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第14話【伝えるべき事】

砦の中の建物の一部屋にロイド達はいた。


先程の戦いから帰還した彼等はこれからについて話し合いをしていた。


「それで…結局どうするんですか?」


窓辺に立っているロイドが苛立ちながら言う。

先程からハイド、タイト、ランスの三将軍は昔話しかしていないからだ。


「ちょっと落ち着きなさいよ!」


ルナはロイドの足下のクッションに座り、ロイドの足に寄りかかっていた。

ルナの肩の上にはクロがいる。


「にゃはははは、怒られちゃったにゃ。」


タイト将軍はソファーに座っている。


「流石に話をし過ぎたか…。」


ランス将軍はタイト将軍が座っているソファーの向かい側のソファーに座りながら苦笑する。


「怒るなよロイド。」


ハイド将軍はタイト将軍の隣に座っている。

左の肩口に巻かれた包帯が痛々しい。

結局、ハイド将軍は左腕を失なってしまった。

だが本人曰く

「生きていれば大丈夫」と言っているので大丈夫だろう。

それにロイドの知っているハイド将軍はこのくらいではくじけない。


「……………。」


ミセルさんはハイド将軍が座っているソファーの後ろに立っていた。

砦に戻ってからは暗い表情でうつ向き続けている。

ハイド将軍の左腕について責任を感じているのだろう。


「それにしても驚いたにゃ…ロイドの刀にあんな力があったにゃんて。」


タイトが不意に言う。


「あの職人の親父さん食えねえ奴だな…。」


ハイド将軍も苦笑する。


「ええ…、肝心な事を教えてくれませんでしたし…。」


ロイドは戦の後で再びあの職人の鍛冶屋を訪れた。

あの緑の光と魔法について質問をしに。

職人曰く、

元々その刀には魔宝が練りこまれていたようで、その魔宝は風の魔宝だそうだ。

『伝説の鍛冶師』のジンは自らの造った刀に魔宝を練りこむ事があるらしい。

職人の親父はその力の解放を少し手助けしただけだと言っていた。


「刀って珍しいわよね?」


ルナがロイドの腰に携えてある刀の鞘を触りながら言う。


「遥か昔の東の国の武器らしい。

切味が優れている。

わかっているのはそれだけだ。」


ランスが説明をする。


「へえ…意外と凄いのね…。」


 

ルナは驚きの表情をする。


「……ところで本題に入ろうか……。

これからについてだ。」


ランスが一つ咳をしてから話を切り出す。


 

「…うーん…やはりここからロードヘイム国城に向かうしかないにゃ…。」


タイトはおもむろに懐から地図を取り出す。


「ロードヘイム国城には鳥を使って連絡をした。

多分受け入れてはくれるだろう。」 

ランスが言う。


「しかし…追撃は必ず来るだろうな…。」


ハイド将軍が柄にもなく呟く。


「ってなんでロードヘイムに向かう訳?」


ルナが急に質問をする。

気まずい空気が流れる。

ルナは自分がロードヘイム王の娘だとは知らない。


「………ロイド…頼んだ……。」


ハイド将軍が暗い表情で言う。

ルナに真実を教えろと言う事か。


「……?何よロイド、早く教えてよ。」


ルナは不穏な空気に気付いたのか、真面目な顔でロイドを見つめる。

言うしかないのか。

ロイドは少し黙ってから、


口を開く。


「なあ…落ち着いて聞いて欲しいんだ…今から話す事は全て真実だから…。」


「……………?」


ルナは不思議そうな表情をする。


ロイドはそのまま言葉を続ける。


「ルナは……ロードヘイム王の娘……つまり…ロードヘイム国の姫なんだ…。」


一瞬の沈黙。


「何よロイド、下手な冗談ね…。」


勝気な態度をルナはとるが、表情は明らかに動揺の色を見せていた。


「………嘘じゃないんだルナちゃん………。」


ハイド将軍がソファーから立ち上がり、窓から外に視線を移しながら言う。


「どういう事か詳しく説明しなさいよ…。」


ロイドの足下に座っている眼帯を着けたルナの表情が曇り始める。


 

「ルナは…小さかった頃に、シャレオント軍に誘拐されたんだ…。」


「……私が?でも記憶が無いし…第一、私がロードヘイムの姫だなんて確証はあるの?」


「確証はあるにゃ…。ロードヘイムの姫が小さかった頃の面影や髪の色が証拠にゃ…。他にも僕が調べた事があるにゃ…。間違いは無いにゃ。」


タイト将軍がおもむろに帽子を外しながら言う。

耳が揺れている。


「ちょっと待ってよ…なんでタイトはロードヘイムの姫の小さかった頃を知っているのよ…?」


ルナがロイドの手を掴んで立ち上がる。

クロはしっかりと肩にしがみついていた。


「……僕が…誘拐の主犯だからだにゃ……。

君には本当に悪い事をしたにゃ…。

本当にごめんなさいだにゃ…。」


タイトは立ち上がり、頭を深く下げる。


「………ねえロイド……本当の事なの?」


 

