第2章 - 盗賊女
第二章まで読んでくださったということは、この物語に少しでも興味を持っていただけたのだと思います。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
私は外国人の作者であり、現在オリジナル作品を独力で日本語に翻訳しています。日本語を十分に話せるわけではないため、表現の違いや誤り、不自然な部分などがあるかもしれません。その点はどうかご理解いただけると嬉しいです。
そして、もしよろしければ感想やコメント、フィードバックをいただけるととても励みになります。皆さんの声が、これからも作品を更新し続ける大きな力になります。
これからもどうぞよろしくお願いします。
夜明けの薄暗さの中、カズキは目を覚ました。 半開きのカーテンから差し込む淡い光が部屋を静かに照らしている。 まだ眠気の残る目をこすりながら、彼はゆっくりと体を起こした。 長く続く悪夢の余韻を振り払うように、小さく息を吐く。
「またあの夢か…… どうして終わらないんだ……」
静かな部屋に、彼のつぶやきだけが響いた。 あの悲劇の記憶は、毎晩のように鮮明なまま彼を追いかけてくる。
「俺の村を襲ったのはアザロス――魔王軍第四将だ。 戦争が始まった初日に、ヴァロリアへ向かう途中だったらしい。 アヴァロンの首都だから、最初から狙われていたんだ。 本来なら俺もあの日に死んでいた。 でも…… なぜかあいつは俺を殺さなかった。 “お前が何になるか見てみたい”って言ったんだ……」
その言葉は今も胸に刺さったままだ。 軽蔑と興味が混ざったあの視線――まるで自分でも知らない何かを見抜かれていたような感覚。 思い出すたび、怒りと不安が入り混じる。
「よし…… 新しい一日だ」
欠伸をこぼしながら、カズキは無理やり気持ちを切り替えた。 疲れは残っているが、立ち止まる余裕はない。 彼はベッドを離れ、静かに部屋を出た。
「カレンが入隊手続きしてくれたはずだよな。 正式な承認までは一週間…… それまでは今まで通り稼がないと」
台所の棚を開けると、そこには固くなったパンが少し残っているだけだった。 戦争以来、食糧不足は珍しくない。 彼は諦めたようにパンを一つ取り、椅子に座る。
「食料も買わないと。 でも金が…… ギルドに行って依頼を受けるしかないか」
パンをかじりながら、昨夜のカレンとの会話を思い出す。
「まだ怒ってるかな…… 正直、今は顔を合わせづらいな」
食事を終えると、彼は寝室の棚を開けた。 中にあったのは銀貨七枚だけ。
「七アウリン…… 思ったより少ないな。 ちゃんと数える癖をつけないと」
銀貨を握りしめ、彼は市場へ向かった。
「七アウリンか…… パン二つ買えるかどうかだな。 最近値上がりしてるし…… さっきのパンだけじゃ足りないけど、我慢するしかないか」
歩きながら、彼はこの国の通貨制度を思い返す。
アヴァロンでは「アウリン」が通貨単位だ。 金貨(Au)は銀貨百枚分、銀貨は銅貨百枚分の価値を持つ。 さらに希少な白金貨(Ap)も存在するが、それは主に貴族や最高評議会の者が扱う特別な貨幣だった。 この制度は、大戦後に初代アヴァロン王が定めたとされている。
しかし戦争の長期化で経済は急速に悪化した。都市は破壊され、交易路は途絶え、食料は自給に頼るしかなくなった。結果として物価は急騰し、飢えや犯罪、闇取引まで増えていった。
「この国はずいぶん変わってしまった……でも、俺は守りたい。たとえ小さな力でも、何か変えたいんだ」
さらに三年前、戦況は最悪の局面を迎えた。悪魔軍の猛攻により、吸血鬼の国ルナリアは陥落。多くの熟練兵が戦死し、今では若者が兵の大半を占めている。現在は小康状態だが、誰もが次の総攻撃を恐れていた。
