆく。
気絶する前まで戦場だったとは思えないほど街は静かだった。
人も動物もなんの気配もしない。
俺はそれが恐ろしくてたまらなかった。
一刻も早くこの場所を出なければという警鐘が頭の中で大きな音を立てながら騒いでいる。
かなり走ったと思う。
体力も底をつき息も絶え絶えになって倒れた場所は見知らぬ草原だった。
いつの間にか王都の外に出ており、走ってきた方には城下町と城を囲むおおきな壁が立っていた。
周囲には武器が散乱している、ここも戦場だったのだろうか。
そうだ!?ユークリッドは!?
周囲を見回す。
俺と同じように走り疲れて近くに倒れていた。
悪いことをしてしまったと感じるが、この“壁の内側”にいるよりはずっといい、呼吸が落ち着いてきたら近くの街に逃げよう。
旅人がいたら同行させてもらおう。
俺はそう考えて声をだそうとするが、かすれて声にならない。
ユークリッドの方もなにか喋ろうとしては咳き込み、なにか喋ろうとしては咳き込むを繰り返している。
多少なりとも鍛えている俺ですらこれほどまでに疲れているのだ、ユークリッドからしたらとてつもないだろう。
それでもなお、なにかを言おうとしている姿が見えるので地面を這ってユークリッドの元へ移動した。
「……ゆー…く…リッドぉ…大丈……夫か…?」
ユークリッドはコクリと首だけ動かした。
とりあえず大丈夫そうなので隣で横になる。
汗だくになった顔や手のひらなどには地面を這って移動した時についた土がついていたが、とる気にもならなかった。
俺はユークリッドの隣で仰向けになり空を見る。
青い。
素直にそう思った。
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
起きた時ユークリッドと抱き合うような形だったためかなり驚いた。
しかしそれも納得だろう。
少なくとも眠る前は汗だくになるほど暑かったが、今は草原の夜だ。
自然と体は冷え、暖かいものを求めるだろう。
近くにそれがあったから、たまたまそれがユークリッドだっただけだ。
俺に下心はない。
むしろあったらやばいだろう、相手は5歳だ。
いや、アリか?
それはともかく、夜の草原は不味いだろう。
この世界のことを知らないからな、魔物なんて出てきたら間違いなくお陀仏だ。
そんなことになってはせっかくここまで逃げて来たのがパーになる。
だからさっさとユークリッドを起こしてここから動かなければ。
体を起こし周りを見渡すと、俺らの横に変な人があぐらをかいて座っていた。
「うわぁ!なんだこいつ!」
座っている奴はどこからどう見ても変だった。
ピエロのような服に帽子、メイクに赤鼻。
完全にピエロだった。
「なんだこいつとは失敬だね、私は泣く子を笑わせるピエロさんだよ?それ以上でもそれ以下でもない、でもね、それでもね、私はこんな君たちのような年端もいかない子供をほうってはおけなくてね!君たちがここで倒れていたのを見た時はゾッとしたね、君たちは死んでいるのかって思っちゃったぐらいさ!でも君たちは生きていたし、これから魔物が増えてくる時間だし、だからこうやって君たちが起きるまで守っていたんだよ、大丈夫お金とか君たちの大事なものとかは取ったりしないよ!なんてったって自分のやりたいことをやっているだけだしね。君たちが倒れているのを助けたのは自分が助けたかったからって言うのが一番でかいかな?まぁなんにせよ君たちは助かった、私は自己満足に浸れたっていうことだよ。あ、そうそう、私の名前をフルネームで言うとゼストレア・グラン・マルティノ・アクティロス・リュクティア・デルドリス・シャンバリヤノクシャリス・エドリウス・サルトリウス・アンドレア・ソラリス・サザンラ・イグジェゴ・レモ二グ・ストグレナ・ハルトリナクルトレトラト・アグリストマグダド・ゲリュドーン・エトラシア・ストラダ・リグシオグ・ファン・ENDLESSって言うんだ、いろんな人からENDLESSの兄ちゃん、ENDLESS卿、ENDLESS、名前の長い奴、ひたすら適当な語句を繋げた変な名前の奴、頭のおかしい名前の奴、頭がおかしい奴、まぁ、色々呼ばれているよ。君たちも好きに呼んでいいからね!私は名前が呼ばれるのが好きでね、名前を呼ばれて返事をすることに喜びを感じるんだ♪挨拶って素晴らしいと思わないかい?朝昼晩朝食昼食夕食初めましてとさようなら、どれもこれもとてもいいものだと思うんだよね!挨拶がなかったら友達は作れない、挨拶がなかったら君たちとこうして話はできないしね、あぁ!いつもの悪い癖だ…私が一方的に話してしまっていたね!君たちの名前はなんて言うのかな?私の名前は…さっき言ったね!私が怪しいと思うなら偽名でもいいよ、あ!どうせ偽名なら男の子の方はかっこいい方がいいね、女の子の方は可愛い名前だといいと思う!うん!ごめんね、私おしゃべりで!」
