表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

第1話【始まりは血が降る戦場】

その戦場では白兵戦が展開されていた。


シャレオントとガストロダムの兵が入り乱れ至る所に屍が転がっている。

だが争いは激しさを増すばかりだ。


そんな戦の中一際目を引く兵が二人いた。


片方は刀を持ち、緑色の髪と右目についた傷が目立つ若い兵だ。


その隣には槍を操る相棒と思われる茶髪で目の下に隈のあるこれもまた若い兵が敵の兵を斬りつけていた。


二人は若いながらもかなりの腕前だろう。

時には連携をし、守り合い、次々と敵の命を奪っていった。



「おい、ロイド…大分敵減ってきたよな。」


槍を突きだしながら目に隈のある若者が、隣で刀を振るう緑髪の若者…ロイドに聞く。


「減りはしたけど、『三日月』を殺らないと終わらないぞ。

後一踏ん張りだぞ、ロック。」


ロイドは向かって来た敵兵を斬りつけながら隈のある若者…ロックに向かい答えた。

「しかし『朧火』の将軍は何処にいるんだか…わかるか?ロック。」


「多分あの旗の下じゃねえか?。

ちょうど敵陣に深く食い込んでいる所らへんだろ。」


ロックが指を差す。

指差す方向には『朧』と黒地の布に赤色の文字が書かれた旗が風に吹かれ揺れていた。


「あそこか…後少しで『朧火』の将軍と『三日月』がぶつかるだろうな。」


「そろそろ決まるか…。」


二人はしばらく無言で敵兵を斬り倒して行く。



風のように敵の間を駆け抜け次々と敵の命を奪うロイド。


槍を振り回し、雷撃の如く鋭い突きで敵を確実に死へおいやるロック。 

二人は古参の傭兵だ。

しばらく前から『朧火』将軍に雇われている。


三人の敵兵がロイドに襲いかかる。

一人目は斬り倒す。

二人目の攻撃を身を捻り避ける。

三人目の攻撃。

避けきれない。


その時、横からロックが槍で三人目の兵を突き刺す。


「今度飯をおごって貰おうか。」


ロックがニヤリと笑う。


「いいや、これで無しだ。」


ロイドはロックの後ろを狙って来た敵兵を斬り倒す。


「ああ…俺の飯が………。」


「今度おごってやるから、ほら行くぞ。」


二人は再び敵の中に突っ込んで行く。


血が雨の如く降る。

敵の血か味方の血かわからない。


二人は敵本陣に深く切り込む。


すると突如、視界の端から巨大な剣を振るう一人の人物が現れた。

髪は灰色で銀色にも見える。


「『朧火』のハイド…!!!!」


彼の…ハイド将軍の姿を見た瞬間敵兵が恐怖の表情を浮かべながら呟いた。


彼がロイド、ロックの雇い主でシャレオントの将軍。

『朧火』と呼ばれる将軍、ハイド=モラトリアム将軍。


「ああロイドとロックか。

お前ら最後の一踏ん張りだぞ!

気合い入れろよ!!!」


ハイド将軍は周りの味方を激励すると共に、ロイドとロックに軽く挨拶をした。


「将軍、『三日月』は何処に?」


「多分この奥にある、あの旗の所だろうな。」


うっすらとだがハイド将軍が指差す方向には三日月が描かれている旗が見えた。



「将軍、指示を願います。」


すぐそばに居る味方兵がハイド将軍に指示を仰ぐ。


「………よし。

一点突破だ。ロイド、ロック、俺に着いて来い。

残りの兵は俺らの後ろから援護してくれ。」



ハイド将軍は剣を担ぎ駆け出す。

ロイドとロックはハイド将軍の側を離れない様に着いて行く。

後ろからは味方の軍勢が着いて来ている。


先ほどいた場所よりも深く、敵陣に切り込む。


ハイド将軍が剣で次々と敵兵の首を跳ねていく。

血が降り注ぐ。


ロイドとロックもハイド将軍が殺りきれない敵兵を次々と斬り倒す。


………見えた。


一瞬だったが敵兵と敵兵の隙間から『三日月』の姿が。


ハイド将軍はそれを見逃さなかった。


ハイド将軍はロイドとロックを尻目に『三日月』がいる場所へ飛び込んだ。


『三日月』の旗が揺らぐ。

ロイドとロックも後続の為の道を切り開きながら続いて飛び込む。


既に勝敗は決まっていた。

血が滴る剣を片手に立っているハイド将軍の横には、もう既に絶命したと思われる『三日月』将軍が倒れていたからだ。


「『三日月』将軍討ち取った!!!!」 

ハイド将軍が辺りに響き渡るよう大声で叫ぶ。 

敵兵は動揺し、敗走を始める。


「よし、追撃だ!!!叩き潰せ!!!」


ハイド将軍は素早く味方の軍勢をまとめて追撃を開始した。


草原はガストロダムの兵の血で赤く染まった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 


夕闇。

先ほど戦のあった場所から離れた所でシャレオント軍がキャンプをしていた。


 