「……考えすぎだな。少し気を紛らわせよう。ゲイルのパン屋が近いはずだ」
市場に着くと、朝早いにもかかわらず人で賑わっていた。色とりどりの屋台が並び、果物や工芸品、焼きたてのパンの香りが空気を満たしている。活気はあるが、その奥には戦時特有の緊張も漂っていた。
カズキは「Nyx’ Oven」というパン屋へ向かった。店の奥では、白いエプロンを粉だらけにしたゲイルがパンを焼いている。常に優しい笑顔を浮かべるこのパン職人は、街ではよく知られた存在だった。
カズキの姿に気づくと、ゲイルはにこやかに声をかけた――。
「やあ、カズキ。今日はどうだい?」
ゲイルは明るく元気な声で言った。その様子は、どこか疲れた表情のカズキとは対照的だった。
「大丈夫だよ、ありがとう。ゲイルは?」
カズキは小さく微笑み、軽くうなずきながら答えた。肩は少し落ちていた。
「まあ順調だよ。今日は市場がにぎわっててね、お客さんも多い。それで、何が欲しいんだい?」
ゲイルはパン屋のカウンターに腕を置き、返事を待った。
「えっと……銀のアウリンが7枚で、何が買えるかな?」
カズキはどこか諦めたような声で尋ねた。
「たった7アウリンか……最近、大変そうだねカズキ」
ゲイルは少し眉をひそめ、心配そうに言った。
「うん……最近いい仕事がなかなか見つからなくて……」
カズキはため息をつき、一瞬視線を床へ落とした。
「それはつらいな。ちょっと待ってな、手伝わせてくれ。」
ゲイルは棚から焼きたてのパンをいくつか取り、紙袋に入れた。
「いや、気にしないでよゲイル……」
カズキは少し戸惑った。
「遠慮するな。店からのサービスだ。ほら、必要だろ?」
ゲイルは優しい笑みを浮かべながら紙袋を差し出した。
「ありがとう、ゲイル。本当に助かるよ。」
カズキは感謝しながらパンを受け取り、胸に温かいものを感じた。
「ちゃんと食べるんだぞ。また何かあったら来なさい。」
ゲイルは穏やかにうなずいた。カズキはパンを手に店を離れ、新しい一日へ向かって歩き出した。
カズキはパンをリュックにしまい、一つだけ取り出して食べながら、ニクスヘイヴンのにぎやかな通りを歩いた。市場の活気は、朝の冷たい空気と対照的だった。
パンをかじりながら、カズキはゲイルのことを考えていた。彼はただのパン屋以上の存在だった。短い交流の中でも、父親のような安心感と優しさを感じていたのだ。
(ゲイルは俺にとって特別な人だ。長い時間一緒にいるわけじゃないけど、いつも気にかけてくれる。辛い時もそばにいてくれた……本当に感謝してる。)
ぼんやり歩いていたその時、突然の気配が彼の思考を断ち切った。素早い影が横を通り過ぎ、彼のバッグを一瞬で奪った。
「泥棒か!」
アドレナリンが一気に駆け巡る。カズキはパンを落とし、迷わず追いかけた。
盗賊はまるで滑るように走り、驚くほどの速さで距離を取っていく。カズキは人混みをかき分けながら必死に追った。やがて盗賊は家の壁を駆け上がり、屋根へ飛び移った。カズキもすぐに後を追い、器用に屋根へ登った。
「逃がさないぞ!」
カズキは叫びながら追跡を続けた。
屋根の上の追走は激しかった。盗賊は猫のように身軽で、カズキの動きを巧みにかわしていく。
(くそ……速すぎる。衛兵も捕まえられなかったわけだ。でも俺がやるしかない!)
カズキは必死についていったが、相手の俊敏さは驚異的だった。
(どうしてこんなに速いんだ……?)
盗賊は屋根から飛び降り、路地へ逃げ込んだ。カズキも後を追いながら必死に考える。
(……そうだ!)
