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第11話【道化師と朧火と虎】

夜が明けた。

結局軍勢は一休みもする事なく、アリアル向けて進んでいた。


「………眠……。」


結局ロイドは一睡もしていない。

陽炎騎士団の面々が一睡もせずに移動しているのに、自分だけが寝るのは申し訳無いと思ったからだろう。

ルナはいつの間にか寝ていたので、ロイドが布を掛けていた。

クロは既に眠り込んでいた。


もうセントラルから抜け出した所だろう。

しかし、追撃が無かったのは幸運だ。

ハイド将軍がきっとかなり破壊し尽したのだろう。

頼りになる将軍だ。


「寝ながら手綱を握るの止めろにゃ!」


「うるせえ、癖なんだよ癖!」


馬車の前方から口論の声が聞こえる。

きっとまたハイド将軍は寝ながら手綱を操っていたのだろう。

タイト将軍の怒鳴り声が再び響く。


「相変わらずだにゃ!!」


「そう簡単に変わってたまるか!」


本当に仲が良い。

ただ喧嘩している様にしか聞こえないが、笑い声も聞こえる。


しばらくは口論が続きそうだ。

ロイドは視線を窓の外へ移す。

少し朝日が地平線から顔を出している。

少し離れた所で戦をしているのか、遠くで土煙が上がっていた。


「ようロイド、おはよう。」


「うわわっ………ハイド将軍、いつの間に…!!!」


ロイドは驚きながら言う。

先程まで馬車の前部分でタイト将軍と口論をしていた筈の、ハイド将軍がいつの間にか隣に腕を組んで座っていたからだ。

タイト将軍といいハイド将軍といい、将軍とはこういう人物が多いのか?と思ってしまう。


「気付かないお前が悪い。」


ハイド将軍は笑いながら言う。


「…それで、将軍何か用でも?」


「いや…手綱をタイトに奪われてさ、暇で暇で。」


タイト将軍の判断は間違えてない。

寝ながら手綱を握るハイド将軍は、いくら慣れているとは言え危険だからだ。


「ところでハイド将軍とタイト将軍はいつ頃から知り合いなんですか?」 

「俺とタイトか?確か…あいつが隠密部隊にいた頃からかな。」


ハイド将軍は一つ大きなあくびをしてから答えた。


つまり十数年の仲、という事になる。


 

「結構古い仲ですね。」


ロイドは寝ているクロを撫でる。


「腐れ縁みたいな奴さ。」


そう言うハイドの顔は笑っていた。


窓から射す光でハイド将軍の灰色の髪が銀色の如く、鈍く光っている。


「…おうアリアル砦が見えて来たぜ。」


いつの間にかハイド将軍は窓から身を乗り出していた。


「本当ですか?」


ロイドも同様に窓から身を乗り出す。

前方に、大きな砦が見える。

あれがアリアル砦。

あそこには『十三神将』の『道化師』ランス将軍がいる。


「俺はタイトの所に戻るよ、じゃあな。」


ハイド将軍は身を乗り出した体勢から、器用に馬車の上へ上って行った。

似たもの同士は惹かれる。

ハイド将軍とタイト将軍は似ている部分がある。

だから旧友としてここまで信頼関係を築いているのだろう。


「みにゃあ。」


クロが目覚めた様だ。

あくびをしながら体を伸ばしている。

そして素早くロイドの肩に飛び乗る。


「すっかり肩が気に入られたな…。」


ロイドは肩に乗ったクロを撫でながら呟く。


ルナは相変わらず寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。


しばらくすると、馬車が止まる。

砦の近くに来た様だ。

窓から顔を出す。

大きな壁に大きな門だ。

すると門が鈍い音を発しながら開く。


砦の中から一人の人物が現れる。


ハイド将軍とタイト将軍が馬車から飛び降り、その人物に近付く。

その人物は赤髪でその髪を後頭部の部分で束ねていて軍服姿だ。


「すまんなランス、話は手紙で知ってるよな?」


ハイド将軍はその人物…ランス将軍に近付き言う。


 

