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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シャウト

作者: 星田孝二

 そのライブハウスはLOOP(大阪環状線)の、とある駅の、とある高架下にあった。夕方はまだライブは始まんないけど、リハがあるんで、店の前にはいかにもバンドやってますっていう連中がよくたむろしていた。俺の通ってる高校からは、どうしてもそのライブハウスの前を通らなきゃ、改札に行けなかった。共学だけど彼女のいない高校生、なおかつ帰宅部の俺は、できるだけそうした「異界」の皆さんとは視線を合わせないように、早足で通り過ぎることにしていた。

 その日も、いつものように足早に通り過ぎようとした俺だったが、女の子の甲高い笑い声に、思わずそっちを見てしまった。そこには女神がいた・・。ロックンロール・クイーンが。大柄だけど、でもお尻のちっちゃい、茶髪の長い髪の女の子。ちょっとばかり年上の二十歳前半の野郎どもに傅かれて。西日があたる時間だったんで、まるで金色に輝くマリア像のようだった。

 何日か経ってもときめきは治まらない。どうやら恋の病らしい。決めた。ミスチルぐらいしかロックは聴かない俺だったけど、彼女のバンドを追っかけることに決めた。

 ネットで調べると、どうやら彼女のバンドはデボラというアマチュアバンドのようだ。彼女の名前はミキ。バンド名の由来は、ブロンディーという伝説的バンドのボーカル、デボラ・ハリーから。なるほど、デボラと同じく、ボーカルは女性でバックは男どもという編成だ。

 ライブは月1回、多くて2回。チケットはワンドリンク制で、高くても1,500円くらいまで。ミナミや江坂のライブハウスにも行った。プロのアーチストを追っかけるより、よっぽど安上がり。演奏するのはブロンディーやSHOW-YAのコピーだが、十八番は相川七瀬の「夢見る少女じゃいられない」。相川は大阪環状線鶴橋駅の近くの東成区出身だから、ミキにとっては地元大阪の大先輩の曲といったところ。

 黒い革の短パンから伸びる網タイツ。少し革ジャンのジッパーを下ろした胸元。歌ってる時の表情がこれがまたいい。長い髪を掻き上げ、ライトを浴びてシャウトするミキを見ていると、なにもかもがいい意味でどうでもよくなってしまう。そういえば、デボラのライブに通ううちに、学校でも以前ほどバリアーを張らずに、クラスメートと話しているんじゃないかと思う。あることないこと言われたってかまやしない。俺にはミキの歌に酔いしれる至福の時がある。そのわずかな時間があると思うと、それ以外の時間は何事にも耐え忍べるってもんだ。

 二人連れやグループで来る客が多いので、前のほうで聴いていなくても、五六回行くうちに、デボラのメンバーにも、自然と顔を覚えられたらしい。このあいだ、ライブの始まる一時間ほど前、ギターのカツジがフロアにやってきて、

「ミキが会いたいって。ファンなんやろ」

 と、仏頂面で俺に言った。

「いいんですか」

 観客の間をすり抜けて、カツジについて行く俺。

 狭い楽屋。ミキはまだステージの衣装ではなく、ミッキー&ミニーのスェットの上下。

「最近、よう見にきてくれてるなあ。ありがとう」

「いえいえ」

「ご褒美あげるわ」

 いきなり、股間に俺の左手を持っていくミキ。なんてことするんだ。すると、そこには俺のよりも大きなモノが・・。なんてことなんだ。

ステージでは短パンやジーンズだからわからなかったけど、そうだったのか・・。

「びっくりさせて、ごめんやで。最近だいぶバレてきたけど、実はあたし、男なんよ」

 俺の中に驚きはあったが、なぜかとまどいはなかった。それがなんだ。お尻の小さなミキ。シャウトが似合うミキ。いまの俺にとって、ミキはかけがえのない存在。

「かまへんミキ、俺はミキの歌が好きや。そんなんどっちでもええことや」

 俺はシャウトしていた。ミキは笑いだした。ミキ、今夜も素敵なシャウトを聴かせておくれ。



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