↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/5

第一話 秋の女王が住んでいたところ

 シャルロッカはいつものように床(ゆか)に座(すわ)って、ひざの上(うえ)に絵本(えほん)をおいて読(よ)んでいます。

「この本(ほん)だいすき」


 兄(あに)のヘイミッシュはいつものように机(つくえ)に座って、図鑑(ずかん)を読みながら妹(いもうと)をからかいます。

「そんなお話(はなし)のどこがおもしろいのさ」


 そしていつものようにシャルロッカは、わからずやのお兄(にい)ちゃんにお話を語(かた)って聞(き)かせるのです。



「あるところに、春(はる)、夏(なつ)、秋(あき)、冬(ふゆ)、それぞれの季節(きせつ)をつかさどる女王様(じょおうさま)がおりました。女王はきめられた期間(きかん)、交替(こうたい)で塔(とう)にすむことになっています。そうすることで、その国(くに)にその女王の季節がおとずれるのです」



「全然(ぜんぜん)おもしろくない」

「まって! シャルロッカがよむのじゃましないで」


 兄のヘイミッシュはシャルロッカが怒(おこ)り出(だ)してもすずしい顔(かお)をしています。だって図鑑の方(ほう)がおもしろくてわくわくするのですから。


「ところがあるとき、いつまでたっても冬が終(お)わらなくなりました。冬の女王が塔に入ったままなのです。辺(あた)り一面(いちめん)雪(ゆき)におおわれ、このままではいずれ食(た)べ物(もの)もつきてしまいます。こまった王様(おうさま)はおふれを出しました」



「ふうん」



「冬の女王を春の女王と交替させた者には褒美(ほうび)をとらせよう。ただし、冬の女王が次(つぎ)に廻(めぐ)ってこられなくなる方法(ほうほう)はみとめない。季節を廻ることをさまたげてはならない」



 シャルロッカが王様のような声(こえ)をいっしょうけんめい出しても、お兄ちゃんはいつも「ふうん」。「ちゃんときいて」とおねがいしてもいつも「ふうん」。シャルロッカはそれでも最後(さいご)までちゃんと読みます。



「なぜ、冬の女王は塔をはなれないのでしょうか。なぜ、春の女王は塔におとずれないのでしょうか」



 そこで絵本は終わるので、ヘイミッシュはいつものように「ちゅうとはんぱ!」と声をあげます。

シャルロッカはそれでいつも「そのおまじないなあに?」とききます。


 そこからヘイミッシュとシャルロッカはお話の続(つづ)きをはなしあいます。だからシャルロッカはこの絵本がだいすきなのです。



「わかったよ、シャルロッカ! 今日(きょう)のは自信(じしん)がある。冬の女王は冬の間(あいだ)にたくさんたっくさん食べ物を食べたんだ。そして大きくふくらんじゃった女王は塔から出(で)られなくなっちゃった。だから冬の女王は塔から出られないし、春の女王も塔にやってこないんだよ」


「お兄ちゃんすごーい! おばあちゃあああん」


 シャルロッカはさっそくタカタカと足音(あしおと)を鳴(な)らしておばあちゃんのところへかけていきます。

 その間にヘイミッシュはパタンと図鑑を閉(と)じ、でかける用意(ようい)をしました。


「サンタン、ケティ、行(い)くよー」


 ヘイミッシュがリュックににもつをつめて声をかけると、にょっきりと二本のキバをのばしたミニサーベルタイガーのサンタンと、にじいろの羽根(はね)をもったケツァールミノバトのケティがとなりの部屋(へや)からあらわれました。


