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第4話【護送任務開始】

「……ん……ああ…クロか…。」


目が覚めた。

クロが寝ていたロイドの顔を舐めている。


昨日は結局あの女の子と話した後キャンプに戻ったのだが、ロックは既にハイド将軍に叩きのめされていて割り振られたテントの中に倒れていたので一人になったロイドは、頭が腐る程暇だった。

武器の手入れなどで時間を潰したが、結局かなり早い時間に寝てしまった。


「みゃーみゃー。」


クロはロイドの顔に猫パンチを喰らわせた。


「わかったわかった。今起きるよ。」 

体を起こす。

すぐそばではロックが怖い夢でも見ているのか、唸っていた。


「ハイド将軍……やめ……ぎゃあああ……。」


ロックが苦しげな顔をしながら寝言を呟く。

きっと昨日の訓練の夢でも見ているのだろう。

ロイドも初めてハイド将軍と手合わせした後の夜に、悪夢にうなされた。


とりあえずロイドはテントを出る。

クロはやはりロイドの肩に乗っている。

お気に入りの場所になったようだ。


辺りはまだ暗い。

夜はまだ明けていないようだ。


 

「…とんでもなく早起きしたな…俺…。」


辺りのテントは真っ暗だ。

まだ他の兵は熟睡しているのだろう。

とりあえず、昨日座った丸太椅子に再び腰掛ける。


クロはロイドの膝に移動して、夜空を見つめている。


早朝のあの独特の風の香りが心地良い。

空気も澄んでいる。


「………ふう…。」


ロイドは深い溜め息を吐くと、懐からネックレスの様な物を取り出し、月明かりに照らす。

月明かりに照らされたネックレスの様な物は、綺麗に輝いていた。

ネックレスの輪には鈍く光る鍵が着いている。


このネックレスと鍵はロイドが拾われた時から持っている物らしい。

ロイドは傭兵団に拾われた。

まだ幼い頃の事だ。


幼いロイドは草原をさ迷っていた所を傭兵団に保護された。

いくつもの人の命を奪ってきた傭兵達にとっては幼いロイドを育てる事が、罪滅ぼしになったのだろう。ちなみにロイド=セントラルと言う名前もその傭兵達が名付けた。

セントラルは大陸『セントラル』に、ちなんで名付けたらしい。


そして、ロイドは傭兵達に拾われる以前の記憶が無い。

ちなみに右目の傷は拾われた時には付いていたらしい。


 

色々と考え事をしていた時、不意に聞き慣れたあの声が響く。


「おはよう、ロイドお前早起きだな。」 

ハイド将軍が現れた。


「おはようございます将軍。

将軍も早いじゃないですか。」


「色々と大変なんだよ、将軍って役職はな。」


ハイド将軍はロイドの隣に座る。


「そうですよね…。

…ところで将軍、ゲイツ将軍が言っていたオリオンで待っている【暁の虎】将軍とは誰なんです?

噂なら聞いた事があるんですが…。」


「ああ、あの将軍か。

あの将軍とはいくつもの戦場を一緒に戦い抜いた戦友…いわば友達だ。

良い奴だし、何よりお前ら見たら驚くぜ。」


ハイド将軍がニヤリと笑う。


「つまり見てからのお楽しみって事ですか。」


「まあな。それにあの将軍は、元シャレオント軍部の直属隠密部隊所属だったからな。

面白い話が聞けるかもな。」


 

「なかなか凄そうな将軍ですね…。」


「色々な意味でな。

…そろそろ兵達に素晴らしい目覚めをプレゼントしてくるか。」


ハイド将軍は訓練用の棒を手に取り、立ち上がる。


「将軍…やり過ぎないで下さいよ…。」


「大丈夫だ。軽い朝飯前の運動ってところだからな。」


ハイド将軍はそう言うなり、ロックが寝ているテントに忍び込む。


「うわああああああ!!!!」


テントから悲鳴が聞こえた。

ロックが一瞬間をおいてからテントから転げ出てきた。


「本当もう寿命が縮んだ…。」


ロイドの前に倒れ込みながらロックが呟く。


ハイド将軍が風の如く、次々と他のテントに突っ込んで行く。

他の兵の叫び声と悲鳴が響く。


「また来た!!!早く起きて逃げろ!!!」


「将軍!!!またですか!!!」


キャンプが慌ただしくなる。


「おらおらお前ら!!さっさと起きやがれ!!!!」


〜三十分後〜


 

