表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
merry Bad End プロット失 未完  作者: 月影柊
プロローグ
2/5

The best treasure

5歳になった。

もうすぐ弟が生まれるらしい、勿論、腹違いの。


俺は自我が目覚めた3歳のあの誕生日から死にものぐるいで努力してきた。

毎日毎日勉強をし、体を鍛え、魔術の習得にも取り組んだ。

だが、どれも実を結ばなかった。

嫌にもなってくるさ、どれだけ努力をしても、報われない。

まぁでも、それで俺だけが怒られるならいいのだ。

俺の不出来はシェラに行く。

妾の子だから覚えが悪いだの、アンタが出来損ないを産んだだの。

どれにおいても腹が立つものばかりだ。

俺はいくらでも罵倒されたって構わない。

前世で嫌というほど味わってきたから慣れている。

だが、俺の不出来で我が母を責めるのはやめていただきたい。


それはいくら俺でも耐えられない。


俺のせいで我が母シェラは罵倒され傷ついてゆく。

俺がいるからシェラは悲しむ。

俺はそれがたまらなく嫌だった。

ならばどうするべきか、努力は報われず、剣もまともに扱えない、魔力は皆無ときた。

簡単だろう、シェラが傷つくくらいなら俺が死んでやればいい。

俺さえいなくなればシェラが傷つくことは無い。


遺書は書いた。

位置は適切で、風向きも良好。

あの日もこんな感じだったか。

いや、あのときは汚いネオンが暗闇を照らしていた。

今は、真下に中庭、前には城の壁がありネオンに比べれば幾分か綺麗ではある。

まだ、いい思い出があるここの方が抵抗もある。

なんの抵抗もなしに自らを殺した前世とは違う。

この下は俺今世の俺にとって一番大事な場所と言えよう。

足は重く、一歩前に進むことすらキツイ。

こんなにも死ぬのが怖かったっけか?

いや、前世では簡単だった、何も考えず一歩先へ進むことができた。

あぁそうか。

シェラを残して死ぬことが怖いのか。

今の俺には心残りがあるから、だからこの一歩が重いのか。

俺の世界は涙で視界が歪んだまま、逆さまになった。




目が覚めたらそこは見慣れた天井だった。

この世界に生まれてから5年も過ごしてきたこの部屋の天井が見えたのだ。

そうか、俺は死ねなかったのか。

ゆっくりと起き上がると近くにはシェラがいた。

シェラはこちらを見るなり表情を変え、泣きながら抱きしめてきた。

「もう…二度とあのような馬鹿なことをしないでください!どれだけあなたが心配だったか!どれだけあなたがいなくなるのが怖かったか!私を一人残してどこかへ行こうとしないでください…おねがいですから…」