「ああ…話なら把握している。しかし…本当か、この話は?」


ランス将軍は首を傾げながら言う。

 

「全部事実だにゃ…。煮るなり焼くなり僕を好きにするにゃ。」


今度はタイト将軍が帽子を外して言う。


「タイト、今お前を処分してどうする。…とりあえずお前らの部下を砦の中に案内しよう。」


するとランス将軍の部下らしき兵が陽炎騎士団を誘導し始めた。


門が鈍い音を発しながら閉まる。

この場に残ったのは、ロイドとルナを乗せた馬車とハイド将軍、タイト将軍、そしてランス将軍だけだ。


「おーいロイド、ルナちゃんを連れて来てくれ。」


ハイド将軍がこちらに手招きをする。


「わかりました、少し待って下さい。」


ロイドは窓から出していた顔を引っ込める。

少し待って下さいと言ったものの、気持ち良さそうに寝ているルナを起こすのは気が引ける。


 

「おーい…起きてくれよ。」


起こさない訳にもいかないので、恐る恐る肩を掴み揺らす。

 

「……ん?ふあ…、おはよ…。」


ルナは右目を擦りながらあくびをする。


「寝起きの所悪いんだけどさ、ハイド将軍がお呼びだよ。」


「えー…わかったわよ。」


ルナが馬車を降りる。

ロイドとクロも追う様にして降りた。


「彼女が……そうなのか?」


ランス将軍がルナを見つめながら言う。


「そうだにゃ…まだ本人は知らない事だにゃ…。」


タイト将軍が帽子を深く被りながら言う。

まだルナに伝える時期ではないのだろう。


「ねえちょっと何の話をしているのよ?」


ルナがロイドの肩を掴み乱暴に揺らす。

揺すられ頭が痛くなる。


「ちょっ…や…止めてくれ。」


必死に訴える。


「そうそう、紹介しとく。

こいつがランス=レイブンだ。昔からの知り合いでな。」


ハイド将軍がランス将軍の肩を叩きながら言う。


まだルナはロイドを揺すり続けている。

脳が揺すられ更に頭痛が酷くなる。


「紹介された通りだ。

しがない一将軍を任されている、ランス=レイブンだ。

よろしくな、坊主と姫さん。」


ランス将軍が姫さんとルナを呼んだ瞬間、タイト将軍とハイド将軍がランス将軍に飛びかかり馬車の陰に引きずり込む。

その時、ロイドも連れて行かれた。


「馬鹿野郎、ルナちゃんにはまだ秘密だって言ったばかりだろう!」


ハイド将軍が息を切らしながら言う。


「すまんすまん、次から気を付ける。」


ランス将軍は頭を掻きながら言う。


「ロイドもだにゃ、まだ時期ではないにゃ。

あの事はまだまだ秘密だにゃ。」


タイト将軍が念を押すように強く言う。


「わかってますって。」


「何がわかっているのよ?」


一瞬の沈黙。


「ぎにゃああああ!!」


タイト将軍が驚きの声を発する。

ロイドも驚いていた。

寿命が三年縮んだ。


「お嬢ちゃん…いつからそこに?」


ランス将軍が落ち着き払って言う。


「ロイドがわかってますって、言った辺りから。」


つまり最後の方だけだ。

良かった。

ぎりぎり重要なところは聞かれていないようだ。


「…いつまでもここに、いるつもりかよランス。」


ハイド将軍が立ち上がりながら言う。


「そうだな、部屋に案内しよう。」


 