ハイド将軍配下の『陽炎騎士団』の兵達は、全員叩き起こされていた。

過去にも何度かこの様な事があったので、兵達は慣れていた。


「よーし…お前ら全員起きたな。

これより、護送任務に就く。

目的地オリオン砦まで、重要な物を護送する!

日の出と共に出発だ!

わかったな!」


 

ハイド将軍が大声で言う。


「みゃー。」


クロが鳴く。

兵達は素早く、準備を済ませて拠点の正門に行軍時の陣形に整列する。正門の所には馬車が待機していた。ロイドとロックの配置は、ハイド将軍の近くで護送する人物とあの魔宝が納められている箱が乗った馬車の隣だ。


馬車を『陽炎騎士団』全員で取り囲み、護送するという形だ。


「みゃー!」


ロイドとロックが馬車の隣に近付くと、突然クロがロイドの肩から飛び降り馬車の扉をカリカリと爪でひっかき始めた。


「っと…クロよ流石にまずいぜ。」


ロックが素早く扉をひっかいているクロを抱き上げロイドの所へ戻ってくる。


「みゃー…。」


クロは少し残念そうに鳴くと、再びロイドの肩によじ登った。


「…? クロはどうしたんだ?」


ロックが尋ねてくる。

原因はロイドも知らない。


「さーな…よくわからん。

鰹節の臭いでもしたんじゃないか?」


「んな訳ねえだろ。」


 

「お前らうるせえぞ!!!

朝早いんだから静かにしやがれ!!!」


ハイド将軍が馬車を引いている馬の手綱を握りながら怒鳴る。


正直、一番ハイド将軍がうるさい。 

「将軍……うるさいっすよ……。」


ロックが頭を掻きながら言う。


「すまん…。…とりあえず日が出たし、出発するか。」


ハイド将軍はすぐそばの兵に指示をする。

兵は軍勢の先頭の方へ駆けていく。


少し経つと軍勢が動き始めた。

馬車も音をたてながらゆっくりと動きだす。


 

「…これからかなり歩くんだよな…。」


ロックが呟く。


「まあな。確か…半々日くらいって言ってたな。」


「半々日って……長い………休みは無しかよ…。」


ロックが大袈裟に肩を落とす。


「大丈夫だお前ら。

休憩はしっかりするからな。

安心しとけ。」


話を聞いていたのか、急にハイド将軍が言う。


「本当すか? 俄然やる気出てきた。」


ロックの目が光る。

本当、現金な男だ。


「みゃーみゃー。」


クロも呆れたように鳴く。


「とりあえず問題なく、護送出来ると良いんですけどね…。」


「いやぁ、わからんぞ。

朝方報告が来たんだ。

なんでも此処等で、ガストロダムとタイムラントの軍勢が一戦交えるらしい。

下手したら、オリオンへのルートを変えるかも知れない。

まあもしもの場合だがな。」


 

