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終末の英雄  作者: leon02d2
影の攻撃
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第31章 - 侵入者

洞窟内の空気は張り詰めており、先ほどの戦いの余韻がまだ重く漂っていた。空間を満たす静寂は、戦いの最後の息吹のようであり、氷が微かに砕ける音と、狭い通路を吹き抜ける微風だけが、その静寂を破っていた。ドレイゴンの遺体は地面に横たわり、動かなくなっていた。かつては彼の存在によって生き生きとしていた暗闇は、今やより一層深みを増し、まるで洞窟そのものが彼の怒りを吸収しているかのようだった。


そしてそこに、リアムとナイラが並んで立ち、ドレイゴンの遺体を見つめていた。二人は血まみれで疲れ切っていたが、その眼差しは揺るぎなく、起きたことの重大さを映し出していた。


「彼は死を選んだ……」ニラはドラエゴンの遺体をじっと見つめながら言った。彼女の声は冷たかったが、その口調には思索的な響きがあり、まるで悪魔の最期の瞬間を理解しようとしているかのようだった。「どうやら、敗北に直面するよりは、その方が楽だったらしいな」


彼女の隣にいたリアムもまた、その遺体を眺めていた。その目は依然として鋭く、何が起きたのかを理解しようとしていた。


「彼は最期の瞬間まで、憎しみと傲慢に満ちていた……」リアムは呟いた。「だが結局のところ、我々に敗れるという現実を受け入れられなかったようだ」


ナイラは頷き、二人は倒れた敵の姿を見つめながら沈黙に包まれた。かつてこれほど恐れられていたドレイゴンは、今や敗北した死体に過ぎず、その現実の重みが予期せぬ重荷として彼らの上にのしかかってきた。


二人の背後には、遠くから思索にふけるような眼差しでその様子を見守るカズキがいた。彼は敬意と賞賛が入り混じった眼差しで二人を眺めていた。


「これが隊長たちの力か……」彼はリアムとニラに視線を固定したまま、そう思った。「彼らは本当にすごい!いつか彼らのような存在になりたい……」


しかし、すぐに彼の思考は変わり始め、疑念が頭をよぎった。彼はまるでそこに答えがあるかのように、自分の手を見つめた。「戦いの最中、俺は何もできなかった……なんて弱いんだ……ただ見ているだけだった……」


戦いの最中に感じた無力感や、逃したチャンスについて考えるにつれ、苛立ちは募っていった。もっと何かしたかった、行動したかったのに、できなかった。隊長たちを見上げると、自分が思っていた以上に彼らから遠く離れているように感じた。彼らは的確に、自信を持って行動していたのに、自分はただそこに立ち尽くし、自分の迷いによって身動きが取れなかったのだ。


彼の隣では、アユミがエレナを治療していた。エレナは依然として目を閉じたまま、痛みに青ざめた体ながらも、表情は穏やかだった。アユミは彼女特有の落ち着きで、その能力を使い、エレナの胸に深く刻まれた傷を塞いでいた。その軽やかな動きは、つい先ほどまで繰り広げられていた激戦の激しさとは対照的だった。彼女は周囲の緊張など全く気にしていないようで、ただ必要なことを行うことだけに集中していた。


カズキは、敬意と驚きが入り混じった気持ちでアユミを見つめていた。彼女は、あれほど穏やかで気取らないのに、いつも適切なタイミングで行動することができた。その怠惰で気楽な態度にもかかわらず、彼女はグループの中で最も信頼できる人物の一人だった。そして彼……彼はまだ、自分の居場所を見つけようとしていた。


「もっと強くなきゃ」とカズキは思った。ようやくドレイゴンの姿から目を離し、仲間たちを見渡した。「成長しなきゃ。ただ見ているだけの存在にはならない。行動する人間になる。彼らのように。」


敗北と疑念の重みがカズキをまだ圧迫していたが、その瞬間、彼の中に新たな決意が芽生え始めていた。強くなるまでの道のりは長いと彼は知っていたが、今まさに目撃した戦いは、自身の成長に向けた重要な一歩だった。