ピエロの口から出てきた言葉は怒涛の早口だった。
しかも聞き取りやすいという。
いつの間にか起きていたユークリッドはポカンとしている。
表情変化が分かりづらい彼女の顔が誰が見ても呆気に取られた顔だと判断できるほどであった。
「ま…まずは守ってくださってありがとうございました、私の名前はディオ、彼女の名前はユリアと言います…あの国から命からがら逃げ出してきたところで…」
俺は城がある方を指さす。
「ディオくんとユリアちゃんか!いい名前だね!それでここに倒れていたんだね…それは大変だ!ここから離れないといけないんじゃないかい?追手が来ると大変だ…なんて言ってみたりして、あの国には誰もいないみたいだよ?私の目はちょっと特殊でね、結構遠くまで見えるんだー♪あの国から命からがら逃げてきたんだとしたらおかしくないかい?誰もいない国から小さな男の子と女の子が逃げてきてこんなところに倒れているなんて…不思議だねぇ…あ!もしかしてなにか不思議な出来事に巻き込まれたのかな?そうだよね!そうに違いない!私はそういうのに詳しいからね!君たちの力にもなれるかもしれないよ!辛いかもしれないけど君たちに一体何があったのか、詳しく説明してくれると嬉しいな♪出来ればでいいんだけど事細かに説明してくれるとありがたいね!見た所7、8歳っぽいから私の言ってることはわかるよね?あ!人間族じゃなかったらもっと年齢高いかもしれないね!ごめんね!気が利かないことで有名だったから…あと空気も読めないって言われたこともあるし…でもでも!君たちみたいな子供には笑っていて欲しいからね!次笑うために今悩んでおけばいいと思う!だから君たちに何があったのか、それを教えてくださいな♪」
長文ありがとう、さっき話そうとしてたの遮られたから言えなかったとはいえないな。
「…分かりました…あの国は私たちが生まれ育った故郷でした、ですが隣国シルフィードに宣戦布告され戦争が始まりました…しかし、何が起こったのか突如として国民もシルフィード軍も姿を消し残されたのは私達だけの様でした…ここに来るまで生きているものを見ませんでした……いずれシルフィードから追加で軍が進行してくると思います、ここにいては殺されてしまうかも知れません!逃げましょう!」
先ほど言えなかった言葉を紡ぎ出しENDLESSと名乗った男に伝える。
「わかったよ!」
その後意外だったのは、彼がその一言以降近くの街まで何も喋らなかったことぐらいか。
「ENDLESSさん、ありがとうございました。おかげでこの街まで生きてたどり着くこともできましたし、おまけに宿代まで出していただいて…もう、頭が上がりませんよ」
ピエロ顔の頭がおかしい奴へ向かって媚を売るのは疲れる。
しかし助かったのはいいが、こいつの話は尋常じゃないほど長い。
一言話し出したと思えば1分~2分は1人で話し続けている。
ユークリッドは、ENDLESSの話などどうでもいいようでスヤスヤと寝息を立てている。
まぁ、彼女は仕方ないかもしれないな、俺みたいに運動してるわけじゃないし。
たとえ運動していても流石にあれはこたえる。
全力疾走して少し休んだ後に数キロ歩いたからな。
そらつかれるわ。
それはそれとして。
「ところで、ENDLESSさんはさっきの出来事になにか覚えがあるみたいでしたよね、人が、生命が突如として消えてしまったのは何でか…」
「あぁ…あれの事か…」
それまで気分よく話をしていたとは思えないほどの複雑そうな顔をする。
「あれは詳しく説明出来ない…今はそういうことになっている…」
それだけ言うといつものおどけた話し方に変わり、彼らしい笑顔を振りまいていた。
話は飛んで翌々日のことでした。
私はユークリッドとともにギルドと呼ばれるところに向かいました。