シェラは涙を流し俺を抱きしめながらそう言った。

俺の中にある何かがスッと無くなるような気がした。


どうも俺は短絡的でいけない。

前世でも何かとつけて俺がいなくなればいいとか考えていた。

俺さえいなければ物事は円滑に進むと。

しかし、それがもし本当にそうだったとしても、この世界には俺が死んだら悲しむ奴がいる。

前世にはなくて今世にはあるものだ。


「お母さん…ごめんなさい…」


その言葉にシェラは抱きしめを強くした。




それから数日のある日。


生まれる予定の弟は王位継承権が一位になるそうだ。

もとより王様なんぞやりたくなかった俺としては嬉しい限りなのだが、今までしてきた努力が無駄になるようなそんな気もして嫌気がさしてくる。

息抜きの為に城下町にでも行ってみようか。

城下町にお忍びで抜け出す王子様なんてよくある話だろう。

シェラには悪いけどね。

学ばないっていうのはこういうことを言うのだろう。

前世では考えられないようなことだな。

前世では物覚えがいいほうだったからな。

出来すぎてダメだったけど。

とにかく、俺はお出かけを計画してみることにした。





「あの出来損ないの王子を殺すいいチャンスです、この機会を逃していつ殺せますか?」

「しかし相手はまだ5歳だぞ?俺の娘と同い年だ、少し罪悪感があるな…それにしてもその情報は誰から聞いたんだ?まさか本人からではあるまい」

「本人からですよ、たまたま通りかかった時に心声が聞こえましてね」

「相変わらずお前は聴こえているのか」

「そうですね、例のあの人と会った日からずっと聞こえ続けてますよ、おかけで夜も眠れない」

「確かに、周囲の欲望が常に聞こえ続けてたら気が狂うな、俺じゃなくてよかったよ」

「まるで他人事ですね」

「まぁ他人だからな、殺る時は声をかけてくれ、アレを雇っておく」

「かしこまりました、ではそのように」





意外とあっさり城外に出ることが出来た俺は街を観光することにした。

服は安っぽい服を血眼になって探して見つけたものだからおそらく貴族には見えないだろう。

所々泥がついてるし。

市場や商店街らしき場所をウロウロしていても誰も気に止めない。

暫く歩き回っていたが、やることがなくなって退屈してきていた俺は少し大きめな屋敷の前で立ち止まった。

この屋敷見たことがある。

何だったか、1度だけ2歳の頃に来たことがあるんだったけか。

いや、そんなことは割りとどうでもいい。

ここの奥さんは結構美人だったということを思い出せたのだからそれでいい。

ちょこっと外周をまわってみたが、どうも入れそうな場所は正面玄関ぐらいしかないようだ。

かと言って門番がいるから正面突破は出来ないだろう。

いや、いけるか?

なんだかんだ言ってまだ5歳児だ、それ相応の立ち振る舞いをすれば入れるのではないか?

作戦をいくつか立ててみるとしよう。

①何事も無かったかのように素通りする。

②自分の身分を明かして、この家には許嫁がいるので通せと言う。

③5歳児の特徴を生かして強行突破。

④諦めて帰る。


驚くほど頭の回転が悪い。

要領を理解していても出来ない。

この世界に来てからか、性格と学習能力が極端に酷いものになっている気がする。

全くの別人なのだから仕方の無いことなのかもしれないが、非常にもどかしい。

まぁ、どれを選んでも結局の所あの馬鹿でかい城に戻らなきゃならなくなるのは確定してるだろうし。

ならいっそ②で行こう。

…と思ったのだが、門番は俺が通ろうとするのを止める素振りすら見せず、それが当然かのように中へ通したのだ。

おそらく正体が割れているのだろう。

好都合だ、自由に動き回らせてもらう。




家の主に挨拶もせず徘徊していたら人形のような女の子を見つけた。

同い年ぐらいに見えるその子は、庭の中心にある椅子に腰掛け絵本を読んでいた。


一目惚れをするというのはこういう事なのだろう。


前世では体験したことがないほど心が踊った。

目の前にいる子は一体なんて名前なのだろう、どんな性格なのだろう、好きな食べ物はなんだろう、好きな事はなんだろう、なんて、色々な言葉が頭の中を駆け巡る。

独占したい、そこまで考えてしまった俺は異常だろう。

少なくとも、5歳児が5歳児に向ける目をしていないのは確かだった。

「…誰かいるの?」

ふと、彼女がぽつりと言葉を落とす。

こちらの方をにらみ、怪訝な表情を見せる。

「すまない、あまりの美しさに見とれてしまっていた、怪しいものじゃない、警戒しないでくれ」

俺は即座に彼女の前へと姿を出す。

「俺の名前はディーオだ、あの馬鹿みたいにでかい城に住んでる、ちょっと嫌なことがあって抜け出し中なんだけどな」

彼女はなおも警戒を解かない。

どうにかして警戒を解かないと…

「…お願いだ、警戒を解いてくれないか?君みたいな可愛い子から嫌われたくはないんだ、本当だよ?何なら、君のためになんだってしてもいい。勿論、俺に出来ることだけだけどね」

どうだろうか。

俺は彼女の顔を見る。

薄い表情の中に少しだけ笑みが浮かんでいるように見えた。




俺はそれから近くにあった椅子に腰掛け、彼女と話をした。

城ではこんなことがあるとか、彼女の持っていた本についてとか。

ただただ一方的に喋り続けた。

それでも彼女は嫌な顔一つせず、俺の言葉を一つ一つ逃さないように俺の目を見ていた。

俺が話しかける前までは、ムスッとしていて、何もかもつまらなそうな顔で本を読んでいた彼女が、俺の言葉で少しずつ笑顔を見せていくようになったのはたまらなく嬉しかった。

他愛のない言葉で微笑み、くだらない物語を笑い、この時間が永遠に続くのならば俺はなんでもできるんじゃないかと思ったくらいだった。




「一体どうなっているんだ!相手はたった5歳の子供だろう!?何故殺せない!」

「プロのアサシンを雇ったのは貴方でしょう!私はあくまでその補佐をしていたにすぎません!」

「あの子供1人に一体何時間かけるつもりなのだ!?」

「何日もかけて練った作戦があったおかげであの子供を城から誰にも悟られずに引きずり出すことが出来たのに!これじゃあ意味が無いですよ!」

「見失ったわけじゃない!かと言って攻撃をしていないわけでもない!なのに殺せない!?意味がわからない!」

「強行突破しようとすると何者かに必ず阻まれます…一回目はナイフで切りかかろうとしたところに酔っ払いが絡んできました、二回目は毒薬を飲ませようと近づこうとして足をかけられ転び失敗、三回目は何者か探り出そうとしてナイフを持ちながらあの子供に接近、邪魔をしてきたのは先ほどとは違う酔っぱらい、そいつを拷問に掛けたが、心声はただの酔っぱらいのものだった…偶然にしては出来過ぎています」

