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第13話【道化が笑う】

正門の上。


「やっと来たか、タイト。

ミセル、武器を持ってこい。」


そこには既に鎧を着込んだランスが鎌を担いで立っていた。


 

「了解しました、将軍。」


ミセルはまた走り出す。

きっと自分の武器を取りに行ったのだろう。 

「それで、ゲイツの軍は何処だにゃ?」


「彼処だ、これを使え。」


ランスは二つ双眼鏡をタイトに投げる。

タイトは片方をロイドに手渡す。


「砂煙が見えるだろう。

大体後少しでアリアルに近付く。

弓部隊を城壁の上に配置する。

籠城するぞ。」


確かに砂煙が見える。

ロイドは双眼鏡を覗く。

『絶』の旗がたなびいている。

先頭で馬に乗り、駆ける人物…ゲイツ将軍だ。


「うにゃ…面倒になったにゃ…。」


タイトが双眼鏡を覗きながら呟く。


「やはり、ゲイツ将軍の目的は…。」 

「姫さんに決まっているだろうな。シャレオントは姫さんがロードヘイムに渡るまでに、奪い返すつもりなのだろう。」


「意地でも守るにゃよ、ロイド。」


「もちろんですよ、タイト将軍。」


タイトとロイドは固い決意をする。

タイトは罪を償うため、ロイドは大切な人を守るため。


 

「将軍、準備完了しました。

指示を願います。」


いつの間にかミセルが鎧を着込んで立っていた。

背中には巨大な弓を背負っている。

あれがミセルの武器なのだろう。

 

「よし、弓部隊を配置に移動させろ。

すぐに全門閉めろ!

難民達を建物の中に避難させろ!」 

ランスが素早く、的確に指示を出す。

門が音を立てながら閉まる。

視界の端では弓を持った兵が走り回っている。


「来たにゃ…!」


ゲイツ将軍の軍勢が肉眼ではっきりとわかる位置まで来ている。


「弓部隊構え!」


ミセルが自らも弓を構える。


敵の軍勢から大きな歓声が響き渡る。

速度を上げてゲイツ将軍の軍が、獣の如く雄叫びを上げながら砦に近付く。


「放て!!!」


ミセルが叫ぶ。


味方の兵が城壁の上から次々と矢を射る。


矢は敵に雨の如く襲いかかる。

しかし敵の速度は収まらない。


「ったく…ゲイツの野郎、勢いだけはすげえな。」


いつの間にかハイドが鎧を着込んで立っていた。


「ハイド将軍、ルナは?」


「今はクロといる。

大丈夫だ、陽炎の奴らが護衛しているからな。」


「遅いぞハイド。

奴らこの砦を正面から破る気だ。」 

ランスが仮面を被る。

仮面は道化の装飾がされている。

半分が笑い、半分が泣いている様な装飾だ。


「相変わらずその仮面か。

だから『道化師』なんて呼ばれるんだぞ。」


ハイドは溜め息混じりに言う。


「ランス将軍、敵の先鋒が正門に接近しています。」


ルミネが淡々と報告する。

その時だった。


「おーい…『朧火』!

頼まれていた物を届けに来たぞい!」


あの職人がハイドの長剣を届けに来た。

職人は長剣をハイドに投げる。


「ちょうど良かった、ありがとさん!

料金は……。」


ハイドは長剣を受け取る。


「あんたが生きていたら貰うよ。

それじゃワシは避難するぞい。」


職人は駆け足で門から降り去った。


「食えない親父さんだにゃ。」


タイトは苦笑する。


「ランス将軍…、敵の約半数が正門に到着しました。

今は門の破壊を行っています。」


 

