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第3話【絶と朧】

ライクス拠点。


ハイド将軍の軍勢とロイド、ロックは今ライクス拠点の入口にいた。


 

すると拠点の中から兵を数人率いた人物が、白地の布に『絶』と描かれた旗を掲げてこちらに向かい歩いて来た。


「ハイド将軍行軍ご苦労。

部下の者達を拠点の中に入れてやれ。

それとハイド将軍、何人か兵を連れて来い。

護送任務について説明する。」


「了解しましたゲイツ将軍。

ロイド、ロック、着いて来い。」


そう、ハイド将軍に指示を出している人物こそ『断絶の壁』、ゲイツ=ギルヘルド将軍。

いかつい顔に短い黒い髪。

いかにも軍人という顔付きだ。


「良いのか?そんな猫を乗せた若僧二人で。」


ゲイツ将軍がロイドとロックを見ながら言う。


「誰を連れて行こうと自分の勝手です。」


ハイド将軍も言い返す。


一触即発の空気が漂う。


「まあ良いだろう。

とりあえずお前の部下は俺の部下に案内させる。

お前と若僧二人は俺に着いて来い。」


 

ゲイツ将軍はそう言うと後ろにいた部下に指示をする。

指示を受けた兵はハイド将軍の軍に駆けて行く。


ハイド将軍の軍が動きだす。


「ほらお前らつっ立ってないで行くぞ。」


ハイド将軍が言う。

ロイドの頭の上で黒猫が大きなあくびをした。


 

しばらくゲイツ将軍に着いて行くと大きめのテントにたどり着く。


「入れ。」


ゲイツ将軍が手招きをする。

テントの中には大きな机と椅子がいくつか置いてあった。

机には地図が広げられている。


ゲイツ将軍は既に机の側に立っていた。


 

「座りたいのなら座れハイド将軍。」


「結構ですゲイツ将軍。

それよりも任務について説明願います。」


険悪な空気が漂う。


「…任務についてだが、お前らは重要物を無事にオリオン砦にいる『暁の虎』将軍に届ければ良い。

それだけだ。」


ゲイツ将軍が地図を指差しながら言う。


「ゲイツ将軍、その重要物について説明願います。」


ハイド将軍が強い口調で言う。


「ふん…教える必要は無いが、護送目標がわからないと話にならんからな……。物の一つはこれだ。」


ゲイツ将軍が指を鳴らす。

ゲイツ将軍の後ろにいた部下が厳重に鍵を掛けてある箱を机の上に置く。

ゲイツ将軍は懐から鍵を取り出し、二重三重にもなる錠前を次々と外していく。


そして箱を開ける。

箱は鈍い音と共に口を開けた。

そこにはクッションが敷き詰められており、中央に一つの透明な宝石が置いてあった。

大きさは大体、ピンポン玉くらいだろうか。


「ゲイツ将軍……まさかこれは…。」


ハイド将軍が驚きの表情をして言う。

ロイドとロックも驚いていた。


「そこの馬鹿そうな若僧二人もわかったみたいだな。

これは光の魔宝だ。しかも特大のな。」


 

「……これで何をするつもりなんです…?下手をしたら国が滅びますよ…!」


ハイド将軍が重々しく言う。


「お前らに何をするか説明する必要がない。

むしろ知る必要性がない。

きっちりと護送さえすれば良い。」 

ゲイツ将軍はそう威嚇するように答えると箱の鍵を再び掛け直す。


「説明しても良いじゃないすか…。」


ロックがぼそりと呟く。


「若僧は黙っていろ。

………それとこれと一緒に護送する者が一人いる。」


「者ですか……?」


「そうだ。

一人の人物…を護送しろ。」


ゲイツ将軍は箱をハイド将軍の方に押しやり、鍵をロイドに投げる。

慌てて鍵を受けとる。


「……その人物はいったいなんなのです?」


「知る必要は無い…が、とりあえず名前だけは教えてやろう。

その人物の名はルナ=セカンド。

お前らにはそれしか教えられない。」


名前から察すると女性の様だ。

多分魔法関係の研究者だろう。


「……わかりました。

では我々は明日の朝この拠点を発ちます。

確か途中までゲイツ将軍も共に任務を受けるのですよね?」


「いや、流石の『陽炎騎士団』ならばこの程度のお使い大丈夫だろう。

俺はこの拠点に駐屯しておく。」


ゲイツ将軍は薄ら笑いしながら言う。


「………わかりました将軍。

それでは我々は失礼します。

ほら行くぞロイド、ロック。」


ハイド将軍は箱を持ち、ロイドから鍵を受け取るとテントから出ていく。

ロイドとロックもその後を慌てて着いてテントから出る。


 

