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第6話【猫好きに悪人は無し】

 

行商団キャンプ。キャンプとはいっても店があちこちで商売している。


ロイドとルナの他にもキャンプに来ている兵は沢山いる。

ロックはハイド将軍の手伝いで、別の所にいる。


「ちょっとこれ何ー?」


「みゃー。」


さっきからルナはあちこちの店に出入りし買い物をしている。

無論代金はロイド持ちだ。


「…領収書を後でハイド将軍に投げつけてやる…。」


両手に荷物を抱えながら呟く。


 

「ちょっとロイドー…私疲れたー。」


「……それじゃあ一休みしようか。」


疲れるのも無理はない。

キャンプに来てかなりはしゃいでいたからだ。


すぐ側にあったベンチに座る。


しかし…このキャンプは賑やかだ。

まさに移動式の小さな町の様だ。


「私こんなに賑やかなの初めて。」


「世界はもっと広いよ。

このキャンプの何倍も何倍も賑やかな町や城があるよ。」


「へぇー…いつか行きたいな…。」


そう言うルナの表情は少し寂しそうだった。


「みゃーお。」


急にクロがルナの膝から飛び下り、テントの角に消えた。


「ちょっ……クロちゃん!?」


「ルナも一緒に行く?」


「当たり前でしょ。」


とりあえずテントに向かう。

テントの角に差し掛かった時だった。


「ぎにゃー!!!!」


ぎにゃー?

明らかにクロではない。

むしろ人間っぽい声だ。

だが語尾に『にゃ』がついている。


角から二人は顔を出す。


そこにはクロを抱えた人物が頭を掻きながら立っていた。


派手で大きな帽子を被っているので顔はよくわからない。

ただ………彼にはおかしい点がいくつかある。


簡単な事だが…むしろ重大な事だ。


彼の手は猫の手そのもの。

さらに彼が身に付けているマントの隙間から、なんと尻尾が出ていた。


「んにゃ?そこのお二人さん僕に用かにゃ?」


彼はこちらに気付き帽子を外した。

…猫だ。

身長は大体ロイドの胸くらいの高さだろうか。

毛の色は虎猫だ。


「あー…すいません。その黒猫…。」 

ルナは驚いているので代わりに言う。


「この子の事かにゃ? ほら主人が迎えに来てくれたにゃ。」


クロは彼の手からこちらに駆け寄り、ルナに飛び付く。


「ありがとう…猫さん…?」


ルナが言う。


「にゃにゃにゃ。礼はいらんにゃ。

それより君らは軍の人間かにゃ?」 

彼は帽子を再び被り直しながら言う。


「自分だけですよ。彼女は…。」


「訳ありみたいだから別に言わなくても良いにゃ。

それよりも一期一会だにゃ。ちょっと話でもするにゃ。」


 

そう言うと彼はすぐそばの向かい合った二つのベンチの片方に座り、手招きをする。


とりあえずルナとロイドも促されるままに座る。


「あのう……猫……。」


ルナが言う。


「言いたい事はわかるにゃ。

僕の姿が珍しいんだよにゃ?

…そっちの緑髪の彼は驚いてないみたいだけどにゃ。」


彼は手でルナの言葉を制し、言う。 

「ええまあ……。

自分は傭兵なので貴方みたいな『獣人族』に何回も会っていますから。」


『獣人族』。

この世界に存在する数々の種族の一つ。

犬、猫、様々な種類の獣人の事を指す。

獣人が生まれた原因はわかってはいないが諸説様々な説がある。

人類よりも昔からいるとか、魔宝によっての突然変異だとか。

正直そう言う理屈に興味は無いが。


「にゃにゃにゃ。 お嬢ちゃんもあまり驚いてないにゃ。」


ルナはクロを撫でている。


「最初は驚いたけど、もう慣れたわ。」


そう言うルナの目は好奇心からか輝いていた。


「君らは良い人だにゃ。」


「へ? なんでです?」


「『獣人族』は動物の言葉がわかるにゃ。 そこの黒い彼が言っていたにゃ。

「ロイドとルナさんは僕の事を大切にしてくれている」ってにゃ。」


そう言われると照れ臭くなる。


「私は猫好きだもの。」


そう言うルナの顔も照れていた。


「……そんな君らに聞きたい事があるにゃ。」

 

「聞きたい事ですか?」


「良いわよ。聞かせて。」


ルナは身を乗り出す。


「ありがとうにゃ。

…例えばの話だにゃ。

ロイド…君が偉い人の命令で、ある人の大切な大切な物を盗んだとするにゃ。

そして大切な物は偉い人の物になったにゃ。

だけどその大切な物をある人に返すチャンスが巡って来たとするにゃ。

そうしたら君はどうするにゃ?」


彼は真面目な顔でこちらを見つめてくる。

ルナもこちらを見つめている。

自分だったら…。


「………自分だったら…その偉い人を裏切ってでも返します。

そうする事で悲しみを減らせるなら。」


「にゃにゃにゃ。 それが厳しく、長い道になってもかにゃ?」


「ええ…大切な物を無くす悲しみは辛いです。 自分が苦しい目にあってもそれで人が救われるなら返します。」


一瞬の沈黙。


「にゃははは! やっぱり君は良い奴だにゃ。

とにかく話を聞けて良かったにゃ。」


彼は笑いながら言う。


「…なんで会ったばかりの私達に?」


ルナが首を傾げながら言う。


「簡単な事だにゃ。

猫好きに悪人はいないにゃ。」


彼はルナの頭を撫でながら言う。


「うおいロイド!!!!!何処だ!!!!」


 

聞き慣れた声。

ハイド将軍だ。

しかも声色から察するに怒っている。


「あっ………集合時間!!!」


ルナが慌てて言う。

しまった。

日の傾き具合からも大分彼と話し込んでしまった。


「行かなきゃ!」


ルナは声のした方向へ駆け出す。

クロはしっかりとルナの肩にしがみついていた。


「あの…それじゃあ…。」


「話に付き合わせて悪かったにゃ。…君を雇いたいくらいだにゃ。」


彼と握手をする。

肉球が柔らかかった。


「縁があったら、また。」


「またにゃ。…ロイド…君は必ず彼女を守り抜けにゃ。」


彼はそう言い残すと歩き出す。


「貴方の名前は!?」


彼は立ち止まる。


「そのうちわかるにゃ。」


彼は再び歩き出す。


この出会いが後に……。

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