ミセルが少し焦った表情になる。


「簡単じゃないか、要は敵を門から引き剥がせば大丈夫なんだろ、ミセル。」


ハイドが長剣を担ぎながら言う。

長剣は新調されていて、柄に紫の魔宝が埋め込まれている。


「えっ…はい、そうですが…。」


いきなり言われたのでミセルは慌てて言い返す。


「タイト、ランス、ロイド、行くぞ。」


ハイドがニヤリと笑う。


「当たり前だにゃ。

こっちは最初からそのつもりだにゃ。」


タイトは鉄の爪を装備している両腕を回す。


「お前も相変わらずだな…。」


ランスの表情は仮面でよくわからないが、笑い声が聞こえる。


「…ってまさかハイド将軍…!」


ロイドは気付く。

ハイドが行おうとしている事に。


「よっしゃあ、行くぞ!」


ハイドがロイドの肩を掴み、そして城壁から飛び下りる。

無論ロイドも巻き添えを喰らい、共に落下する。


「うわああああ!!!」


ロイドの叫び声が虚しく響く。

そして、タイト、ランス両将軍もハイドの後に続く。


「うにゃああああ!!」


「ミセル、後は任せた。」


空中落下中のロイドは体勢を空中で変えて、足で着地する。

衝撃が体を走る。

ハイドは至って平気な表情をしていた。

次にタイトとランスが音も無く着地する。


「『朧火』のお通りだ、道を開けやがれ!!」


ハイドが長剣を振るい、門を破壊している敵を斬る。


四人は丁度敵のど真ん中に着地したようだ。

敵が一斉に襲いかかる。


「策も糞も関係無いじゃないですかハイド将軍!」


ロイドは刀を振るう。

鍛え直された刀は、敵の剣ごと斬り裂く。


「このまま一気にゲイツの場所までいくにゃ!」


タイトは身軽な動きで敵を翻弄しながら、爪で引き裂く。


「久々だな…こんな戦い。」


ランスは的確に敵の首を鎌で跳ねていく。


「ロイド、死ぬなよ!」


ハイドは豪快に長剣を振り回し、敵を吹き飛ばす。


「わかってますよハイド将軍!」


新しい刀の調子は良好だ。

軽々と敵を斬る事が出来る。

動作が素早ければ、より多くの手数を生み出せる。

視界の端ではランス将軍、ハイド将軍、タイト将軍の三将軍が次々と敵を葬っていく。

経験の差か。

戦いでは経験の差で優勢が変わる。

経験が多ければ様々な事に対応出来るが、少ないと後手後手に回ってしまう。

落ちていた敵の剣を素早く拾う。

敵が多いので、刀一本では足らない。

ロイドは剣二本での戦い方を心得ていた。

師匠が二本操っていたからだ。

敵が振り下ろす剣を左の剣で打ち払い、その隙に右の刀で致命傷を与える。

流れる様に、風の様に、ロイドは敵の間を駆け抜ける。

次々と敵から血が噴き出す。


「ロイド君、なかなかやるな。」


駆け抜けた先にいたランス将軍と背中合わせの形になる。


「そんな事は無いですよランス将軍。」


「謙遜か…俺も頑張るか。」


ランス将軍が鎌を構えて、敵に突っ込む。

敵の攻撃を最小限の動きで避けて、鎌を一振りする。

二、三の首が跳ぶ。

正確かつ強力な一撃だ。


ランスはそのまま、敵兵達の中に跳躍する。

悲鳴、続いて次々と首が跳ぶ。まさに道化師が首でお手玉しているかのような姿に、ロイドは恐怖を感じた。

ランスの仮面は血で紅に染まる。

そしてランスは雄叫びを上げる。

その姿は道化師が笑っているかの如く。


ロイドは再び駆け出す。

刀を確かめる。

刃は欠けてはいないようだ。

しかし…変だ。

目の錯覚かどうかわからないが、刀の刀身が薄く緑色に光っている。

光の加減のせいか?

もしくはこの刀の隠された力か?