「…面倒ですね…。」


「まあな。それに昨日の村を襲った賊の件もあるからな。

いつでも戦える様にしておけよ。」 

「…だるいっす………将軍…上手く護送任務が終わったら、その……給料を上げて下さい……。」


ロックが恐る恐る言う。


「…お前……最近それしか言わないな…。」


「うっせえロイド。良いじゃねえか。」 

「………よし……ロックお前の要望通りこの任務が上手くいったら、騎士団全員の給料値上げしてやろうじゃねえか!!!!!」


ハイド将軍が辺りに響き渡るような大声で言う。


「よっしゃあああああ!!!」


周りの兵が歓声を上げる。

ガッツポーズをしたり、仲間と抱き合っている兵までいた。


「お前ら!!!!気を抜くな馬鹿野郎!!!今から隊列を乱した奴は、減給半年だからな!!!」


ハイド将軍が再び叫ぶ。


喜んでいた兵達は素早く配置に戻る。

驚く程切り替えが早い。

ロックもいつの間にか真剣な顔で歩いていた。

一瞬、殴ってやろうかと思ったが止めておく。

流石に減給は嫌だからだ。


〜二時間後〜


……大分進んだだろうか。

日は少し昇り、暖かくなってきた。クロはロイドの腕の中で寝ている。


「なあ……ロイド………まだ?」


ロックがうなだれながら言う。


「知るかよ…。ハイド将軍に聞けよ。」


「将軍ー……あれ?。」


情けない声でロックは訪ねる。

しかしハイド将軍は返答しない。

不思議に思った二人は馬車の前に周りこむ。


「あれー…ロイド……あの人……。」


「ロック…俺達は何も見ていない…。良いな?」


二人がおかしくなるのも無理は無い。

何故ならハイド将軍が馬車の前にある座席に座りながら、器用にも馬を操りながら寝息をたてて爆睡していたからだ。


「……本当器用だな……寝ながら馬を操るって…。」


「だよな……。」


二人は感心したように言う。


〜更に三十分後〜


周りの風景は変わらず、右手に森左手には広い草原のままだ。

本当に進んでいるのかと疑ってしまいそうだ。


「将軍を叩き起こそうか?」


不意にロックが無茶な提案をする。


「お前ボコボコにされるぞ。」


 

「ですよねー。」


その時だった。

軍勢の前方から兵が一人駆けて来た。


「将軍!!!寝てないで起きて下さい!!!報告です!!!」


兵が大声で怒鳴る。


「ん……おう悪い悪い。

で、報告は?」


ハイド将軍があくびをしてから言う。


「先程すれ違った行商団からの情報で、ここから三km先でガストロダムとタイムラントの軍勢が一戦交えています。

ガストロダム率いるは『閃光』。

タイムラント率いるは『赤鮫』。

どうしますか?」


「……………迂回するか………。

森を抜けるか…草原を抜けるか…どうしようか…ロイド、ロック、こっちに来い。」


ハイド将軍は地図を広げながら言う。


二人は駆け足で近付く。


「一兵としてのお前らの意見を聞きたい。

森を抜けるか、草原を抜けるか、どちらを選ぶ?」


ハイド将軍が地図をなぞりながら呟く。

森を通るルートは、少し遠回りをして戦場を迂回しオリオンを目指す形になっている。

反対に草原のルートは、オリオンまでの距離は短いが戦場ギリギリを通るルートだ。


つまり、安全だが遠回りのルートか危険だが短いルート。

どちらを選ぶかだ。


「将軍…俺は森のルートを選びます。」


ロックが言う。


「何故だ?ロック。」


「護送任務って言うくらいだから、遠回りでも安全に行くのが良しと思ったからっす。

それに森なら、ガストロダムやタイムラントから見えにくくなりますし。」


ロックはたまに的確でかつ正しい事を言う事がある。

今みたいに。


「……確かにな…。ロイド、お前はどう思う?」


ハイド将軍がこちらに向かい、言う。


「自分もロックと同意見です。」


「そうか………。

………よし、二人の意見に俺は賛成だ。

って事で、森を進む。

軍勢を三つに分けろ。

第一部隊は先頭を索敵しながら進め。

第二部隊は馬車の護衛だ。

第三部隊は後ろを警戒しろ。

ロック、ロイド、お前らは第二部隊の馬車の近くで護衛をしておけ。

俺も馬車を護衛する。

さあ、さっさと伝えて来い。」


ハイド将軍は的確に指示をする。

兵は先頭に駆けていく。

軍勢の動きが止まり、将軍の指示通りの配置になる。


右手の森に次々と味方の兵が進む。


この選択が、これからさきどのような事になるのかまだわからない…。

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