ルナの右目には涙が溜っている。


「本当の事だ………全て。」


ランス将軍が口を開く。


「それじゃ…私の左目は……?」


「それは心配いらないにゃ、視力は失いはしないにゃ。」


タイトは頭を下げたまま言う。


「………ちょっと……一人にさせて……。」


ルナはうつ向きながら言う。

右目からは涙が流れていた。


「…わかった…ロイド、タイト、ランス、ミセル、部屋から出るぞ。」


ハイドが最初に部屋を出る。次にランスがそしてミセルが出る。

タイトは深く帽子を被りなおして、うつ向きながらランスの後について部屋を出て行った。


「…何かあったらいつでも呼んでくれよ。」


そう言い残してロイドも部屋から出ようとする。


「ありがと……。」


ルナの声が聞こえた。

それに対して手を振り、ロイドは部屋を出て扉を閉める。


部屋の外ではハイド将軍とルミネが立っていた。


「タイト将軍とランス将軍はどちらに?」


二人の姿が見えないので聞く。


「あいつらなら手紙を持った鷹が来たとか何とかで、行ったぜ。

タイトは動物と会話出来るからな。」


 

「会話出来るのは便利ですよね。」


動物と会話出来るのは、優れた武器になる。

諜報行動にも使えたりと勝手が良さそうだ。

だからあそこまでの地位に登り詰めたのだろう。


「鳥を諜報行動に使ったりとか出来るからな。」


ハイド将軍は側の椅子に座る。

ロイド達がいる場所は広い講堂の様な場所だ。

多分いつもなら軍議か何かに使われているのだろうか、長机と椅子が沢山置いてあった。


ロイドも側の椅子に腰掛ける。

長机を挟んでハイド将軍と向かい合う形になる。


「ミセルは座らないのか?」


ハイド将軍が立っているミセルに言う。


「…私は…結構です。」


ミセルは暗い表情でぼそりと言う。

未だにハイド将軍の左腕の事に責任を感じているのか。


「とにかく座りな。」


ハイド将軍がルミネの腕を右手で掴み、無理矢理隣の椅子に座らせる。


「ルミネお前…俺の腕を失ったのは、自分の責任だと思っているのか?」


ハイド将軍が机に広げてあった地図に視線を落としながら言う。

一瞬ルミネの肩が揺れる。


「…ハイド将軍は…私をかばって…。」


ルミネの表情が暗くなる。


「……お前の気持ちは良くわかる。俺も昔もっと酷い事があったからな。」


ハイド将軍が天井を見上げながら言う。


「ハイド将軍の昔って何ですか?」


ロイドは身を乗り出して聞く。

ハイド将軍は昔を語らない人だ。

興味深い。


「ちょっと落ち着け馬鹿。」


一撃、将軍に右拳で頭を殴られた。衝撃でクラクラする。


ミセルは唖然とした表情でやりとりを見ている。

一将軍と只の傭兵がこんなにも親しそうにするのが珍しいのだろう。


「まあ俺がまだ、兵士だった頃の話だ。

とある楽に勝てそうな戦だった。

俺は先鋒部隊の一兵として、戦っていた。

そして敵の将軍を討ち取った。

残った残党を潰している時だったな…。

俺が油断した時に、敵兵士に不意打ちを喰らいそうになったんだ。

あの時は死を覚悟したな…。

だがその時俺が所属していた軍の将軍が身を呈して助けてくれたんだ。

命と引き換えにな。」


ハイド将軍が染々と語り始める。


「その将軍とは…?」


ミセルが聞く。


 