だが今は戦の真っ最中だ。

余計な事を考えるとそれだけ死ぬ確率が上がる。

それだけは避けないといけない。

この事は後であの職人に聞く事にする。

ロイドは再び敵の軍勢に深く切り込む。


前方に、チラリとハイド将軍の姿が見えた。

ここよりも深い位置にいるのか。

少なからず驚く。

前方から爆炎が上がる。

敵が吹き飛ぶのが、この位置からでもはっきりわかる。

魔法を使ったのだろう、ハイド将軍は火の魔法を好んで使う。

むしろ火の魔宝しか持っていないので仕方のない事だ。

でも確か雷の魔宝を長剣に埋め込んでいたような…。


急に雷鳴が響く。

ハイド将軍がいる位置から紫の光が走った。

雷の魔法だ。

ハイド将軍は最初から全力で力を使っているようだ。

魔法は体に反動を残す。

下手に使うと体の疲労はもちろん、精神状態にも影響する。

下手をしたら記憶を失ったり性格が変わったりしてしまう、つまり魔法は身を危険にさらす行為なのだ。

加減をすればその人の力となるが。


再び雷鳴と爆炎。

流石にまずい。いくらハイド将軍とは言え、この配分だと危険だ。

右の刀、左の剣、二つを流れる様に振るい敵を斬り裂き道を作る。

ハイド将軍が見えた。

一気に軍勢の中を駆ける。

ハイド将軍は全身に炎を纏っていた。

長剣は不気味な音を立てながら紫色に発光している。


「ハイド将軍、大丈夫ですか?」


「当たり前に決まってるだろ。」


ハイド将軍は余裕そうに笑う。

心配しただけ無駄だったようだ。


他の方向から悲鳴が上がる。

タイト将軍とランス将軍も激しく切り込んできたようだ。


「ハイド将軍、ゲイツ将軍は?」


「後少しだ…後少しで奴が見える…!」


 

ハイド将軍は長剣を一振りする。

剣先から稲妻が走る。

稲妻は前方の敵を吹き飛ばす。


「行くぞロイド!!!」


二人は更に深く深く軍勢の中心に向かって進む。

 

敵の攻撃が更に激しくなる。

しかし二人は次々と敵を斬り倒しながら突き進む。


「見えた…!」


ロイドはようやく『絶』と書かれた旗を見付ける。

その旗は揺らぐ事無く静かに佇んでいた。

揺るぎ無い壁…まさにそれだ。


その時後ろの方から鈍い音が響き、その後に歓声が響き渡る。


「ミセルの援護か…助かるな。」


ハイド将軍が後ろを振り返らずに呟く。


これで数だけなら互角くらいにはなっただろう。

背後から味方の歓声が近付いてくる。

四人が大体の敵先鋒を潰したので、進軍が楽になったのだろう。


「ゲイツ………!!!!」


ハイド将軍が不意に言う。

ハイド将軍が睨んでいる先に視線を移す。

…『断絶の壁』ゲイツ将軍だ。

巨大な斧を担いで、軍勢の中から現れた。


「ふん…ハイド貴様はやはり馬鹿だったな。」


ゲイツが表情一つ変えずに言う。


「馬鹿はあんただろう。」


ハイド将軍はゲイツを睨む。


「今なら『セカンド』を此方に引き渡せば、まだ許されるだろう。」


ゲイツはうすら笑いを浮かべる。


 

「全てわかっているんだよ。

ルナちゃんがロードヘイム王の一人娘だって事やシャレオントがやった事もな…!!!」


ハイド将軍が噛みつくように怒鳴る。


「それがどうした。

それくらいしょうがない事だ。」


ゲイツは淡々と言う。

しょうがない事だと?


