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1 : ぎんぎら屋敷のギョンカ



 ウィスプの中心部にあるその屋敷を知らぬ区民はまずいない。


 貴重な模様混じりの白陽岩を組んでできた外壁には同一人物の顔が等間隔に彫られており、その輝く様を見れば毎日徹底的に磨かれてのことだと分かる。

 門柱自体にも金で塗りたくられた巨大な彫像、目には左右合わせて計四つの大型金剛石がはめ込まれており、盗まれることのないよう常に複数の警護番が目を光らせている。

 その門より中に入ったことがあるものは、皆影で口を揃えてこう言う――あれは、『ぎんぎら屋敷』だ、と。


「おっほほ~ぅ、レイラちゅわ~ん、どこにいるのかのぅ~」


 その名の通り悪趣味な豪邸をどたどたと走り回る、恰幅の良い男が一人。

 どこかのぅここかのぅと連呼する喜色満面のその顔は、屋敷を取り囲む彫刻の顔を数度叩きつけたものと同様である。


「ワシが見つけるまで出てこないつもりじゃな。ほっほ、愛いやつめ。

 ここか、ほれ、ここか」


 男は長椅子の裏や掛け合わせの飾り布の間等、おおよそ人が隠れられそうな場所を片っ端からごそごそ探し回るが見つからない。とうとう彼は音をあげた。


「レイラちゅわ~ん、悔しいがワシの負けじゃ。出てきてくれぇ~い」


 はい、と小さな声がして一人の使用人が静かに姿を見せた。

 先日入ったばかりであるこの白縁眼鏡におさげ髪の女が、目下のところこの男の大のお気に入りだ。


「ふぉほほぅ、一体何処に隠れとったんじゃ。おかげで今宵もワシはお前を部屋に呼べぬところであった」


 好色そうに鼻の下を伸ばしているこの男こそ、現ウィスプ領主ワヤン・リィ・ギョンカその人であった。

 ぐいと使用人の手首を引くようにして抱き寄せると、彼女は喘ぐような吐息を漏らし、その反応にギョンカの目元もだらしなく緩む。


「レイラぁ・・・・・・お前が傍にいてくれぬと寂しゅうて、ワシの心の臓がきゅうというのじゃ。

 どうじゃ、そろそろ今宵こそワシと床を共にせぬか。のう、たっぷりと手当てをつけてやるからの。な」


 ねっとりと言い寄るギョンカに、レイラと呼ばれた女は間近でじっと見つめ返す。

 透き通るように滑らかな肌、眼鏡と長い睫毛の奥に隠れた蒼玉の瞳、上品な鼻梁にぷくりとした唇。たっぷりした蜂蜜色の髪をときほぐして香油を馴染ませれば、見事な肢体を彩るに違いない。

 毎日のように女遊びをしているギョンカには、一目見た時からこの女の価値が分かっていた。極力地味に抑えようとはしてはいるが、寝乱れる姿はさぞや鮮やかな色香を放つであろう、極上品だ。

 思わずうっとりと眺めていると、レイラは愛らしい唇をそっと開いて囁いた。


「御主人様。私は使用人ではございますが、この身体までも所有物なのではございません。

 ですが約束を守ってくださりさえすれば、その時こそ、喜んでこの身を捧げます」


 目を付けてこの方、幾度となく交わしあった台詞だ。

 当初は、無理矢理にでもと意気込んで口説いていたギョンカだったが、レイラは驚くほど頑なに拒み続けた。大富豪であるギョンカを拒んだ女はこれが初めてであったため、それが余計に彼の欲情心を焚き付けてしまい、今に至っている。

 いよいよ約束の期日が迫っていた。

 ギョンカは一応その内容を思い出そうとしたが、その後のことを想像しただけで鼻息も荒く興奮してしまい、夢中で服の上から女の身体を撫でさする。が、あっと言う間にするりと抜け出されてしまった。


「ああ・・・・・・ああ・・・・・・約束は守る、絶対にだ。

 レイラ、だから、その時はお前も、」


 喘ぐように呟く領主を前に、女は静かな笑顔を残して去っていった。


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