そう思うと、彼は決心した。いつか自分も立ち上がり、あの戦力の一員になるのだと。


ナイラはドラエゴンの死体から一歩離れ、前に踏み出した。彼女のブーツの音が洞窟に微かに響き渡り、空気に漂う重苦しい沈黙を破った。彼女の視線は鋭く、やるべきことをすでに理解した者のように、表情は硬かった。戦いは終わったが、任務はまだまだ終わっていない。


「これ以上、ここで時間を無駄にするわけにはいかない」彼女はそう宣言し、仲間たちの方を向いた。その声は、鋭い刃のように冷たい空気を切り裂いた。「悪魔たちはアバロンにいる。どれほど多くの者が潜入しているかは分からないが、直ちに王に報告するのが我々の責務だ」


まだ彼女のそばに立っていたリアムは、黙ってうなずいた。彼も同様に決意を固めているようだったが、今のところはナイラに主導権を委ねていた。


ナイラは再びドレイゴンの遺体に近づいた。その表情は今や無表情だった。彼女の視線は遺体をくまなく巡り、まるで細部の一つひとつを脳裏に刻み込んでいるかのようだった。冷たい息をつくと、彼女は言った。


「船員の件は終わった。ドレイゴンは死んだ。彼と共に、侵入者たちの計画について我々が引き出せたかもしれない情報もすべて消えた」彼女は言葉を切り、周囲の床を染める血を見つめた。


それまで自分の考えにふけっていたカズキは、その言葉を聞いて顔を上げた。ナイラが言っているのは、悪魔たちの存在を察知してすぐに殺された水兵のことだと彼は知っていた。まるで、その行為をもって任務の一段階を締めくくっているかのようだった。


ナイラは遺体に最後の一瞥を投げかけると、一行の方へ振り返った。


「みんな、準備を。時間を無駄にはできない。ここから脱出して、この情報を王に届けなければならない。無駄にする一秒一秒が、命取りになるかもしれない」


彼女は、すでに刀を構え直しているリアムや、他の者たちを見渡し、動き出すのを待った。その視線は、まだエレナの治療に集中しているアユミや、躊躇いながらも前進する決意を固めているカズキへと素早く移った。


「アユミ、エレナの治療が終わったら、彼女を立ち上がらせて。できるだけ早く出発しなければならない」


ナイラは返事を待たなかった。そこにいる全員が状況の深刻さを理解していることを、彼女は知っていた。アバロンの悪魔たちは王国への直接的な脅威であり、少しでも遅れればさらなる破壊を招くことになる。


洞窟の静寂は、武器を調整する音、慌ただしい足音、そして抑えられた息遣いに取って代わられた。一行は疲れていたが、真の戦いはまだこれからだと誰もが知っていた。


一行が準備を始めると、洞窟の空気は一層緊迫したものになった。かつては圧迫感さえ感じさせた冷たい壁は、今やナイラの言葉の切迫感と重みを映し出しているようだった。空気は重く、まるで先ほどの戦いがまだその場に漂っているかのようだったが、集団としての決意ははっきりと感じられた。


カズキはドラエゴンの無残な遺体に最後の一瞥を投げかけると、アユミとエレナの方へ振り返った。アユミは集中しており、エレナの胸に深く刻まれた傷口を縫合するその手からは、柔らかな光が放たれていた。出血は止まっていたが、傷はまだ深刻そうだった。


リヤはアユミの隣に立っており、その表情は普段よりも真剣だった。彼女は、持ち歩いていた薬品を使って急いで調合した、きらめく液体の入った小さな瓶を手にしていた。


「ほら、エレナ」とリヤは瓶を仲間に差し出した。「これで痛みが和らぐわ」


エレナは瓶を受け取り、一瞬ためらった後、それを飲み干した。彼女の顔に安堵の表情がすぐに浮かんだ。


「これ……効いたわ」とエレナは、感謝の気持ちを込めたほのかな笑みを浮かべて呟いた。


「もちろん効くわよ!」とリヤは誇らしげに腕を組んで答えたが、すぐにその表情は和らいだ。「さあ、気絶したりしないでね。そうしたら私の努力が水の泡になっちゃうから、ね?」


