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第12話【名刀の力】

「とりあえず…何処から案内しようか。」


ミセルが言う。


「ここって何があるの?」


ルナが言う。


「とりあえず、酒場に噴水、店に鍛冶屋、何でもある。」


最早ここは砦ではなく、小さな町の様だ。

これもランス将軍が考えた事なのか?


「片っ端からお願い出来る?」


ルナの目が輝く。



「わかった、とりあえず最初にアリアル砦について説明しよう。

この砦は『セントラル』からの難民の休憩所、としてロードヘイムとガーデンプレイスの王が建てた砦だ。

今も難民休憩所として使われているんだ。」


ミセルは淡々と説明をする。

確かに、町や村を破壊されたと思われる難民があちこちで休憩している。

皆が濁った目をしている。

それがこの世界の状況を物語っていた。


「…嫌な世の中ですね…。」


「これが現実だ、ロイド君。

現実から目を背けてはいけない。

…さあ、案内しよう。」


ミセルは歩き出す。

ルナとロイドも歩き出す。


「あれが鍛冶屋で、あっちが店だ。

店は色々売っているぞ。」


「ちょっとミセル、店に行くわよ。」


「わかった、行こうか。」


「え…?俺は……?」


「ちょっと鍛冶屋にでも行ってなさいよ。」


そう言い残し、ルナとミセルは店の中に消えた。


理不尽だ。

もう慣れたが。

とりあえず鍛冶屋に興味があったので、鍛冶屋に向かう。


店先には様々な武器が並べられていた。

長剣、短剣、槍に斧、盾に戟。

結構繁盛している。

砦の中だから、多分駐屯している軍の武器発注のおかげだろう。

店の奥では、布を頭に巻いた初老の口髭を蓄える男性が金槌を振るっていた。


その男と目が合う。

男の視線がロイドが腰に携えている刀に移る。


一瞬その男が驚きの表情をする。

男は金槌を置くとロイドにカウンター越しに近付く。



「そこの坊主、その刀は坊主の物か?」


職人が言う。


「これですか、これは自分の物ですけど。」


ロイドは刀をカウンターの上に置く。


「すまんが坊主、見せてもらって良いか?」


「別にかまいませんよ。」


職人は刀を手に取り、鞘から引き抜く。

澄んだ金属音が響く。

何度聞いても心地の良い音だ。

人殺しの道具が放つ音だとは考え難い。

職人はまじまじと刀身と柄を眺める。


「驚いたな…坊主、この刀何処で手に入れた?」


「えーと…傭兵仲間…から譲り受けた物です。」


「その傭兵の名前は?」


「ジンって名前でした。」


かなり昔の話だ。

ロックと出会う前の話。

ジンと言う名の傭兵がいた。ジンはロイドの師匠的存在だった。

その傭兵は刀という珍しい武器を二本使い、敵を薙ぎ倒していた。

その傭兵がとある戦で死んだ。

その傭兵の最期をみとったのがロイドだ。

傭兵は最期にこう言った。

一本は俺の墓に、もう一本はロイドに譲ると。

そう言い残し、息絶えた。

遺言通り一本は彼の墓に、もう一本はロイドの力となり今に至る。


「…ジン…『伝説の鍛冶師』…そいつ今は?」


「かなり前に戦で…。」


「そうか…彼は『伝説の鍛冶師』と呼ばれる程の人物だった…まさか傭兵になっていたとはな…。」


「あの人はあまり昔を語らない人でした…。」


「…流石彼が造った刀だ…しかし…本来の力を失っているな…。」


 

職人は口髭を撫でながら呟く。


「本来の力とは?」


「今は力を失っていてな、原因は簡単な事だ、この刀は寿命って事だ。

長年、人を斬ってきたのだろうな…刀身が限界にきている。

本来なら岩くらい軽々切断出来るだろう。」


「岩ですか!?」


予想外だ。


「もちろんだ。

…もし坊主が良いならわしに、やらせてもらえるか?

もちろん金などいらん。

こんな名刀を、いじらせてもらえるのだからな。」


職人の男の目付きが変わる。


「……お願いしても良いですか?」


 

「当たり前だ、少しそこらで時間を潰してろ。」


職人は刀を担ぎ、店の置くへと消えた。

刀は職人に任せて大丈夫だろう。

とりあえずは時間を潰す為にルミネとルナが入って行った店に向かう。


その店は装飾品専門店のようだ。


店先にあるベンチに腰掛け、空を仰ぐ。

雲一つ無い晴れた空だ。

乾いた風が心地良い。

視界の端に見慣れた顔が映る。ハイド将軍だ。


「ようロイド、こんな所で何してんだ?」


ハイドはロイドの隣に腰掛ける。


「ちょっと時間潰しですよ。」


「時間潰しか…ロイド、唐突だが初めて契約した時の事を覚えてるか?」 

ハイド将軍が空を見上げる。


「初めて見たときは焦りましたよ。何せ街中で喧嘩をしていましたからね。」


「よくある事だ。喧嘩は街の花ってな。」


ハイド将軍は言う。


「自分もその喧嘩に巻き込まれて…確かその時、将軍から一撃喰らったんですよ。」


「確かに喰らわせたな、あれは悪かった。」


ハイド将軍とロイドの出会いは一昔前に遡る。


二人はしばらく昔話に花を咲かせる。


「おーい…坊主、終わったぞ!!!」


 

不意に辺りに響く声。

あの職人だ。


「なんだロイド、何か悪さでもしたのか?」


「実は………。」


理由を話す。


「鍛冶屋か、ちょうど良い。

俺も用があるから行こうか。」


 

まだまだルミネとルナが店を出てくる気配は無い。

先程の鍛冶屋に向かう。


「ようやっと来たか坊主。ほれ、お前の刀だ。」


店先には職人が立っていて、刀を渡してくれた。

刀の柄が新しい物に取り換えられていた。

刀を引き抜く。

澄んだ金属音が響く。

前の時よりも澄んだ音だ。

刀身には以前よりも曇りが無く、銀色に鈍く光っている。


「良い腕だな、親父さん。」


ハイドが腕を組む。


「ん…確かあんたは『朧火』…わしに何の用だ?」


「ちょっと頼みたい事がある。

この魔宝を埋め込んでほしいんだ。」


ハイドは背中から長剣を抜き、カウンターに置く。

更に懐から紫に光る魔宝を取り出し、長剣の横に置く。


「…わかった。後で終わったら届けよう。

ところで坊主、試し斬りをしていかないか?