「ヘイミッシュ、今日もお出かけかい?」

 おばあちゃんがシャルロッカにひっぱられてやってきました。


「お兄ちゃん、またはずれだったー」

「うん、ぼくもそうだと思(おも)った」


 シャルロッカは、んーっと声をあげて床(ゆか)をふみならします。なぐさめるようにサンタンがシャルロッカにすりよります。これもいつものことです。


「今日はどこまで行くんだい?」


「こっちの道(みち)をいけるところまでずうっとずうっと行くよ。なあ、サンタン」

 かしこいサンタンはうなずきます。ヘイミッシュはごほうびにサンタンのだいすきなくだものを食べさせてあげました。


「気(き)をつけてお行き。おとまりさせてもらうときはどうするんだったかい?」

 おばあちゃんはお出かけのきまりをたしかめます。

「ケティに手紙(てがみ)をゆわえてとばします。な、ケティ」

 かしこいケティは羽(はね)をひろげます。ヘイミッシュはごほうびにケティのだいすきなむぎのつぶを手(て)にとってあげました。


「お世話(せわ)になるところにはこれをおあげ。そして、あなたの分(ぶん)も。ハイ」

「ありがとう、おばあちゃん」


 おばあちゃんのパンはとても人気(にんき)なので、どこに行ってもよろこばれます。それはそれはおいしいパンなのです。ヘイミッシュは、それもリュックにつめました。


 サンタンにまたがって、リュックを背負(せお)って、ケティを肩(かた)に乗(の)せてヘイミッシュは出発(しゅっぱつ)します。シャルロッカはヘイミッシュのおみやげ話(ばなし)がだいすきなのでいっしょうけんめい手をふりました。


 城郭(じょうかく)の橋(はし)を渡(わた)って門番(もんばん)さんにあいさつをします。

「今日はどこまで行くんだい」

「白(しろ)の道をいけるところまでいってみます」

「この国(くに)はこわい生(い)き物が全(まった)くいないから安心(あんしん)だ。そこのサンタンがいちばん強(つよ)いくらいだな。でも、けがばかりはどうしようもない。気をつけて行ってきたまえ」


 門番さんはまるで王様になったかのような口ぶりではげまします。



 ヘイミッシュはサンタンにまたがって白の道をすすんでいきます。門番さんが小(ちい)さく小さく見える頃(ころ)、ヘイミッシュは振(ふ)り返(かえ)って門番さんに大(おお)きく手をふりました。門番さんはとても目(め)がよいのでちゃんと手を振り返してくれました。この国はとても平和(へいわ)な国なのです。


 門番さんのいる城郭の向こうにはシャルロッカやおばあちゃんたちが住(す)む町があります。その真(ま)ん中(なか)には大きな大きな塔が立っています。


 ヘイミッシュはそれを見るたびに、シャルロッカの読んでいた絵本のようだなと思うのです。

 塔の一番(いちばん)上に小さな窓(まど)があります。その窓から見る景色(けしき)はどんなだろうと想像(そうぞう)します。ヘイミッシュの住む街(まち)の屋根(やね)でしょうか。

「いやいや、窓はそんなに低(ひく)いところにはついてない。もっと遠(とお)くの景色しか見えないんじゃないだろうか」


 城郭でしょうか。

「いやいや、もっと上。やっぱりあの<エターナルグレイスの木>と空(そら)ばかり見えるのじゃないかな」


 ヘイミッシュの左手の方向には、それは大きな、塔よりも何倍(なんばい)も大きいのではないかというような古(ふる)い巨木(きょぼく)がそびえ立っているのです。

 それはそれは大きな木なので国中(じゅう)どこにいても見えるのではないかと思えるほどです。


 ヘイミッシュが山をふたつこえる間ずっと見えていました。三つ目の山では、ふたつの山の切通(きりとお)しがきれいにならんでいるのがわかります。切(き)り開(ひら)いた道の向(む)こうにこの木は見えるのです。


「面白(おもしろ)いねえ、ケティ。この道は、まっすぐあの木を向(む)くように切り開いているみたいだね」


 田園地帯(でんえんちたい)へとヘイミッシュはやってきました。田園の周(まわ)りは堀(ほり)があり、堀の向こうには先(さき)を尖(とが)らせた丸太(まるた)が組(く)んであります。その先に珍(めずら)しい生き物がとまっています。

ヘイミッシュはサンタンから降(お)りると、リュックから図鑑を取り出し調(しら)べはじめました。

「やっぱり! タイリクアカネだ、すごいよサンタン。こんな生き物がこの国で見られるなんて」


「そんなに珍しいものかい?」

「おじさんはだれ?」

 ひげのおじさんは珍しい服(ふく)をきていました。

「おじさんは船乗(ふなの)りさ。もう数年(すうねん)、この<オオトヨアキツ国>で世話になっているんだ」

「おじさん、この国そんな名前(なまえ)じゃないよ。<フォーシーズンズ>っていうんだよ」


「はっはっは。ここは百人程度(ていど)の村(むら)のように見えるが、りっぱに女王がいる国なんだ」

「ぼくはよその国まできちゃったの!」


「坊(ぼう)ずは<城郭の街>からきたんだろう? じゃあ同じ国さ。ここの女王さまは収穫(しゅうかく)の季節になると感謝(かんしゃ)の祈(いの)りをあの大きな塔に捧(ささ)げに行くのだ。大昔(おおむかし)からそうしていたらしいからな。つまり中央政府(ちゅうおうせいふ)から、<秋の祈りを捧げる女王国>だって認(みと)められてるわけさ」