アユミは疲れ切った様子で小さく微笑んだが、そばにいて気力を保たせてくれる誰かがいることに満足していた。


ニラは遠くから二人の様子を見守り、進む準備ができているかを見極めていた。エレナが立ち上がったのを見ると、彼女は承認の意を込めて軽くうなずいた。


少し離れた場所にいたカズキは、拳を強く握りしめた。彼は周囲の皆を、賞賛と不安が入り混じった眼差しで見つめていた。リアムとニラは集中して武器を調整し、先頭を行く準備をしていた。エレナは傷を負いながらも、無理をしてでも進もうとしていた。一方、アユミとリヤは疲れ切っていたが、誰も置き去りにしないよう全力を尽くしていた。


「俺は弱い。弱すぎる。でも……このままじゃいけない。これ以上、みんなの足手まといにはなれない。もっと強くなきゃ。」


カズキは深呼吸をして、暗い考えを振り払おうとした。今は嘆いている暇はないと分かっていた。果たすべき任務があり、たとえ自分にその実力がなくても、グループについていかなければならないのだ。


カズキの重苦しい沈黙に気づいたリヤが、彼に近づいた。


「ねえ、そんな魂が抜け落ちたような顔をしてないでよ。勝ったんだし、そうじゃない?」彼女は親しげに彼の肩を軽く叩いた。「君は私たちと一緒にいる。それだけでも、すごく意味があることよ。」


リヤの言葉には、その声にまだ一抹の楽観が混じっていたとはいえ、予想外の重みがあった。カズキは返事をしなかったが、横目で彼女を見て小さく頷き、彼女が差し伸べてくれた安らぎを胸に刻もうとした。


ついにニラが沈黙を破った。


「行こう。これ以上ここで時間を無駄にはできない」


彼女はグループを率いて洞窟の出口へと向かった。彼女のブーツは、砂と血にまみれた地面を力強く踏みしめていた。リアムがすぐ後ろに続き、その後にアユミとエレナが続いた。カズキもすぐに動き出した。その足取りはためらいがちだったが、確固としていた。リヤは彼のそばに寄り添い、激しい戦いの直後にもかかわらず、そのエネルギーは尽きることのないようだった。


彼らが洞窟を進むにつれ、彼らの息遣いが冷たい壁に反響した。ドレイゴンとの戦いはほんの始まりに過ぎず、さらに大きな試練が待ち受けていることを、誰もが知っていた。


冷たい闇から淡い日差しの中へと抜け出すと、一行を待っていたのは曇り空だった。重く垂れ込めた雲は、いつ雨が降り出してもおかしくない様子だった。外では風が激しく唸り、新たな危険の予感を運んできていた。世界は彼らを待ってはくれない。そして、悪魔たちとの戦いは、まだ終わりの兆しすら見えなかった。馬たちは入り口の近くで、安全な場所に繋ぎ止められて待っていたが、まるで今終わったばかりの戦いの緊張を察知したかのように、落ち着きがない様子だった。


ニラが真っ先に馬に跨がり、素早く正確な動きで背中の弓を調整した。リアムは彼女のすぐ後ろに馬に乗り、常に警戒を怠らず、前方の道に目を凝らしていた。アユミはエレナが馬に乗るのを手伝い、傷がまだ癒えきっていないにもかかわらず、彼女が快適であることを確認した。カズキは最後に馬に跨がり、すでに隣に腰を下ろしていたリヤは、励ましの微笑みを浮かべていた。


