次男ラインハルトと至高の携帯兵糧
53歳の農業試験官が、転生、15歳の男爵3男坊になり、
貧しい男爵領を救い、仲間になる転生者たちと出会い、
第1次産業革命を飛ばし、自然エネルギーを中心として起こす
産業革命と、緩やかな民主化を推し進めて国の発展をめざす!
次男ラインハルトと至高の携帯兵糧
一、ガチガチの硬パンと、熱血兄さんの悩み
ベルグフェルド領の北方に位置する、風の吹き抜ける山岳演習場。
「ぬぉぉぉぉりゃぁぁぁっ!」
気迫のこもった叫びと共に大剣を一閃させたのは、ベルグフェルド家の次男・ラインハルト(十七歳)だ。自警団の隊長を務める彼は、寒風吹きすさぶ中、若い兵士たちと共に泥と汗にまみれて剣の鍛錬に励んでいた。
正午を告げる鐘が響き、兵士たちがハァハァと荒い息を吐きながら木陰に腰を下ろす。
「隊長、昼飯にしましょう……」
若い兵士が腰の袋から取り出したのは、石のように硬く干からびた黒パンと、塩分が強すぎて噛み切るのも苦労する塩漬け肉(レザー肉)だった。
「ぐぐっ……! か、硬ぇ……! 顎が外れそうだ……」
「水で流し込まないと喉を通らねえ……。それに、この寒さでパンが冷え切ってて、腹の底から冷えてくるぜ……」
兵士たちが寒さに震え、歯を痛めそうになりながら黒パンをかじる姿を見て、ラインハルトは苦々しく拳を握りしめた。
(くそっ……! 我が領の兵糧は重くて硬い上、ろくに栄養もねえ。冬の山岳警備で寒さに凍える兵士たちに、もっと温かくて力を出せる飯を食わせてやりたいのに……!)
その時だった。
「ラインハルト兄さん! 自警団のみなさん! お昼の差し入れを持ってきましたよー!」
山道を爽やかに登ってきたのは、十五歳の三男ユージーンだった。後ろには、大きな木箱を担いだ従者のハンノと、妹のマリアンヌが続いている。
二、ユージーン特製『魔改造型・携帯兵糧セット』
「ユージーン!? お前、こんな山奥までどうしたんだ?」
汗を拭いながら駆け寄るラインハルトに、ユージーンはニッコリと微笑んだ。
「ラインハルト兄さんが『兵士たちの食糧が重くて硬くて困っている』って言っていたでしょう? だから、僕とマルタで新しい『携帯兵糧』の試用品を作ってきたんだ」
「携帯兵糧だと……!?」
ラインハルトが身を乗り出すと、ユージーンは持参した革袋から二つの包みを取り出した。
一つ目は、手のひらサイズの薄くて硬い『焼きソバ煎餅』。
二つ目は、サラサラとした粉末が入った小さい革袋??『即席スープの素』だ。
「おいおいユージーン……、こんな薄っぺらい煎餅と粉で、一日中山を走り回る男たちの腹が満たせるのか?」
半信半疑のラインハルトに、ユージーンは「ふふん」と胸を張った。
「試してみればわかるよ。ハンノ、湯を沸かして!」
ユージーンは手際よく小型の魔導コンロで湯を沸かすと、兵士たちの木樽の中に革袋の粉末をサッと振り入れ、そこへ熱湯を注ぎ込んだ。
じゅわぁぁぁぁ……っ!!
次の瞬間??極寒の演習場に、濃厚な『きのこ出汁』の香ばしい匂いと、甘く豊かな芋の香りが爆発的に広がり、兵士たちの胃袋を直撃した!