「中央政府?」

「坊ずには難(むずか)しい話かな。おっと、夕暮(ゆうぐ)れの時間(じかん)になるぜ。坊ずもそろそろ帰(かえ)らないといけないんじゃあないのかい?」


 稲穂(いなほ)を金色《きんいろ》に染(そ)めながら、燃(も)えるような色合(いろあ)いで地平線(ちへいせん)を目指(めざ)して太陽(たいよう)は下(お)りてきています。

「おじさん、今日は泊(と)めてもらえますか。よかったら、おばあちゃんのパンをどうぞ」

「おじさんの生(う)まれたところじゃ、それは家出(いえで)って言(い)ってしかられたもんだがなあ。なかなかこっちの風習(ふうしゅう)になれないな。パンありがとよ。じゃあ新米(しんまい)食(く)ってけよ」


 ヘイミッシュはケティの足にこれまでの道のりとこれからの予定(よてい)を書いた紙(かみ)を結(ゆ)わえつけてとばしました。



「さあ出来(でき)たぞ」

 おじさんの作(つく)る料理(ちょうり)をごちそうになりながらヘイミッシュはいろんな話をしました。塔に勤(つと)めるお父(とう)さんやお母(かあ)さんのこと、おばあちゃんのことや妹のこと、サンタンやケティの話もしました。

「坊ずはなんで色んなところにでかけているんだ」

「ぼくの夢(ゆめ)は物語(ものがたり)の紡(つむ)ぎ手。そのための取材(しゅざい)だよ」


「じゃあこんなものはみたことがあるか」

おじさんは板(いた)の上で動(うご)く針(はり)のようなものを見せてくれました。

「こいつは、コンパスっていうんだ。おじさんは船乗りだからな。これさえあればどんなところにだっていけるんだ」

「おじさんすごいや。はじめてみたよ」


「だがなあ、この国だと上手(うま)くいかない。コンパスは思った通(とお)りに動かないし、太陽も決まった方から昇(のぼ)らない。あげくのはては北極星(ほっきょくせい)まで動(うご)いちまう。だからおじさんはなかなか旅に出られないんだ」


「それはこまったね」

「だがこうして不思議(ふしぎ)な話をおまえさんにしてやれる。それも悪(わる)くないだろう? ところでおまえさんはどんな話が書(か)きたいんだ」

「妹が話すお話があるんだけれど、その続きを書きたいんだ」


ヘイミッシュはシャルロッカの読む絵本の話をおじさんに聞かせました。

「そいつは変わった話だなあ。変わった話ならこの<オオトヨアキツ国>にもあるらしいぞ」

「おじさん、その話、聞(き)かせて!」

「まあ待(ま)て、まあ待て」


おじさんはお茶(ちゃ)を飲(の)んでひと息(いき)ついてから話しはじめました。

「なんでもある年、二度、秋がやってきたそうだ。これは女王さまの感謝の祈りが通(つう)じたのだろうと喜(よろこ)んだんだがな。その後が大変(たいへん)だったそうだ。その年の冬が長(なが)くて長くて、せっかくとれたものも足(た)りなくなってしまいそうなほどだったらしい」

「それは大変だねえ。どうなったの」

「さあ、なんとかなったんだろ。とれすぎもよくないねって話さ」


「大事(だいじ)なところなのに、おじさんいい加減(かげん)だなあ」

「おじさんが来るずうっとずうっと昔の話なんだ。おじさんだってくわしくはしらないさ」


「ちぇ、つまんないな」

「まあ、そういうな。そうだ、外(そと)に出て月(つき)でも見よう」

 おじさんに連(つ)れられて外に出ると、稲穂を銀色(ぎんいろ)に染(そ)める美しい月が出ていました。

「ここは素敵(すてき)な国だね」


 その夜、ヘイミッシュは美(うつく)しい夢を見て眠(ねむ)りにつきました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。