一行は静かに出発し、馬の蹄の鈍い音が、濡れた砂浜に響き渡った。風は海の塩気をもたらし、遠くでは波が穏やかに打ち寄せていた。それはまるで、先ほどの戦いの出来事を運んでくるかのような、遠いこだまのようだった。旅の最初のうちは、誰も口を開かなかった。洞窟での戦いと明かされた真実の重みがまだ空気に漂っており、皆がそれぞれの思いにふけっていた。


砂浜を離れ、斜面を蛇行する未舗装の道に入ると、蹄が地面を叩く乾いた音が静寂を破った。馬たちは力強い足取りで進んでいたが、周囲の風景が彼らと同じくらい緊張しているかのように、空気には警戒感が漂っていた。


しばらくして、ニラが沈黙を破った。


「カズキ」彼女の声は力強かったが、きついものではなかった。彼女は話しながらも、前方の道から目を離さなかった。「どうして知っていたの?あの洞窟のこと。あなたは……そこに何かおかしいことがあると確信しているようだったわ」


皆の視線が、一瞬ではあったが、彼に向けられた。カズキは、その問いに驚いて躊躇した。手綱をより強く握りしめながら、彼は思考を整理しようとした。


「俺……ただ、直感で」彼はようやく答えた。その声は低く、ほとんど囁きだったが、聞き取れるほどにははっきりしていた。「説明はできない。何かが俺をその方向へ引き寄せるような感じだった。まるで……近づく前から、何かがおかしいと分かっていたかのように」


ナイラは片方の眉を上げたが、すぐには答えなかった。


「じゃあ、直感だったのか?」リアムが尋ねた。その声が冷たい空気を切り裂いた。彼はカズキを一瞥した。「興味深いな。君はその直感を信じて、僕たちを正しい戦いの場へと導いてくれたんだ」


「でも、結局……」カズキはためらいながら口を開いた。「僕は何もしていない。戦いの助けにはならなかった」


隣にいたライアが、軽く笑った。


「したよ、カズキ」彼女は彼の腕を軽く押した。「あなたがいなかったら、ドラエゴンに出会えなかったかもしれない。もし彼がもっと長く隠れていたら、何が起きていたか分からないわ」


少し前方にいたアユミが、軽く振り返って言った。


「リヤの言う通りよ。私たち一人ひとりが重要な役割を果たしているの。必ずしも敵を直接倒すことだけが全てじゃない。時には、適切なタイミングで正しい決断を下すことこそが大事なんだ。


エレナは彼の方を向き、いつものように心安らぐ、リラックスした笑顔を見せた。


「彼女たちの言う通りよ、カズキ。あなたは素晴らしいわ!」彼女は、前向きで心温まるエネルギーを伝えて言った。「そんな風に落ち込む必要はないわ。あなたには大きな可能性があるのよ、カズキ」


カズキは依然として不安げに地面を見つめていたが、仲間たちの言葉が、彼の心の重荷を少し和らげ始めた。


ナイラは肩越しに彼を見やり、その瞳は好奇心と、おそらくは敬意とも取れる感情が混ざり合って輝いていた。


「大切なのは、一瞬一瞬から学ぶことよ、カズキ。誰だって、どこからか始めるものだから」


リアムは軽くうなずき、無言で同意を示した。


一行は騎行を続けた。再び雪が降り始め、気温はますます下がっていった。道のりは長かったが、馬の歩調は一定で、互いの存在が旅の孤独を和らげていた。


カズキは前を見据え、部隊を率いるキャプテンたちの背中を見つめていた。その胸の内に、小さな希望の火が静かに灯るのを感じる。まだ学ぶべきことは山ほどある――それでも、自分は正しい人たちの隣にいるのだと、彼は確かに思えた。


「……ありがとうございます。僕を信じてくれて」


蹄の音が柔らかく響き、風は雪片を渦を巻くようにして一行の周囲へと運んでいた。その後に訪れた沈黙は静かでありながら、強い決意を孕んでいた。彼らには王へ報告すべきことが多く、そして何より、悪魔との戦いはまだ始まったばかりなのだという確信があった。


