3 : 作戦会議
サウスは渋面のまま片手で額を抑えた。
「相変わらずの不器用さだ・・・・・・いくらでも誤魔化しようがあっただろうに」
「なあサウス、これって」
「要報告。接触しすぎたのはもちろん、名まで教えたのはまずかった」
「げ・・・・・・やっぱし」
溜め息をついてアスクはごろんと長椅子に横たわった。そうしている間にもサウスはクローゼットから薄手マントと帽子を出して手際良く身に着けると、
「お前はじっとしてろ」
と言い残して部屋から出て行ってしまった。
「アイツにも報告かよ・・・・・・」
ふくれっ面でアスクは呟く。
彼は上司のことが苦手だった。嫌っているというわけではないのだが、妙に対抗意識を燃やしてしまうのだ。だがそう思っているのはアスクだけで相手はむしろ自分を歯牙にもかけていないのは明白で、それがまた腹立たしいのだった。
うだうだと椅子の上に寝転がっているうちに、どうやらいつの間にかまどろんでしまったらしい。
突如、額を指ではじかれて、アスクはハッと目を開けた。
自分を見下ろす顔が三つ。
ぎょっととして跳ね起きると、
「やれやれ。キミは本当に図太いな」
副長が苦笑しながらもう一度アスクの額をはじいた。隣するサウスはやっぱり渋面で、少し離れた所にいる隊長は何とも言い難い表情でこちらを見ていた。
「す、すみませんオレっ」
おたおたしながらアスクが立ち上がりかけると、隊長は「拭え」と呟いた。
「よだれが出ているよ」
面白がるように副長が言い、慌ててアスクは袖で拭う。恥ずかしさで顔が熱い。ちくしょう、失態ばっかじゃねえか。
「サウスから話は聞いた。軌道修正だ」
隊長が言い、書記代わりの副長が低卓に計画用紙を数枚広げた。
計画建て直しの議論が続き、やがて最終確認が終わる頃にはすっかり夜更けになっていた。
「最後に確認しておきたいんだが」
ひとしきり確認を終え、サウスが買出してきた夜食を皆で食べていると、隊長がアスクに言った。
「お前、これで本当にいいのか」
「もちろんです」
「彼女を傷つけることになるぞ」
「まあ、仕事スから」
あぶった塩漬け肉の塊を引きちぎってバナバ菜に挟みながらアスクが答えると、
「あのね、いまいち分かってないみたいだけどさ。
キミがそのチュリカちゃんって子を好きなんじゃないかって、隊長は気遣ってくれてるんだよ」
ガリガリとサラダにナッツを挽き回しかけながら、副長がからかうように言った。
「なっ・・・・・・!」
瞠目してアスクはバナバ菜包みを口の端から出したまま、隊長をぐわっと振り向く。苦笑いしつつも黙っているその姿に
「あに、いっへうんふは!ふぉんあほほ、はんはえはほほはいっふはら!」
「ちゃんと食べてから言え」
サウスがアスクの膝を叩く。できる限り急いで咀嚼し、ごくりと飲み込むとアスクは隊長にくってかかった。
「何でちょっとばかし話したくらいでそんなこと言われなきゃならんのですか!
ガキじゃあるまいし、俺これでも女には不自由してねえし!
それを言うなら大体隊長のほうこそ」
「アスク」
サウスの自制を促す厳しい声に、憮然としたままアスクは黙り込む。
上司に対する発言じゃないのは分かっているが、隊長の今の立場や心境を知っているだけに、自分を心配されるのが嫌だった。
これじゃあオレが半人前って言われてるのと一緒じゃねえか。隊長の方が今回の仕事はずっとキッツイ内容で、一方のオレなんか相変わらずのしょぼい端役。なのに、なんでオレみたいなのを気遣うんだよ。
――似ている、と言われた日のことを思い出す。追い越せ、と言われたことも。あれから月日が経ち、それでも追い付くどころか、どんどん引き離されてく一方で。
グッと拳を握りしめ、アスクは隊長に向き直った。
「隊長、オレ、本当に大丈夫スから。
オレが成すべきこと、ちゃんとやってやります」
隊長は口にして応える代わりに、ただその大きな手でアスクの癖っ毛をくしゃりと撫でてくれた。