「忘れもしない、『十三神将』の一人『不知火』のジェス将軍だ。

あの人は只の一兵の為に命を自ら捨てた。

俺は責任を感じて兵士を辞めようと思った。

だが俺が辞めてもジェスは生き返らない。

だったら俺はジェスの様な…いや、ジェスを超えた将軍になろうと思ったんだ。

それがせめてものジェスに対しての報いになる。

そして俺は再び戦場に戻った……。

まあくだらない昔話だな。」


ハイド将軍は頭を掻く。

ロイドも初めて聞いた事だ。

この常識外れで親しみやすい将軍にそんな過去があったなんて…。


「まあ要はミセル、あまり腕については気にするな。

俺は死んではいないし、片腕くらい無くても問題は無いからな。」


ハイド将軍は笑いながらミセルを見る。


「強い人だな…貴方は…。」


ミセルが少し微笑む。

八重歯が目立つ。


「そうだ、それで良い。俺に敬語はいらないからな。」


ハイド将軍は笑いながら言う。


「将軍…じゃあ自分も敬語…。」


「流石にお前は駄目だ。」


ハイド将軍は平手でロイドの頭を軽く叩く。

乾いた音が響く。

普通に痛かった。


「わかりましたよハイド将軍…。」


ロイドは頭を擦りながら言う。


「……聞きたい事があるのだが…ハイド将軍、ラージ所長とはどのような人物なのか?」


ルミネがハイド将軍に尋ねる。


「…あの男は武器開発と魔宝研究を任されている奴でな、色々と怪しい事をしているらしい。

『合成獣』を造ったり、人体実験、とにかく裏で何をやっているか、わからないんだ。」


「『合成獣』?」


聞き慣れない言葉にロイドは首を傾げる。


「要は人工の化け物だ。

各々の生物の優れた部分同士と魔宝をくっつけて、最強の生物を造ろうって魂胆なんだろう。」


「自然を螺子曲げてまで、戦に勝ちたいって訳ですか。」


「だろうな…シャレオントは魔鉱山を欲しがっていたし、早い所ガストロダムとタイムラントを潰したいのだろう。

だからロードヘイムとガーデンプレイスを利用したって訳だ。」


「自分勝手な事だな…。」


ミセルが天井を見上げながら呟く。


「これが争いだ。

要は勝てば良い、それだけなんだよ。」


ハイド将軍が言う。勝てなければ意味が無い。


「…ところでロイド君、ルナちゃんの様子は?」


ミセルがルナのいる部屋を見ながら言う。

あれから少し時間が過ぎた。

ルナは大丈夫なのか?


「ロイド行ってこい。様子を見てきてくれ。」


ハイド将軍が言う。


「わかりました、任せて下さい。」


 

ロイドは椅子から立ち上がり、扉を軽く叩く。

少しの間の後に中から声が響く。


「…っ……誰…?」


ルナの声がか細く扉越しに聞こえる。


「俺だけど…入って良い?」


「………良いわよ…。」


詰まり詰まり声が聞こえる。

泣いているのだろうか?

ロイドはゆっくりと扉を開く。

中にはルナが先程と同じ位置の窓辺のクッションの上でうずくまっていた。

ルナの近くではクロが心配そうにルナを見つめていた。


「…ルナ…その…ごめんな…。」


ロイドは声を掛ける。

今まで事実を隠していた事を謝る。

一瞬の沈黙。

そしてルナが伏せていた顔を上げる。

ルナは泣いていた。顔には赤みがかかっていて、眼帯の下からも涙が流れた跡があった。


「…何であんたが謝るのよ…馬鹿みたい…。」


ルナが天井を見上げながら言う。その表情は少し笑っていた。


「ルナ……あの…その…。」


「私ならもう大丈夫よ。色々悩んだけど…もうふっきれたわよ。」


ルナは立ち上がるとロイドに背を向けて窓から外を眺める。


 

「…本当にか?」


ロイドもルナの隣に並び外を眺める。

「しつこい男は嫌われるわよ。

…そうそう、ロイドちょっと待ってて。」


ルナは不意にそう言うと長机の上に置いてあった小さな箱を持ち、ロイドの前に再び戻る。


「あんたにあげる。」


ルナはそう言うと箱をロイドに押し付ける。


「…?ありがとう。」


ロイドはゆっくりと箱を開ける。

そこには腕輪が入っていた。

腕輪には黒い宝石が一つ埋め込まれている。


ふとルナの腕を見る。

同じ様な腕輪に白い宝石が一つ埋め込まれている物を着けている。


「これはね、あんたが鍛冶屋に行っている時に買った物よ。

何か不思議な宝石だとかミセルさんが言っていたから、お揃いのを買ったのよ。

大切に着けなさいよね。」


ルナは腕に着いた腕輪を見せながら言う。


「ありがとう大切にするよ。」


腕輪を腕にはめる。

ちょうど良い大きさだ。


「似合ってるじゃない。」


ルナがまじまじとロイドを見る。


「そうかな?」


「そうよ。」


そして二人は微笑む。

ずっとこの時間を味わっていたいと二人は思っていた。

だがそう長くは続かないとロイドは感じていた…。

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