鬼
新選組の土方主観で書きました。まだまだ全然下手ですが、よろしくお願いしますo(^-^)o
「・・・何故、逃げた。」
何故、帰ってきた
「法度に背くとどうなるか、あんたが一番分かってんだろう。」
切腹だぞ
奴は、無言で俺の言葉を聞き続けた。
何も言わず、ただただ目を細め、伸びた背筋をさらに伸ばして。
「言い逃れは、しません。」
迷いはなかった。
その目は確かに、自分の処断を見ていた。
「どうして!??どうして・・山南さんが切腹なんですか!」
「脱走は法度違反だ。奴も承知している。」
「総司、分かってくれ。これは法度なんだ。今まで何人もの同志を亡くしてきた・・・。山南さんだけ逃れてしまってはならんのだ。」
「近藤先生まで・・。じゃあ、山南さんが死んでもいいんですか!??」
沖田の言葉に、近藤は俯いてしまった。
そんな近藤を見て、土方は溜息を吐きながら立ち上がった。
「この話はここまで。介錯は総司がいいと、山南さんは言ってる。」
「そんな・・・できませんよ・・!」
「頼む、総司。山南さんの希望なんだ。」
近藤が沖田に向かって深々と頭を下げた。
「納得いきませんよ・・!」
涙声で言いながら、沖田は局長室を出た。
はぁ、と溜息を吐いて、近藤が頭をあげた。
「休んだ方がいいんじゃねぇのか?」
肩を下げた近藤に、土方は言う。
近藤は力なく首を振った。
「山南さんと話してくる。」
ゆっくりと立ち上がり、近藤は部屋を出た。
それと入れ替わるように、隊士達が次々と入ってくる。
みな泣きながら、土方にすがりついた。
「副長お願いです!!山南総長を助けてください!!」
「それはできん。」
「副長!!!」
「お願いします!!」
涙を流しながら懇願する隊士達を見て、土方は部屋を出ながら言った。
「だったら、代わりにお前らが腹を切るか。」
「え・・・・。」
「総長を助けたいんだろう?」
「それは・・・・。」
一斉に静かになった彼等を一瞥して、土方は眉間にしわを寄せた。
「・・いいか、総長はもう腹を決めている。これは隊規だ。今更変えるなんてできねぇんだよ。」
それだけを吐き捨てるように言うと、土方は廊下を静かに歩いて行った。
その後ろ姿を見ながら、隊士達は一斉に泣き崩れる。
「どうして山南先生が・・・!」
「副長は何故あんなに冷静なんだ!?そこまで総長が嫌いなのか?」
「あの人は鬼だ・・・。同志が死んでも、あの人はいつも、眉一つ動かさずに切腹の様子を見ているんだ!」
山南のいる部屋の前に来る。中は静かで、近藤はすでにいないようだ。
障子に手をかけ、スッとひくと、先ほどと何等変わりなく、山南はそこに座っていた。
山南は土方に気がつくと、頭を軽く下げ会釈をした。
入口に立ってまま、土方は口を開いた。
「気分は、どうだ。」
「・・・なんだか、穏やかな気持ちです。不思議なものですね。今の私は、ここに戻ってきてよかったとさえ思っている。」
「理由は、言わないのか。」
「・・・土方君。」
「・・・なんだ。」
「あなたは近藤さんのために尽くしてきた。鬼にまでなって、この新選組を支えた。」
山南は微笑みながら続ける。
「あの方は、真の武士です。しかし、気付いていないかもしれないが、あなたも、立派な武士だと私は思うのです。」
土方は自嘲気味に笑った。
自分のことを構ったことなど、一度もなかった。仲間が死んでいくのも、隊の為と思えば辛くなかった。
それを、武士だとこの男は言うのか。
「近藤さんに、そしてあなたに、・・・・出会えて良かった。」
あまりに真っ直ぐな瞳に、俺は心を読まれた気分になる。
たまらなくて、部屋を出た。
俺は鬼だ。
修羅になったのだ。
誰に恨まれようと、近藤さんの為なら喜んで鬼でいた。
鬼ではないと、いけないのだ。
戸の向こうにいる山南に、土方は言った。
「山南さん、俺はあんたが嫌いだった。」
「あんたはいつも、冷静で、聡明で、・・慕われていた。」
「俺とは全く逆の野郎だった。」
「だから、多分・・・。羨ましかったのかもな、あんたが。」
返事は聞こえない。
きっとあの余裕の微笑で、俺の柄じゃない言葉を聞いているんだろう。
「・・・・おやすみ。」
元治2年2月22日
ある冬の夜のことだった