「直接的がダメなら間接的にはどうなんだ!そこまで頭が回らなくなったか!?」

「間接的な攻撃はどれも外れました…吹き矢12発、魔力針による遠距離射撃6発、石を投げる1発、魔法による座標攻撃75回…どれも察知されることはありませんでしたがまるで予測していたかのように回避されてしまいました…」

「そんなバカな…そしてそいつは今どこに?」

「旦那様の邸宅で次女と何やら楽しげに会話してますよ、まだ攻撃は続いていますが」

「そうか…ならディーオ殿下を殺すのは止めて利用するのもまたいいかもしれんな…あの薄気味悪い娘でも役に立つのなら使わなければ損だろう」

「では彼らはどうしましょう」

「報酬を払って撤退させろ」

「仰せのままに」




「あぁ、どうやら迎えが来てしまったらしい」

結局の所、俺の身元はバレバレだったらしい。

夕暮れを告げる鐘の音とともにシェラが物陰から現れたのだ。

「俺はあの城に帰らなければならない、だけどまた明日ここに来るよ。君に会いに来る為だけにここに来る、必ずだ」

我ながら臭いセリフを吐くものだ。

5歳児にあるまじき言葉遣いだからな、少しは自重すべきだと考えるが、まぁ無理だろう。

「では、また明日ここで…」

俺はシェラへ向きを変えるとすぐ後ろから「まって」と、微かな声が聞こえた。

「…ユークリッド」

彼女は驚くほど小さな声で呟いたが俺はハッキリとその言葉を聞いた。

「また明日会おうね、ユークリッド」

それだけ言い残して俺はシェラと手を繋ぎながら城へと帰るのだった。


無論、城に帰ってからシェラにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。




俺は翌日からユークリッドの家まで足を運んだ。

勿論シェラの同伴で、だが。

どうやらユークリッドの家はこの国で1、2を争うほどの権力を持った貴族の家らしい、わりとどうでもいいが。

問題があるとすれば、ユークリッドはこの家で酷い虐待を受けているという事がわかったのだ。

ネグレクト。

よくある育児放棄みたいなものだと考えてもらっていい。

ユークリッドは親から食べ物、衣類、自分の部屋などは与えられておらず、少し仲のいいメイドから夕食の残りを少し貰うぐらいで飢えをしのいでいるのだとシェラから聞いた、どうやってその情報を手に入れたのかは知らない。

初めて会った時は彼女の服装なんて気にもとめなかったけど、古びたカーテンを体に巻き付けただけのものが偉い貴族の服装ではないことを十分に教えてくれていた。

流石にこのような仕打ちを見逃す訳にはいかないと考えるも、俺は行動に移すことが出来ない。

理由は簡単、この国の法は虐待が合法なのだ。

虐待を受けている対象が死ななければ罰することも出来ない。

虐待を受けている対象を虐待者から引き離すことも許されない。

ここは日本じゃないんだ、異世界で、理不尽な世界なんだと、改めて思い知らされることになった。

シェラに、彼女を助けたいと言ったら「なるべく尽力します」とは言ってくれたが…まぁ難しいだろう。

でもまぁ、どうしたらユークリッドを救えるかなんて簡単なことなんだ。

俺が王様になって法を変えればそれでいいんだ。

時間がかかりすぎるが、俺が取れる方法はこの一つしかない。

よくある物語の主人公なら法なんて無視して突っ走るだろうけど、俺は無理だ。

平民とか王族とか関係無く問答無用で裁く法がある限り俺は何も出来ない。

結局の所、保身の為に目の前の女の子一人救えない男なのだ、俺という人間は。

「ユークリッド…俺は王様になるよ…どれだけ時間がかかるかわからないけど……必ず君を助ける…」

その言葉が例え意味の無い言葉であったとしても、言わなければならない、そう思った。

「……」

その言葉に彼女は無言で頷くだけだった。




それからというもの、今まで以上に勉学に励んだ。

魔法は相変わらず使えないのでその魔法を習う時間を別な時間に当てて勉学に励んだ。

今まで平均点が赤点台だったテストもギリギリ平均が赤点よりも上になったことに喜んだり。

それをユークリッドに報告しに行って、気付いたら教師への愚痴になってたり。

そんな日々がおよそ三年間続いた。


そして、俺達の運命が大きく動く日が来たのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