サイレンの星
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
星、という言葉をどのように定義するか。
狭義には恒星を意味するらしいけど、その狭い意味で使うのは一部の専門家くらいだろう。僕たちは、夜空に輝く点々とした光たちを指して、このように呼んでいる。
ひいては、どこかにおいて特別な光を放つもの、という意味合いでも用いることがあるね。暗い中でも光があったのならば、そこへ寄っていきたくなるのは虫も人も共通しているかもしれない。
そのため誘導の手段としても、非常に効果的。光をもとにおびき寄せて始末するのは、誘蛾灯の原理などからも分かりやすい。その種類もまだ数多くあり、新しい知識を入れていくのは大事なことかもしれないね。
僕もだいぶ前に、星に関するマイナーな話を聞いたことがあるんだけど、耳に入れてみないかい?
はじめて祖父母の実家へお邪魔したときだ。
ブロック塀に囲まれた一軒家だったのだけど、その塀の上にぽんとバレーボール大の電球らしきものが置かれていた。
実際に電気が通っていて、スイッチをつけると光る。ただ普通の明かりと異なり、一定間隔で様々な色の光に変わるタイプのものだったんだ。
イルミネーションと呼ぶには、これ単体というのが少し気になる。ちらりとまわりを見ると、他の家々も多少のサイズさこそあれ、似たようなものを塀や軒先などに設置しているらしかった。
それだけならば、地域の流行りとかなのかなあ……で、スルーしていたかもしれない。
けれども、祖父母の家で二泊することになった最初の晩で、僕はあの電球が使われる場面に出くわした。
午後八時くらいだったと思う。
にわかに、外から「ウ~、ウ~」と大きくて耳障りな音が飛び込んできた。
機械じみたその響きは、身近で聞くものの中ではサイレンに似ている。しかし、機会が発するにしては、ときおりウ~、とウ~の間に息遣いのような音が漏れ聞こえ、生物のような気配がちりばめられている。
妙な音だなあ、と思っていると廊下がきしむ気配。部屋の戸を開けると、ちょうど祖父が歩いていくところで、どうも玄関へ向かっているようだった。
そのまま履物をつっかけて外へ出ると、例の電球のスイッチを入れる。入れた瞬間こそ白いものの、以降はどの色へ変わるかはランダムになっているのか。数秒後には、緑色の光へ置き換わった。
しかし、昼間とはちょっと様子が異なる。
例のサイレンのような音は鳴り響いているも、その音に合わせて電球の光が、小刻みに明滅する。音が区切れるとまた明るくなり、鳴り出すとまた目に悪い動きをしはじめる……の繰り返しだ。
祖父もその動きをしばし観察したあと、きびすを返してこちらへ戻ってくる。僕もじっと見ていたから、おのずと視線がかち合う形になり、一連の流れの説明を聞いたよ。
例の色が変わる明かり。どうも、この地域に伝わる現象じみた存在に対しての備えのひとつらしい。とはいえ、ことの起こりは本格的なダムが建設されるようになった明治時代以降とのことだが。
ダムの放水の際に発せられるサイレンの音。それに紛れるようにして、そいつはやってくる。
とはいえ、姿は見ることができない。その接近の兆候が人間の身体に現れてくるんだ。
真っ先に現れるのが、さかむけの発生。両手の爪の脇の皮が剥けていく。普通のさかむけなら本人も知らないうちにできているようなものなのに、見ている前でおのずと発生していくありさまだとか。
実際、その様子を僕も見ることになった。祖父が明かりをつけたときに、話の主らしき存在はかなりそばまで来ていたらしい。
両手を広げてみると、みるみる十指の皮が剥けていく。痛みなど感じることなく、見えない指がちまちまと皮をはいでいく、気味の悪い光景だったよ。他人が見る分には、手品のような動きに思えて面白いかもだけど。
「じっとしておいたほうがいいな。あからさまな反応があると、余計に被害が出る。人が誰かをいじめるのと似てな。平然としていれば、じきに飽きるだろう」
祖父のいう通り、それぞれの指が深くとも数センチほど剥かれたところで、奇怪なモーションはぴたりと止まった。
屋内にいる、かつじっとしていたからこの程度で済んだそうだけど、外へ出ていると大変なのだそうだ。
さかむけはほんのあいさつ代わり。もし気に入られると、次は両腕に発疹が浮き出はじめる。やがてそいつは黒々とした色へ変わっていき、数も増えていって、腕全体を黒く染め上げてしまうのだと。
そこから、音もなくもげる。
ボキとかメキとか、想像しやすい擬音を伴わない。ただそれが砂でできていたかのごとく、静かにその場へ落ちる。
断たれる面には、やはり痛みを感じない。神経まで壊死してしまっている、と見られるとか。更にひどくなると黒い斑点は全身にも広がっていき、やがては命を奪う……とされているみたいだ。
少なくとも、あの明かりを灯すようになってからの、この100年あまりの間、そこまでに至る人はめっきりいなくなり信ぴょう性はやや薄れているとのこと。さかむけ現象だけでも、異様な何かはあると分かるからマシではあるが。
「やがて、あいつらは明かりに取りつき、完全に消してしまうだろう。そうなれば、あのサイレンを思わせる声もやみ、現象もおさまる。
考えるに、あいつらはサイレンの音に仲間の気配なりを感じて、出てくるのかもしれんな。ひょっとするとあの色の変わる明かりこそが、仲間の姿か集まる場所か。
あやつらにとっての『星』のような存在なのだろう」
と、祖父は話していたっけ。