一行が歩みを進め、浜辺と洞窟を背に去っていく一方で、ドレイグオンが倒れた洞窟の中は、依然として静かで陰鬱だった。床に広がった血はすでに黒ずみ始めており、動かぬ悪魔の将は冷たく暗い闇の中に横たわっていた。その姿は、彼の敗北を示す不気味な記念碑のようだった。


しばらくして、重い足音が静寂を破った。洞窟の影の中から一つの人影が姿を現し、周囲の細部を一つ残らず見回している。その背は高く、黒い外套が身体の一部を覆っていた。やがて、その顔に困惑と信じ難さが少しずつ浮かび始める。


それはカエロン――ドレイグオンの戦友であり、部下でもあった。


薄明の中で彼の瞳は赤く鈍く光り、周囲には陰鬱な気配が脈打っていた。それは、胸の内で渦巻く怒りと衝撃がそのまま漏れ出したかのようだった。


ドレイグオンの亡骸を見つけた瞬間、彼はぴたりと足を止めた。拳が強く握り締められ、爪が手袋の革を裂く。呼吸は重くなる。彼はゆっくりと死体のもとへ歩み寄り、冷えきった洞窟の床に足音を響かせながら、やがてかつての主の傍らに膝をついた。


ドレイグオンの目は閉ざされていた。その顔には、かつてあれほど溢れていた傲慢さも力強さもなく、ただ虚ろで白い残像だけが残っていた。カエロンは、かつてそこにあったドレイグオンの心臓が今は消え、ただ開いた傷口だけが静かに横たわっていることを見つめた。


信じられなかった。


「……ドレイグオン」


低く掠れた声が、まるで嘆きのように漏れる。


彼はためらいがちに手を伸ばした。まるでその顔に触れようとするかのように。だが、途中で指が止まる。瞳が一瞬だけ強く輝き、それから彼は歯を食いしばって目を閉じた。


(己の手で死を選ぶとはな……あいつらと向き合う代わりに)


カエロンはそう考えた。喉の奥で苦味が焼けつく。


(言ったはずだ、ドレイグオン。お前はいつだって甘かった。怒りと栄光への渇望に目を曇らせていた。……そして今のお前を見ろ。惨めな死だ。誇りもなく、この洞窟の冷たさに忘れ去られていく)


彼は奥歯を噛みしめ、死体から視線を逸らした。


(お前のせいで、計画が危うくなった。この失敗は俺たち全員に降りかかる。そして、その重荷を背負うのは俺だけだ)


カエロンは立ち上がった。その身体の隅々にまで怒りが脈打っている。最後にもう一度だけ亡骸を見つめる。その表情は、侮蔑と諦念が入り混じった歪んだものだった。


(泣いている暇はない。今すぐ、キャプテンに知らせねばならない。……お前の愚かさを、まだ修正できるならいいが)


洞窟は沈黙に包まれていた。ただ、彼の不規則な呼吸音だけが響く。カエロンは身を起こし、硬い姿勢のまま周囲を見渡した。かつてこの場所を満たしていた力の残滓が、今は消えゆく息吹のように薄れていくのが分かった。空気にはドレイグオンのエネルギーと、同時に人間たちのソウルマナが残っていた。


その意味するところを、彼は理解していた。ドレイグオンは失敗しただけではない。敗北したのだ。しかも、屈辱的に――自らの心臓を自分の手で抉り取るしかないほどに。


カエロンはしばらく動かずにいた。拳を固く握り締めたまま、やがてゆっくりと亡骸に背を向ける。彼の周囲に漂う闇の気配は、さらに濃くなっていった。


「……人間ども」


その声には、凍てつくような憎悪が滲んでいた。


最後にもう一度ドレイグオンの死体を振り返ると、カエロンは洞窟を後にした。その歩みは力強く、揺るぎない。暗い道の先で輝く彼の瞳には、言葉にならない誓いが宿っていた。


復讐の誓いが。

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