ランス将軍は立ち上がり歩き始める。


少しランス将軍に着いて歩くと、一つの建物に辿り着く。


「部屋はこの中のを自由に使ってくれ。」


ランス将軍は建物の中に入る。

建物の中は見た目とは裏腹に広かった。


「ちなみに俺の部屋はあそこだ。

何か用があったら遠慮せずに訪ねてくれよ、坊主にお嬢ちゃん。」


ランス将軍は並んで立っているロイドとルナの肩を、軽く叩く。


「わかったわ、それじゃあ私は部屋で休ませてもらうわ。

ロイド、行くわよ。」


ルナがロイドの袖を引っ張る。


「え?良いのかよ。」


「あんたならまあ大丈夫っぽいしね。早く行くわよ。」


大丈夫の意味が気になる。

気にしない方が良いか。


「にゃにゃにゃ、僕とハイドはランスと一瞬に話し合いをしてくるにゃ。

しばらく休んでも大丈夫だにゃ。」 

タイト将軍が帽子を回しながら言う。 

「砦内なら自由に出歩いても大丈夫だろう…な、ランス?」


ハイド将軍がランス将軍に向かって言う。


「そうだ、案内役を呼んでおいてやろう。

部屋の中だけじゃ息が詰まるからな。

後で坊主の部屋に行くよう手配しておこう。」


なかなか粋な提案だ。

流石ハイド将軍だ。


「本当? 嬉しいわ!」


ルナが明るく笑う。

ずっと軟禁生活が続いていたのだろう。

外に出て気分転換するのが嬉しいのだろう。


「それじゃまただにゃ。」


ハイド将軍とタイト将軍、そしてランス将軍は部屋に入って行った。


ロイドも袖を引っ張られ、ルナに引きずられる様に部屋に入る。


「広いわねえ…。」


ルナが驚くのは無理もない。

室内は綺麗で更に広かった。

多分ランス将軍なりのルナに対する配慮だろう。

ベッドは四つあったが、元々が四人部屋なのだろう。


「豪華だな…。」


「こんな広い部屋始めてなのよね…。」


ルナは落ち着かないのか、ベッドに座ったまま部屋を見回している。


「気楽にしなよ。」


ロイドは側の椅子に腰掛ける。


「ロイドは大丈夫なの?」


「まあ、あんまり気にならないからね。」


 

「気楽な性格ね。」


ルナは溜め息混じりに言う。


「気楽じゃないと、傭兵はやってられないよ。」


ロイドは苦笑混じりに答える。

この時代、変に気負いすると死ぬ確率が上がる。

気楽に行くのが一番だ。


「気楽に行けたら苦労しないわよ…。」


ルナが暗い表情をする。


「…ごめん…。」


ロイドは思わず謝る。

何故か謝った方が良い気がしたからだ。


「やっぱりあんた、変な奴ね。

別にあんたが謝らなくても良いのに。」


ルナは笑いながら言う。


「変な奴って酷いな。」


二人は笑い合う。


その時だった。

部屋の扉を叩く音が響く。


きっとランス将軍が手配してくれた案内役の人だろう。


「入って来て良いわよ。」


ルナが外にいる案内役に声を掛ける。

毎回思うが、結構ルナは偉そうな態度をとる。


「入るぞ。」


女性の声だ。


扉が開く。


「私はミセル=ラグラント、ランス将軍の部下だ。

貴方達の案内役として命令を受けた。」


その女性…ミセルは短い黒髪で頭には帽子、そして軍服姿だった。


「ミセルさん、よろしくお願いします。」


ロイドはミセルに一礼する。


「こちらこそ、よろしく頼む。

ロイド君に、ルナちゃん。」


ミセルは微笑みながら言う。

ランス将軍から話は聞いているようだ。


「それじゃ、早速外に出ましょうよ。」


ルナはベッドから立ち上がり、扉へ歩いて行く。


「そうだな、外を案内しよう。」


ミセルは部屋の外に出る。

ルナも出て行く。

クロはベッドで寝ている。

寝かせたままで大丈夫だろう。

ロイドは二人を追う形で部屋を出た。


建物から出る。

強い日差しに一瞬目がくらむ。

もう時間は昼前の様だ。

広い砦の中を三人は歩き始める…。

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