第2話【小さな生き残り】
朝。
シャレオント軍はキャンプを畳み、ライクス拠点へと行軍していた。
昨日戦をした草原を通り抜けひたすら軍は進む。
途中、村を発見した。
だが村は賊に襲われたのかいたる所の家が壊れていた。
「村の様子を見に行く。
ロイド、ロック、あと数人の兵は俺に着いて来い。
残りの兵は周りを警戒しろ。
賊がまた来るかもしれないからな。」
ハイド将軍とロイド、ロックそして数人の兵が村へと入る。
「ロイド、ロックお前らはあっちを頼む。生き残りがいるかどうか調べてくれ。
無論見付けたら保護しろよ。」
ハイド将軍はそう指示をすると数人の兵を連れて村の中心部へと向かった。
ロイドとロックは辺りの家などを調べる。
「…………ひでえな……こりゃ…………。」
ロックが苦々しく呟く。
2、3軒の家を調べたが中には無惨に殺された村人の亡骸しかなかった。
しかも女子供関係無しに皆殺しにされていた。
「賊の仕業だな………。」
ロイドは亡骸に布を被せながら呟く。
「…………ったく………嫌な時代だねえ…………。」
家から出る。
「とりあえずハイド将軍の方は何か見付かったかもしれない。
合流しよう。」
中心部へと向かう途中にも亡骸が転がっていた。
「本当生き残りなんているのかよ…。」
ロックが歩きながら呟く。
「少しでも希望があるからハイド将軍は生き残りを探したんだろ。」
「んな事わかってるけどよ……この状況は酷すぎだぜ…。」
ロイドは今までいくつもの襲われた村を見てきたが、こんなに亡骸が転がっているのは始めてだ。
ハイド将軍と数人の兵が中心部からこちらに帰ってきた。
「将軍…そっちもですか?」
「ああ…生き残りはいなかった…。お前らの方も駄目みたいだな…。」
ハイド将軍は溜め息混じりに言う。
「どうしてこんな事になったんすかねえ。」
今度はロックが溜め息混じりに言う。
「賊は村を襲い食糧と金目の物を奪って行ったみたいだ。」
「戦争に巻き込まれたせいですかね…。」
「………とりあえず墓を作るか………。」
ハイド将軍とロイド、ロック、数人の兵で穴を掘り犠牲になった村人を埋めて墓を作る。
「………ふう……これで全員か……。」
ロックがスコップ片手に呟く。
「ああ………そうだな………。」「よし…お前ら、戻ってライクス拠点へ向かうぞ。」
ハイド将軍と数人の兵が村から出て行く。
ロイドとロックも肩を落としながらとぼとぼと村から出ようとする。
その時だった。
崩れた家の影がから小さな何かが飛び出して来た。
「うわわわわっ………!!!!!…………ってなんだ猫か………。」
ロックが驚きながら呟く。
猫は全身真っ黒の黒猫だ。
「この村の唯一の生き残り……か……。」
ロイドは猫を刺激しないように近付く。
「ミャア。」
猫は一鳴きするとロイドに寄って来た。
「お前その猫に好かれたみたいだな。」
ロックが笑いながら言う。
「この猫連れて行っても大丈夫だよな?」
「ハイド将軍なら許してくれるだろう。
とりあえず早く戻らないと殴られるぜ。」
「ああ…わかってるって。」
ロイドは猫を抱き上げてロックと共に村から出る。
既に軍は行軍の準備を済ませていた。
「お前ら遅えぞ!!!