実は店の横に邪魔な岩があってな、それを斬ってみろ。」


確かに鍛冶屋のすぐ隣に、大体ロイドと同じくらいの大きさの岩がある。


ざわざわと野次馬が集まりだす。


職人とハイドが見守る中、ロイドは岩の前に立ち刀を構える。


「思い切っていかないと、刀が折れるぞ。」


ハイドが忠告をする。


「その通りだ。刀を振り抜けよ。」


職人も同意する。

辺りが静かになる。


刀を握る手に意識を集中させる。


「……今だ…!」


刀を斜めに振るう。

岩と刀が接触する。

手応えが軽い。

そのまま一気に振り抜く。

…一瞬の沈黙…。


「斬れた…?」


一見岩は変わらないように見える。


「いや、上出来だロイド。」


ハイドはそう言うと岩に近付き、拳で岩を軽く叩く。


岩に切目が浮き出てきた。

その切目にそって岩が崩れた。

野次馬から驚きや歓声の声が上がる。


「がはははは、凄いだろう!」


職人は高らかに笑いながらロイドの肩を叩く。


「本当にありがとうございます!」


昔の刀じゃあこんな芸当は出来なかっただろう。

職人に感謝だ。


「ちょっとちょっと…通して…ロイドやっと見付けた!」


人混みをかきわけてルナとミセルが現れた。

ルナは小さな箱を抱えている。


「おう、あんたがランスの部下のミセルか。

ロイドとルナちゃんが世話になったな。」


ハイドが軽く挨拶する。


「初めましてハイド将軍。

お話はランス将軍から聞いています。」


ミセルは敬礼をする。


 

「敬礼なんて堅苦しいのはするなよ。な、ロイド。」


ハイドは笑いながら言う。


「何で自分に振るのですか?」


「なんとなくだ。」


まったく…この人は…。

ロイドは苦笑をする。

ハイドはこういう性格だから、兵から好かれる。

自然と良い人材もやってくるのだ。

長年の付き合いのロイドならわかる。


 

「わかりました、ハイド将軍。」


ミセルが微笑みを見せる。


「すまんが、ワシは戻るぞ。

『朧火』、あんたの剣は後で届けよう。」


職人が言う。


「わかった、よろしく頼む。」


職人は鍛冶屋へ戻って行った。


「さて、俺も暇だからお前らに着いて行くぜ。

別に構わないだろ?」


「構いませんよハイド将軍。」


「ルナちゃんにミセルも大丈夫か?」


「別に大丈夫よ。」


「私は構いません。」


ルナとミセルが答える。


「すまんな。」


「それでは、次はあっちを案内します。」


ミセルが歩き出す。

ロイドはルナとハイドに挟まれた形になる。


「ちょっとロイド、あんたに…その…渡したい物があるんだけど。」


珍しくルナがはにかみながら言う。

渡したい物とは何だろう。

ルナは手に抱えている小さな箱を開こうとする。


その時だった。

一人の人物が走って近付いてくる。

タイトだ。


「ちょうど良かったにゃ、君らがここにいて。

大変な事がわかったにゃ、シャレオントの追手がアリアルの近くまで来てるにゃ!」


タイトは慌てながら言う。

既に武器の鉄の爪を装備している。

本当に追手が来ているようだ。


「タイト、追手は誰だ?」


ハイドは冷静に問いかける。


 

「…因果かもしれんにゃ…追手は『断絶の壁』、ゲイツ将軍だにゃ…!」


ハイドとロイドは目を見合わせる。

ゲイツ将軍…ハイド将軍の因縁の敵の様な存在。


「ゲイツって……。」


ルナが持っていた箱を落としそうになる。

ロイドはルナを支える。

ルナの護送任務はゲイツから受け継いだ物だ。

ルナはゲイツ将軍を知っているのだろう。


「あの野郎わざわざこんな場所まで、ご苦労な事だな。

……とりあえずランスの場所に行くぞ。」


「ルナはどうするんですか?」


ルナを危険に晒す訳にはいかない。


「…陽炎の奴らに護衛させよう。

俺がルナちゃんを建物の中に連れていく。」


ハイドが言う。

陽炎の兵ならば、知り合いもいるし、ルナと会話をしたことのある兵もいる。

陽炎になら任せられるだろう。


「…わかったわよ…、ハイド将軍に着いて行くわよ…。

ただしロイド…あんたに渡したい物があるんだからね…。

死んだら許さないわよ…!」


ルナはロイドの袖を強く引っ張る。


「ランス将軍が待っている場所に急ぎましょう。」


ミセルが言う。


「ルナちゃん、こっちだ。」


ハイドは先に歩き出す。


 

「命令だからね…必ず帰って来てよ。」


ルナはそう言うとハイドの後を追う。

そして二人は部屋がある建物の中に消えた。

陽炎騎士団が建物の周りの配置に着く。


「さあロイド、ミセル、ランスはこっちだにゃ。」


タイトは再び駆け出す。

ロイドとミセルは追う。


強い風が吹いた。

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