「ああ糞、腹立つ…。」


ハイド将軍が急に呟く。

確かにゲイツ将軍の言い方はこちらを小馬鹿にしていた。


「まあまあ、とりあえずあの将軍はここに駐屯するらしいっすから。」 

ロックが言う。


「そうですよ。良いじゃないですか。」


「まあ…な。

とりあえずは明日の朝ここを発つ。

オリオン砦まで大体、半々日くらいだからな。」


つまり6時間くらいだ。


三人は少し歩く。

すると『陽炎騎士団』の兵達がキャンプをしている場所に着いた。


「俺は部隊長の奴と話をして来る。お前らは適当に猫と遊んでやれよ。」


ハイド将軍はそう言い残すと箱を抱えてすぐ近くのテントに入っていった。


「…………一瞬で暇人になったな………俺ら……。」


ロックが呟きながら近くの丸太椅子に座る。


「まあ良いさ。」


ロイドの頭の上にいた黒猫は頭の上から飛び降り、ロイドの足下に座った。


ロイドも近くの丸太椅子に座り、空を仰ぐ。


「なあ…このちっちゃな生き残りの名前どうするんだ?」


ロックが黒猫を抱き上げながら言う。

言われてみれば黒猫には名前が無い。

正直考えもしなかった。


「うーん……どうしようか…。」


「…ここはベタにタマにするか。」


普通過ぎる。


「却下。普通過ぎる。」


ロックは軽くうなだれた。猫はロックの顔に猫パンチをしている。


「……じゃあもう普通にクロで良いじゃん…。」


黒猫だからクロ。

まあベタだがわかりやすい。


「…クロで良いか…。」


結局、このロックに向けて素早い猫パンチを喰らわせている黒猫の名前はクロに決まった。


「……地味に猫パンチ痛い……。」


いつの間にかロックの顔にはひっかき傷が無数に出来ていた。


 

「ははは…ざまあねえな。」


「ほらクロ、そこの糞緑髪にも猫パンチを喰らわせてやりな。」


クロはロイドの膝の上に移動すると眠り始めた。


「……この野郎……。」


ロックはそう呟くと空を見上げる。


「……暇だな………。」


「そうだな…ロック…。」


 

「久々に訓練するか?」


「……よし、やるかロック!」


クロを起こさないようにそっと丸太椅子の上に移動させる。


そして二人は素早く立ち上がり、すぐそばのテントから訓練用の棒を拝借する。

ロイドが使う棒はいつも使っている刀と同じ長さ。

そしてロックが使う棒は槍と同じ長さで、先端には刃ではなく布が巻かれている。


周りに兵が集まり始めた。

中には賭けをしている兵もいる。


「ロックーてめえ絶対勝てよー。」


「ロイド〜お前負けたら承知しねえぞ〜。」


知り合いの兵が二人に激を飛ばす。


二人は睨み合い、動きを止める。


すると突然ロックが素早く突きを繰り出して来る。


「舐めんなロック!」


正面からの突きを棒で打ち払う。

乾いた音が辺りに響く。


「ほらほら行くぜえ!!!」


ロックが今度は突きを雨の如く繰り出して来た。


全てを防ぐのは無理だ。

避けられる物は体を捻り避け、当たりそうな物は棒で払う。


「守るのは好きじゃねえ。」


今度はこちらから仕掛ける。

上横下様々な角度から棒を振るう。


「うわわわっと……!」


ロックは情けない声を発しながらも棒の真ん中の辺りで攻撃を防いでいる。


周りの兵から歓声が上がる。


「俺も守りは嫌いだけどな。」


ロックはロイドの攻撃をしゃがんで避ける。

そして地面すれすれの回し蹴りを放つ。


「うおわあ!!!」


見事に回し蹴りを喰らい、派手に倒れてしまった。


素早く起き上がろうとする…が。

目の前には棒が突きつけられていた。


周りの兵からは歓声や落胆の声が響く。


「これで俺の勝ちだあ!!!」


ロックが笑いながら言う。


確かこれで三十三敗目。

対ロック通算三十三勝三十三敗。

つまりほぼ互角。


「あちゃー………負けた…。」


ロックの手を借りて立ち上がる。


「確かこれで通算成績は互角の筈だよな、ロイド。」


「ああ。今のところはな。」


 