「あんた達は一人の人生を崩して、それをしょうがないだって?」


ロイドは今までハイドにも見せた事の無いような怒りを見せる。


「黙れ坊主、『セカンド』はシャレオントの為にそうなった。

しょうがないとしか言いようが無いだろう。」


「シャレオントの為なら何でもやって良いと言うのか?」


ロイドは鋭い目付きで睨む。

怒りの炎が静かに燃える。


「ふん…当たり前だ。

坊主…貴様ハイドに似ているな…忌々しい…!!!!」


ゲイツから鋭く研ぎ澄まされた殺気が放たれる。


「……ゲイツ将軍……これであんたとの因縁終わらせるか。」


ハイドを包む炎が激しさを増す。

長剣の光が増す。

ロイドも刀と剣を構える。

ゲイツは斧を両手で握る。


周りでは援軍と敵軍が入り乱れている。


先ずはハイドとロイドが攻める。

ハイドの稲妻を帯た長剣が唸りを上げてゲイツに襲いかかる。

しかし、ゲイツは難無くそれを長い斧の柄で受け流す。

次にロイドが流れる様な連撃をする。

威力が無ければ手数で攻める。

次々と斬撃を繰り出す。


「温い、温すぎる…!!」


ゲイツはロイドの剣を、刀を、次々と斧で巧みに弾く。

その巨漢に合わない素早い動きだ。

今度はハイド将軍と動きを合わせる。

間髪入れずにハイドとロイドは連携して攻撃をする。


「う…………。」


急にハイド将軍の動きが鈍る。

体を包んでいる炎が、長剣の光が、弱くなっている。


「しょ…将軍!?」


ロイドは手を休めずに言う。


「糞……反動が今更来やがった…!!」


ハイド将軍は言う。


「だから貴様は馬鹿と言うんだ。

あれだけの魔法を使ったら、反動が来るのは当たり前だ。」


ゲイツが笑う。


「く…そっ……!!」


ハイド将軍がふらりと膝を着く。


「因縁の決着はお前の死で終わるのだハイド!!」


ゲイツがロイドに向けて斧を振るう。

後ろにハイド将軍がいる。

避けられない。

歯を悔い縛る。

刀と剣で斧を防ぐ。金属音、続いて衝撃。

何かが折れる音がした。

体が浮く感覚に襲われる。

地から足が離れ、そのままロイドは吹き飛ばされる。


「ぐっ………!」


ロイドは肩から着地する。

素早く立ち上がり、手持ちの武器を確かめる。

剣は真っ二つに折れていたが、刀は傷一つ無い。

折れた剣を投げ捨てる。

ハイド将軍は?

ハイド将軍の方を見る。


まずい…。

ゲイツが斧を振り上げている。

この位置からは間に合わない。

魔法が使えれば…!


「終りだ…ハイド…!!!!」


全力で駆ける。

駄目だ、間に合わない…!


その時だった。

何かが風を切るようにゲイツに向かって飛んでいく。

ゲイツはそれを素手で掴む。


「氷の矢だと…?こざかしい…!!!!」


ゲイツはそれを握り潰す。


「ロイド君、今の内にハイド将軍を。」 

ミセルだ。

ロイドは弓を構えたミセルの横を駆け抜ける。


「ありがとうございます…!」


すれ違いざまに礼を言う。


ロイドはハイドに肩を貸して、ゲイツから離れてミセルの元へ向かう。


 

「女め……喰らえ…!!」


ゲイツが怒りを露にする。

そしてなんと、構えていた斧を投げた。

斧は唸りを上げ、回転しながらミセルに向かい恐るべき速さで迫る。


「っ…………!」


ミセルは一瞬反応が遅れる。


「ミセルさん、避けて!!!」


一難去ってまた一難とはこの事だろう。

ハイド将軍を助けたが、今度はミセルが危機だ。

あの斧の直撃を受ければ、死は免れない。


その時だった。

肩が軽くなる。

ハイド将軍がいない。


「ああっ……!!」


ミセルの悲鳴。

どちゃっという粘着質の物が落ちた音。

続いて鎧の落ちる金属音。


「ハイド…将…軍…?」


目を疑う。

ミセルがいた位置に、肩口から左腕を失ったハイドが仁王立ちしていたからだ。

ミセルはハイド将軍の横に倒れている。


「ふん…部下をかばって腕を無くすとは…つくづく愚かな奴だ。」


ゲイツは笑いながら腰に携えている剣を抜く。


「ああ…知り合いは死なせないのが俺の信念なんでな…。」


そう言うとハイド将軍は崩れるように倒れた。左の肩口からは血が吹き出ている。

ミセルは上半身だけ起き上がり、驚きの表情をしていた。

ロイドは素早くハイド将軍に近付き、肩口にハイド将軍のマントを破った布を固く固く巻き止血をする。

ハイド将軍の左腕は綺麗に斬り落とされていた。


「ハイド将軍…何故私を?」


ミセルが小さな声で言う。


「…お前は…ランスの部下だ……だから助けた…それだけだ……。」 

ハイド将軍は顔を苦痛に歪めながら言う。

出血量が酷い。

何かドス黒い何かがロイドの中で暴れ回っている。

怒り。

自分でも驚いてしまう程の感情だ。大切な親にも感じる人が傷付けられたからか?