もちろん、保護者としてENDLESSも同伴している。
異世界転生といえば冒険者ギルドと相場が決まってるからね。
んで、今は魔法適性を受けてます。
そういえば魔法の使い方や基礎を練習したけど魔法適性の検査はやったことがなかったなーと、そんな軽いノリで受けてます。
「では適性検査を始めます、準備がよろしければ目の前の水晶に触れてください」
係員の指示にワクワクしながら触れてみる…すると水晶の表面に漢字で『無』という文字が浮かび上がってきた。
「浮かび上がってきた紋はこれらのうちどれですか?」
そう言って見せられた本には載っていなかった。
そのことを伝えると、表情を崩さずに本を閉じた。
「ちょっと待っていてください、古い文献を持ってきます」
「あ、はい分かりました」
それだけ言ってかけていく係員の短めなスカートを目で追いかける。
健全な男子なら仕方あるまい。
「お待たせいたしました、こちらの文献にはありませんか?」
どうやら古代魔術のたぐいではないかというものだった。
しかし、しっかりと漢字で『無』と書かれているものはなかった。
これは…無属性か、魔法適性が無いのか。
「この中にはありません…もしかしてなんですが無属性という属性はありますか?」
「聞いたことはありませんね、適性がなければ紋は浮かびませんし…」
結果としては、分からずじまいだった。
次はユークリッドが水晶に触れた。
外からは何が起きてるかは見えないのか…少し残念だった。
俺と同じ様に係員はユークリッドに質問してゆく。
ユークリッドが指し示した属性は…
「否定?なんだその属性は」
係員の女性は顔を真っ青にして悲鳴をあげて逃げ出した。
と、同時にギルドマスターらしき人物が奥から姿を現す。
「こちらへ…」
俺達は呼ばれるままにそちらへ向かった。
ギルドマスターの部屋らしき場所へ案内され否定属性の魔法についての話をされた。
ざっくり話すと、古に大災害が起きて、それの原因が否定属性の魔法だったと。
それ以外にも世界中の人を死滅させることが出来るとか何とか、そんな物騒なものらしい。
「そんな物騒な魔法があるのか!?」
真っ先に口を開いたのはENDLESSだった
「私もこの目で確認するまでは確信できんかった…この瞳は水晶の義眼でな見た者の得意とする魔術を除くことが出来る」
そう言って赤い宝石の様な色をした右目を指さした。
「物騒とは言うが使い方さえ間違えなければどうということは無い、否定属性の魔法は心がキーになって発動するのだが、その心を強くあれば発動させることなく日常を過ごせるだろう」
それは無理だ、ユークリッドは度重なる育児放棄や家庭内暴力でPTSDになりかかっている。
心を強くあれなんて言われても、この環境では…
「そういえばディオ君と言ったかな?君の属性どこかで見た覚えがあるな…あぁ、あれだ、君はどんな力も受け付けない、変わりにどんな力も使えない、正真正銘の無能力を持ってるんだよ、君はどれほど体を鍛えても少し鍛えた一般人に負けるし、武器を扱うことも出来ない、魔法も然りだ、残念だったな少年」
なんてこったい。
だからあんなに努力しても何も出来なかったのか。
すまんすまんと笑いながらギルドマスター、イドと名乗った男は唖然とする俺の頭をポンポンと叩く。
「ところで、ENDLESSとか言ったな、あんた」
ENDLESSは口を開くことなく頷く。
「天冥五属とは初めて見た、おめぇさん一体何者だ?魔王だったりしねぇか?」
「ただの子供が好きな旅人ですよ」
それからの話は俺とイドが意気投合し、ギルドの宿舎に泊めてもらえることになった。
宿代がかからなくて良かったよ。
天冥五属とは
天と冥、更に三属性が使えるものの事を言う。
基礎三属性にくわえて天属性や冥属性を使える人間は少なく両方使える人間はさらに珍しい。
基礎三属性とは
一般人が覚えることの出来る基本的な魔法の個数のこと。
主に自然界に存在する水、土、火、雷などから人は三つまで神から使える属性を与えられるとされている。
一~二属性までしか使えない人もいるが、その代わり、人より扱いに長ける。
古代魔術とは
天や冥などというように、概念をそのまま力にした様なものである。
命を司る命属性や死へ誘う死属性などもある。




