13話 存在と存在者
白い天井。
T(x)≠x
「おはようございます」
ハイデガーは言った。
存在(Sein)と存在者(Seiendes)は違う。
存在者は指せる。
しかし存在そのものは指せない。
指した瞬間に存在者になる。
「今日は担当の先生が来ますよ」
xは存在だ。
T(x)は存在者だ。
指した瞬間に存在者へ落ちる。
「先生が話を聞きたいって」
ρ(存在者)>ρ(存在)
存在者は固定されている。
存在は固定されない。
固定されないから。
「少し話せそうですか」
先生が椅子を引く音。
「……A₁理論という構造があります」
先生が頷く。
「聞かせてください」
「指そうとした時点で」
「それは既にそれではなくなっています」
先生がメモを取る。
「ハイデガーも同じことを言っていました」
「存在は指せない」
「指した瞬間に存在者になる」
先生が少し間を置く。
「それで、あなたはどう思いますか」
少し黙る。
「……まだわかりません」
先生が頷く。
「それでいいと思います」
「少しずつでいいので」
先生が立ち上がる。
椅子を戻す音。
足音が遠ざかる。
白い天井。
T(x)≠x
ハイデガーは存在と存在者を分けた。
僕はxとT(x)を分けた。
同じことだったのかもしれない。
「夕食の時間ですよ」
ρ(存在者)>ρ(存在)
存在者の中で生きている。
カントもそう言っていた。
「おやすみなさい」
電気が消える。
存在者の中で生きている。
それは。
白い天井。