ってなんだその黒猫は?」
ハイド将軍が問いかけてきた。
「えー……この村唯一の生き残りです。」
ロックはもう既に頭を守っている。
「結局一匹しか助からなかったのか……。
……とりあえず早くライクスに向かうぞ。
ロック殴らないから早く配置に行け。」
黒猫はロイドの肩の上に器用に乗っている。
少ししてまた行軍が始まる。
黒猫はロイドの肩から頭の上へ移動していた。
「その猫本当に人慣れしてるよな。」
ロックがまじまじと黒猫を見ながら言う。
「多分あの村で飼われていたんだろ。」
「だよな…。
それと村を襲った賊は何処に行ったんだろうな…。」
「わからないけどよ…まだここら辺に居るんじゃねえかな。
まだ村を襲った跡も新しいしな。」
「本当、面倒事はごめんだぜ…。」
「お前ら、何暗い話をしてんだよ。」
不意にハイド将軍が現れた。
馬にも乗らずに意気揚々と歩いている。
「うわっと…将軍、気配消して急に現れないで下さいよ。」
ロックが驚きながら言う。
「良いじゃねえか。
ところでその猫ちゃん、ロイドにかなりなついているな。」
「自分も良くわからないんですけどね。」
ロイドは頭の上で寝ている猫の頭を撫でる。
「まあ良いさ。
ライクス拠点は後少しだし、向こうで一泊してから護送任務に就くからな。」
「将軍…ところでやっぱり護送する『重要人物』についてわからないんすか?」
ロックが聞く。
「今の状況は全くわからないとしか言いようがないんだ。
ただ向こうに着いたら『断絶の壁』から説明される筈なんだがな…。
本当めんどくせえ…。」
ハイド将軍は頭を掻きながら呟く。
「実際、ハイド将軍と『断絶の壁』どっちが強いんすか?」
「あー…あの将軍は性格最悪だし、俺とは戦術も全く違うからな…。
魔法もどうかわからんし…。
なんだかんだ言ってあの将軍強いしな…。」
ハイド将軍は人を過大評価もせず過小評価もしない。
つまり本当の事しか言わないのだ。
「同じ国の将軍同士戦う筈ないですよ。」
「でも実際あの将軍の方が位が高いからな…。
渡されている『魔宝』はあっちの方が上質だろうし。」
ハイド将軍が指に填めた指輪を見せてくる。
その指輪には赤い小さな宝石が輝いている。
「……そろそろ俺らにも魔宝を………。」
ロックがガードを固めながら呟く。
「魔宝は貴重なんでな。
将軍にしか支給されてないんだよ。」
この世界では魔法は誰でも使えるという訳ではない。
『魔宝』と呼ばれる魔力が宝石化した物を身に付け、更に鍛練をしないと使えない。
魔宝から体を媒体にして魔法を放つ仕組みだ。
時折自分の武器に魔宝を仕込む将軍も居る。
その場合はかなりの実力と精神力を必要とする。
「魔法国シャレオントでもかなり魔宝は貴重なんですよね。」
「ああ。
だからこの『セントラル』の魔鉱山を手に入れようと必死なんだろう。」
いつの間にかロックの首を絞めていたハイド将軍が答えた。
「止めて許してごめんなさい!!!!」
ロックが必死に叫んでいる。
「確か魔宝の色で使えるようになる魔法の種類が違うんですよね?」
とりあえず助けを求めて来るロックを無視して問いかける。
「そうだ。
魔宝の色が赤なら炎、青なら水、紫なら雷、茶色なら土、緑なら風、透明なら光、黒いなら闇って具合だな。」
ハイド将軍はロックの首から腕を離す。
「死ぬかと思った……。
…光と闇の魔宝は特に貴重なんすよね?」
ロックが首を擦りながら言う。
「正直、俺も光と闇の魔宝は見たことが無い。
それくらい貴重なんだよ。
あとそれにまだ魔宝には謎が多いからな…。
下手したら『セントラル』が吹き飛ぶ程の魔宝が有ったっておかしくないな。」
「……つまり一国滅ぼせる可能性をこんな小さな宝石が秘めてるって事ですか…。」
「ああ。
大体、俺の拳位の大きさの魔宝があれば一国位簡単に吹き飛ぶだろうよ。
まあそんな大きさの魔宝ある筈が無いけどな。」
ハイド将軍が拳を握り、言う。
更に言葉を続ける。
「魔法って言ったら…話は変わるが、お前ら知ってるか?」
「何をですか?」
ロイドとロックは同時に話に食い付く。
「ロードヘイムとガーデンプレイスって言う『セントラル』での戦争に参加していない国があるのは知ってるよな?」
「確かその二つの国は同盟を組んでいるんですよね。」
「そうだ。
その二つの国の王家の家系は魔法に関して特殊な血をひいているらしいんだ。」
「特殊な血っすか?」
「なんでも、魔宝を使わないでも魔法が使えるって特殊な能力らしい。あと魔宝の力を増幅させる能力もだ。
それで今から…十五、六年前だろうな。
その二つの国の国王の子供二人が4、5歳の時に、何者かに連れ去られて今も行方不明らしいんだ。」
「連れ去りですか……。」
「その時の連れ去った犯人はシャレオント軍の関係者らしいって噂が一時期流れたんだよな。」
「本当ですかそれ……。」
「ああ。
ロードヘイムに親しい友人がいるんだが、そいつから聞いたからガセじゃあない。
つっても連れ去り犯がシャレオント関係者ってのは噂だけどな。」
「裏がありそうっすね……。」
ロックが苦々しく言う。
「表があれば裏があるのは当たり前と考えとけよ、お前ら。」
その時だった。
行軍中の軍勢の先頭の方から兵が一人逆走してきた。
「将軍! ライクス拠点が見えました!」
兵が報告をする。
「そうか……よし、ロイド、ロック俺と一緒に先頭に行くぞ。」
ハイド将軍はそう言うと報告に来た兵と一緒に小走りに走りだす。
とりあえずライクス拠点に到着するようだ。
護送任務とはなんなのか…。
まだ太陽は真上にある…。