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満員電車に乗り始めるにあたり

私はあの頃、毎日同じ時間、同じ電車に揺られながら、毎日同じ場所に通い続けていた。

私だけじゃない。恐らくあの電車の中にいる大半の人間は、同じように過ごしていたはずだ。


8時過ぎに最寄りの駅を出る電車は、8時半には目的地に着く。電車に乗っている時間はたったの25分。

通勤時間に限って言えば、もっと長い時間を電車内で過ごしている人の方が多いだろう。しかし私は、長い通勤時間に命を削られることを恐れ、手狭で治安も悪い都内の某所に部屋を借りた。

今にして思えば、多少通勤時間が伸びる代わりに、もっといい土地があったはずだ。いや、当時もそれは分っていた。それでも私は、通勤時間を短くすることだけを考えて住む場所を決めた。

短い通勤時間と引き換えに得たものは、毎日の通勤ラッシュと呼ばれる満員電車だった。


そこで私は、多くの人に出会った。

いや、出会ったという表現は正しくない。単に居合わせただけだ。名前も知らない、どこに通っているのかも知らない。顔を覚えたこともない。ただ、同じ空間に25分一緒にいただけだ。

一方的に他人を観察する趣味はないが、それでも時に、不要な情報や感情が流れ込んできてしまうものだ。それはふいに訪れ、遠慮なく朝のぼやけた頭に入り込んでくる。まるでノックもせずに土足で上がり込み、部屋を荒らされている気分だ。


私はなるべく他人の頭に入っていかないように努めたが、恐らくはどこかで入り込んだだろう。いや、入り込んでいたに違いない。

うっかり横の人にぶつかった時や、私の鞄が邪魔で降りにくいと感じた人は少なからずいたはずだ。その人達の意識に、私も無断で入り込み、彼らの部屋を荒らしてきたのだ。

申し訳ないという気持ちもあったが、それはお互い様だ。

お互いの部屋の荒らし合い、それが満員電車だ。




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