夕食の準備をする者や、もう既に食べ終わり騒いでいる者、怪我人の治療をしている者、様々な兵が思い思いの時間を過ごしている。


キャンプの少し端の方でロイドとロックは座っていた。


ロイドは刀をいじっている。

そのすぐそばでは、ロックが先ほどの戦で負ったであろう腕の傷に包帯を巻いていた。


「ロック、大丈夫か? その傷。」


ロイドが刀をしまいながら問う。


「ああ、大丈夫だ。軽い軽いかすり傷だ。」


ロックは包帯を片付けながら答えた。


「なら別に良いけどよ。」


ロイドは焚き火に枝を投げ入れる。


「……なあ…今回の戦は激しかったな。」


「まあ、激しかったけどよ…味方の被害が少なかったよな。」


「流石は『朧火』将軍って感じだなあ。」


ロックがあくび混じりに言う。


 

「あの人は兵の立場になって物事を考えてくれるからな。」


「だったらもう少し給料上げて欲しいよ…。」


「今のままでも十分だけどな。」


二人はしばらく他愛のない話をする。


「ようお前ら。なに話してんだ?」


不意に聞き慣れた声が響く。


「ああ…ハイド将軍ですか。」


ロイドが振り返るとそこにはハイド将軍が丸めた紙を持って立っていた。


 

「なんだ俺じゃ不満か?」


「いやいやいや、そんな事はないっすよ。」


ロックが慌てて立ち上がりながら言う。

 

「あー…座ってて良いぞ。

むしろ座れロック。これからお前らに行き先を教えておこうと思ってな。」


ハイド将軍はロックを座らせるとロイドとロックの間に座り、持っていた紙を広げる。

その紙は地図のようだ。

 

「行き先ですか?なんで自分達みたいな兵に教えてくれるのですか?」 

「お前らとは長い付き合いだからな。信用してるんだよ。」


ハイド将軍は笑いながら言う。


「だったらもう少し給料を上げ………。」


「とりあえず、これから新しい任務を受けに『ライクス拠点』に向かうんだ。」


ハイド将軍はロックの申し出を普通に無視して説明する。

ロックは軽くうなだれていた。


「将軍…ライクスって…奴が駐在しているじゃないですか…。」


「今回の任務は奴…『断絶の壁』の野郎から受け継ぐ…いや……途中まで一緒に行動するんだよな…。

嫌になるぜ全く…。」

 

『断絶の壁』はシャレオントの将軍で、守りに優れた将軍だ。

ただ性格に難があり更にはかなり残虐な性格をしている。

しかも『朧火』のハイド将軍よりも地位が高い為に『陽炎騎士団』の事を軽視しており、たびたびハイド将軍と『断絶の壁』将軍は対立していた。



「それで任務ってのは一体なんなんすか?」


「とある重要な人物をライクス拠点から、オリオンの砦に護送するって任務らしい。

しかもその重要な人物は俺にも知らされていない。」


「………オリオンって確か巨大な研究施設がありますよね。」


「俺は魔法関係の人物の護送だと睨んでいるんだがな…。」


ハイド将軍は立ち上がり地図を懐にしまう。


「それじゃあ俺は部隊長の奴らと会議をしてくる。

早く寝ろよ。」


ハイド将軍はニヤリと笑いながらテントへ向かい歩いて行った。


「あーあ…結局給料の値上げは無理か……。」


ロックが溜め息を吐く。


「アホか…俺らは良い将軍に雇われたんだから、文句言うな。

大体給料は良い方だぞ。」


ハイド将軍は人望も厚く、兵からも慕われている。

戦いのやり方も無理な攻めはしない。

無理に攻めて兵を失うよりも、素早く戦局を見極め、兵を死なせ無いような戦いをする。

『朧火』のハイド将軍はそんな人物だから慕われる。


 

「わかってるって。

さあて…明日も大変そうだし、寝るかあ。」


ロックはその場に寝転ぶ。

一分と経たない内に寝息を立てて寝始めた。


「………寝付き良過ぎだろ……。」


などと独り言を呟く。


夜空には宝石を砕いたかの様な星が瞬いている。

月は満月。


ロイドもその場に寝転び目を閉じる。


物語は始まったばかりだ…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