「馬鹿な奴だ…だからいつまでも雑魚のままなのだ。」


ゲイツがあざ笑うかの如く笑う。


その時だった。

ロイドの中で…何かが壊れた。

関が壊れたのか、純粋な怒りが流れだす。

凄まじい殺気がゲイツを襲う。


「ほう…殺る気か?」


ゲイツは内心驚いていた。

先程の坊主が急に、恐ろしい程の殺気を放つのを。


ロイドの髪が揺れだす。

風か?だが風は吹いてはいない。

ロイドはゆっくりとだが確実にゲイツとの距離を詰める。


ロイドが刀を振り上げる。

その時だった。

風が急に吹き荒れる。

ロイドの刀を中心に大気が渦を巻く。


「何!?魔法だと…!?」


ゲイツは剣を地面に突き刺す。

地響き、続いて地割れ。

その割れ目から巨大な火の玉が現れた。


「終りだ坊主!!!」


ゲイツが火の玉を放つ。

ロイドもそれと同時に刀を振り下ろす。


爆風が吹き荒れる。

刀の刀身から竜巻が放たれた。

竜巻は火の玉をかき消してゲイツ目がけて地面をえぐりながら進む。


「何!?」


予想外の竜巻の強さにゲイツは思い切り横に転がる。


ゲイツのいた場所に竜巻が直撃をする。

轟音…ゲイツのいた場所は地面ごとえぐられていた。


 

「坊主…貴様は何者だ?」


ゲイツは起き上がりながら言う。


ロイド自身も驚いていた。

魔宝は持っていない筈…なのに魔法を使えた?

感情に怒りに任せて刀を振るった、ただそれだけだ。

ふと刀を見る。

刀身は相変わらず薄く緑に光っている。

この刀に何か秘密があるのか?


その時だった。


「…………!!!」


ロイドは今までに味わった事の無いような疲労感に襲われる。

これが反動か…。

体が重くなり、一日中走っていたかの様な疲労感が現れる。


ゲイツが此方に向けて駆け出す。

まずい…この状態で正面からゲイツ将軍と殺り合うのなら、確実に負ける。

後ろには意識朦朧のハイド将軍と、先程ハイド将軍にかばわれてショックを受けて戦意を消失したルミネさんがいる。


退けない。

疲労困憊の体に鞭打ち、刀を構える。

いつも以上に刀が重く感じる。


「ふん…!!」


ゲイツの剣が唸りを上げてロイドに襲いかかる。

反応しきれない。


その時、視界の端から黒い影が現れた。

その影は素早くゲイツの懐に入り込み、体当たりでゲイツをよろめかせる。

 

「大丈夫かにゃ?」


タイト将軍だ。

タイト将軍は血にまみれていたが、元気そうだ。


「邪魔だ…糞猫…!!!」


ゲイツは再び、剣を振り上げる。


「うにゃにゃ、一人で突っ込むなんて馬鹿な真似は僕はしないにゃ。」 

タイト将軍は余裕の表情を見せる。


ゲイツの動きが鈍る。


「成程…私の負けか…ふん…忌々しい…。」


ゲイツの口から血が流れる。

ゲイツの胸から刃が突き出す。

ランス将軍の鎌だ。


「卑怯だが、殺らせてもらった。」


ゲイツが倒れる。

ランス将軍が倒れたゲイツから鎌を抜きながら言う。

仮面が不気味に笑っている。


「タイト将軍…ハイド将軍が…。」


息を切らせながらロイドは言う。


タイトとランスはミセルと倒れているハイドの側に駆け寄る。


「ミセル、ハイドは何故こうなった?」


ランスが言う。


「ハイド将軍は…私を…かばって…。」


ミセルさんはかなりのショックを受けている様だ。

無理もない。

将軍が体を張って部下を守った。

これは珍しい事だ。

普通の将軍ならば部下をかばうなんてもっての他なのだが、ハイド将軍は見捨てずに体を張って守って左腕を失なった。

それに自分のせいでハイド将軍が左腕を失なったという、責任を感じているのだろう。


「ランス…彼女は悪くない…ちょっと俺が失敗しただけだ…。」


ハイド将軍はフラフラと立ち上がり、落ちていた自らの左腕を拾い上げる。

その左腕の指には火の魔宝の指輪が光っていた。

ハイド将軍はそれを口で器用に指から外すと、左腕を投げ捨てる。


「うにゃ…左腕以外は大丈夫そうだにゃ。」


タイトがハイドの全身を見ながら言う。


「反動が酷いが、まあ大丈夫だ。」


ハイドは右指に口で指輪をはめる。


「ハイド将軍…敵軍が退いて行きますよ。」


ロイドは言う。周りにいた敵が背中を見せて退いて行く。


「全軍砦に帰還だ。」


ランスは紅に染まった仮面を取る。


味方の兵が砦に戻る。

砦の周りの草原は血で染まっていた…。

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