「いつか勝ち越ししてやる。」


「いつかな。」


二人は同時にニヤリと笑う。


しかしその後悲劇が起きる。


「見てたぞーロック。

今回お前が勝ったんだな。」


ハイド将軍が長い棒を持ち、急に現れた。


「……………将軍………まさか………。」


「当たり前だ。

負け抜けだから、ロックお前が俺と闘うんだ。」


ハイド将軍は毎回、勝った方と闘っている。

ちなみにロイド、ロック両方ともハイド将軍に勝った事が無い。

まあ当たり前だろう。


「そんな殺生な…………。」


ロックはそう言いながらも棒を構える。


周りの兵からハイドコールが始まる。


「ロック……死ぬなよ……。」


「ロイド……今までありがとう…。」


とりあえずクロが心配なので兵の間をすり抜けて、さっきの丸太椅子の所へ向かう。

途中ロックの切ない叫び声が聞こえたが気にしない。


 

丸太椅子の前に着いた。


「クロ?何処だよ…。」


クロが寝ていた場所にはクロの姿が無い。


「なあ、ここにいた黒猫知らない?」 

近くにいた知り合いの兵に聞く。


「ああ、あの猫ならさっきあっちに歩いていったぞ。」


兵はコップを片手に拠点の奥の方を指差す。


「ありがと。ロックに猫探して来るって伝えといてくれ。」


兵が指差す方向に駆け出す。


「おう、わかった。気を付けろよー。」


兵は手を振り、ロイドを見送る。


 

少し進むと、あまり人気が無い所へたどり着く。

手当たり次第に探す。

テントの陰、椅子の下、矢倉の上、しかし何処にもいない。


「猫は気まぐれって言うからなあ…。」


などと独り言を呟く。


その時だった。

左側にある建物の方から人の気配がした。

ちょうど良い。

クロについて尋ねようと建物方へ近付く。


建物の角から顔だけを出す。


「……あれ……?」


そこではベンチに座ったロイドと同年代くらいの女の子が、黒猫…クロと遊んでいた。


女の子は長くて水色の髪をしている。


クロと目が合った。

こちらにちょこちょこと近付いて来た。


「あれ? どこいくの?」


女の子はベンチから不思議そうにクロを見ている。


こうやって覗いているだけだと、勘違いされるかも知れないのでとりあえず建物の角から姿を現す。


足下にクロが寄って来たので抱き上げる。


その後、女の子と目が合ってしまった。

一瞬気まずい空気が漂う。


この雰囲気は嫌いなので、とりあえず女の子の所へ向かう。


「あー…ごめんね…。

邪魔するつもりは無かったんだ…。」


ロイドの肩からクロが、座っている彼女の膝に飛び降りる。


「この猫ってあんたが飼っているの?」


彼女がクロを撫でながら問いかけてくる。


「あー…一応、そうだよ。

その猫はクロって名前なんだ。」


「へー……クロかあ…。

ところであんた、軍の人間?」


「傭兵だけど今はハイド将軍に雇われているから、一応そうなるね。」


首をすくめて答える。


「へぇー……頼りにならなさそうねー。」


彼女は笑いながら言う。


「ははは…酷いねえ。」


「冗談よ。冗談。

…ところであんたの名前は?」


「俺? ロイド。ロイド=セントラルって言うんだ。」


「ロイド…ね。

このクロちゃん可愛いわね…。」


彼女は膝の上でゴロゴロ鳴いているクロを撫でながら言う。


「ところで君の名前は?」


「……私? それは…内緒。」


彼女は笑いながら答えた。


「……なんだそりゃ。」


二人は同時に笑う。


「…そろそろ私戻らなきゃ…クロちゃん、ロイドありがとうね…。」


彼女はクロを抱き上げロイドの肩に乗せる。


「…縁があったらまたクロと遊んでやってくれよな。」


「みゃーあ。」


 

「……わかった…。遊んであげる。

それじゃあ、バイバイ。」


彼女は寂しげな表情で建物の中に入っていった。

ただ何かが引っ掛かる。

彼女が最後に言った『バイバイ』なんだかこれから死に行くような感じの言い方だった。


「考え過ぎか…だよな…クロ…。」


「みゃあ。」


クロは肩の上で鳴いた。

考え過ぎだろうと言わんばかりに。


時は夕焼け。

これから何が起きるのか…。

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