三、雪山での歓喜と『即席マッシュポテト』
「な……なんだこの良い匂いはッ!?」
「ただの粉に湯を注いだだけだぞ!?」
驚愕する兵士たちの前で、木樽の中の湯がとろりと固まり、一瞬にして黄金色の熱々『マッシュポテト・出汁スープ』へと姿を変えた。
「これはね、ジャガイモを蒸して潰したものを乾燥させた『ポテトフレーク』に、この前裏山で採って天日干しにした『きのこの出汁粉末』と塩・ハーブを混ぜたものなんだ。湯を注いで10秒混ぜるだけで、熱々の栄養満点スープになるんだよ」
「じ、10秒だと……!? 遠征先で木を組んでスープを何時間も煮込む必要がないというのか!?」
ラインハルトは震える手で木樽を受け取り、フーフーと息を吹きかけて一気に一口啜った。
「??っっっ!!!!」
ラインハルトの目がカッと見開かれ、背筋に強烈な衝撃が走った。
「う……うまい……ッ!! トロトロのジャガイモが喉を温かく滑り落ちて、出汁の旨味が身体の隅々にまで染み渡る……! 寒さで凍えていた胃袋が、一瞬でポカポカ温まっていくぞ!!」
「どれ、俺にもくれ!」「俺にも!」
耐えかねた兵士たちが群がり、出来立ての即席スープと、香ばしい『焼きソバ煎餅』を口に放り込んだ。
「う、うまあぁぁぁいッ!」
「なんだこの煎餅! パリッと香ばしくて、噛めば噛むほどソバの旨味が出てくる!」
「軽いから腰の袋に何十枚も入るぞ! 硬パンみたいに歯が折れる心配もねえ!」
「しかもね」とユージーンは微笑む。
「ソバ煎餅は、ソバ粉と少量の蜜を練って焼き固めてあるから、水分を吸うと胃の中で膨らんで何時間も腹が減らないんだ。ジャガイモのポテトフレークは、軽くて腐らないから一年以上保存できるよ」
四、兄の涙と、絶対の誓い
「軽くて、腐らなくて、湯を注ぐだけで熱々の美味いスープになる……。腹持ちが良く、兵士の命を守る最高の活力……」
ラインハルトは、兵士たちが「温かい……美味い……!」と涙を流しながらスープを飲み干す光景を見つめ、じんと胸を熱くさせていた。
自警団の隊長として、貧しい領地で硬い黒パンしか渡せず、ずっと申し訳なさを抱えていたラインハルト。その長年の苦悩を、弟のユージーンが「科学と知恵」であっさりと解決してくれたのだ。
「……ユージーン」
ラインハルトはガバッとユージーンの肩を抱き寄せ、その大きな身体で弟を抱きしめた。
「すごすぎるぞお前は……! これがあれば、うちの自警団は雪山でも他のどこの軍隊よりも素早く動ける! 寒さで倒れる兵士もいなくなる! お前は……領地だけでなく、俺の部下たちの命まで救ってくれたんだ!」
「痛たた……兄さん、力が強すぎるよ! でも、喜んでもらえて良かった」
苦笑いするユージーンの頭を、ラインハルトはぐしゃぐしゃと力一杯撫で回した。
「決めたぞ! 俺は生涯かけて、お前と、お前の作る畑を守り抜く! どんな魔物が来ようが、他領の不届き者が来ようが、俺と自警団が全開でぶちのめしてやるからな!」
「頼もしいよ、ラインハルト兄さん」
ふたりが顔を見合わせて笑い合うと、兵士たちから「ユージーン様万歳!」「自警団の救世主だ!」と割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
その光景を、妹のマリアンヌが「お兄ちゃんたち、かっこいいー!」と嬉しそうに手叩きで見守っていた。
五、三兄弟の『軍事×内政』戦略へ
その日の夜。
帰還したラインハルトは、すぐさま父・男爵と長男クラウスに『即席兵糧セット』の報告を行った。
「……なるほど」
クラウスは眼鏡の位置を直し、試作のポテトフレークを手に取りながら、鋭い眼光を輝かせた。
「行軍のスピードが劇的に上がり、調理用の薪や鍋を運ぶ馬車の数を減らせる……。つまり、『軍の移動コストと維持費』が大幅に削減できるということか」
「それだけじゃねえぞ、クラウス! 行軍先で熱々で美味い飯が食えるんだ、兵士の士気が段違いだ!」
興奮気味に語るラインハルトに、クラウスはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ふむ……ならば、我がベルグフェルド自警団の装備として正式採用するだけでなく、王国の近衛騎士団や他領の軍隊へ『高栄養・超軽量の遠征用兵糧』として高く売りつける手もあるな……」
「出たな、クラウスの悪代官顔! だが、最高だ! どんどん売って領地を儲けさせてくれ!」
二人の兄が、それぞれの専門分野(軍事と行政)でユージーンの技術を100%活かそうと熱弁を振るう。
父男爵は「うむうむ、我がベルグフェルドの三兄弟は天下無敵だな!」と上機嫌で酒杯を干していた。
自室に戻ったユージーンは、窓の外の夜空を見上げながら、柔らかく微笑んだ。
(ソバの非常食、ジャガイモの貯蔵、そして軍用兵糧の開発……。1次産業(生産)、2次産業(加工)、3次産業(流通・軍事供給)が綺麗に噛み合い始めたぞ)
ユージーンは自らの手に微弱な風の魔力を集め、北の山から吹き下ろす冷気を肌で感じ取った。
(……よし、領地の足腰はこれで完璧に強くなった。次はいよいよ、春の『遅霜』との戦い……果樹園の防霜システムを完成させよう!)
大好きな家族と頼もしい兄たちに見守られながら、ユージーンの異世界アグリ革命は、さらに大きな実りへと向かって突き進んでいくのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
初めての執筆ですが、本人は楽しんで作っています。
もし、面白かったら☆マークとブックマークよろしくお願いします