強い決意が胸に宿る。カズキは屋根の端まで走り、思い切って大きく跳躍した。危険な賭けだったが、風を切り裂きながら落下し、ついに盗賊へ体当たりする形で衝突した。二人は激しく地面へ転がった。
しばらく無言の緊張が流れた。遠くの喧騒だけが聞こえていた。
「言っただろ、逃げられないって。」
カズキは痛みをこらえながら立ち上がり、倒れている盗賊を見下ろした。
「バカじゃないの!?」
盗賊は女性の声で抗議したが、痛みのせいか起き上がれなかった。
近づいて顔を見ると、金髪を結んだ少女だった。黒い瞳が驚きに揺れ、盗賊用のマスクをつけている。
「女の子だったのか!?」
「当たり前でしょ!見ればわかるでしょ、このバカ!」
少女は痛みに顔をしかめながら座り込んだ。
「待て……思い出した。懸賞金、金のアウリン5枚の盗賊だな!」
カズキは指を差して言った。
少女は何も答えず、視線を逸らした。体の痛みで逃げることもできないようだった。
カズキは地面に落ちていた自分のバッグを拾い上げ、そして彼女の目を見つめた。
「お腹、空いてるのか?」
カズキは少女に同情し、優しく尋ねた。
「当たり前でしょ、このバカ!じゃなきゃ、なんであんたを盗むのよ!?」
少女は苛立った声で怒鳴り続けた。
カズキはバッグを開け、パンを一つ取り出すと、穏やかな笑顔で差し出した。
「ほら、食べなよ。」
「なんで私にくれるの?」
少女は困惑した様子で尋ねた。
「お腹が空いてるんだろ。それだけだよ。」
カズキは変わらぬ優しさで微笑んだ。
「それと……もう行っていいよ。」
彼は静かに言い、彼女を解放した。
「でも、衛兵に突き出せば賞金もらえるでしょ……」
少女は戸惑いながら言った。
「分かってる。でも君は生きるためにやっただけだろ。だから、もう行っていい。」
少女は全身の痛みに耐えながら立ち上がった。
「…… ありがとう。 」
そう言い残し、パンを握ったまま通りへ走り去っていった。
(誰にだってチャンスは必要だ。 生きるために悪いことをする時もある。 でも、それだけで悪人とは限らない。 俺はそう信じてる。 みんなに二度目のチャンスがあるべきなんだ。 俺は――そんな世界に変えたい。 )
(さて…… 傭兵ギルドに行かないとな。 金を稼ぐには依頼を受けるしかない。 )
カズキは傭兵ギルドへ向かった。
ギルドに到着すると、鉄で補強された重厚な木の扉を押し開けた。 わずかにきしむ音が響く。 中は広いホールで、鎖に吊るされた油ランプが柔らかく揺れていた。 壁には過去の討伐の戦利品――魔物の頭部、古い武器、色あせた旗などが飾られている。 大きな木のテーブルが点在していたが、人影は少なかった。
(妙に静かだな…… いつもはもっと賑やかなのに。 )
受付へ向かうと、いつもの受付嬢カレンの姿はなく、代わりに見慣れないジェシーが立っていた。
「やあ、ジェシー。 カレンは?」
カズキは心配そうに尋ねた。
「あなたが軍に入るって決めたことで、かなり傷ついてるみたい。 今日は休んでるわ。 」
ジェシーは静かに答えた。
胸に小さな痛みを感じながらも、カズキは続けた。
「そうか…… それで、他の傭兵たちは?」
「特別任務よ。 近くの村のそばでゴブリンの群れが見つかったの。 討伐報酬は金のアウリン18枚。 みんなで分けるためにグループを組んで出ていったわ。 」
「なるほど。 それで、残ってる依頼は?」
「あなたのランクなら、この辺ね。 」
ジェシーは数枚の依頼書を差し出した。
【依頼一覧】
■ 護衛任務
商人のキャラバンがミッドガルドまで移動する護衛。
報酬:銀のアウリン400枚(400Ag)
■ 討伐任務(狼)
農民の家畜を襲う狼の討伐。
報酬:銀のアウリン280枚(280Ag)
■ オーガ討伐
ヤマギリ村付近でオーガ出没。 生態系への被害あり。
報酬:金のアウリン8枚(8Au)
■ 偵察任務
南方山岳地帯の未踏区域マッピング補助。
報酬:金のアウリン5枚(5Au)
(偵察が5Au、オーガ討伐が8Auか...... 今は金が必要だし、報酬が高い方だな。 オーガなら経験もある。 問題ないはずだ。 )
カズキは依頼書を手に取り、さらに詳しく読んだ。
(傭兵として、オーガは何度も狩ってきた。 今回も同じだ。 )
「ジェシー、このオーガ討伐にするよ。 」
「本当に?オーガは強いわよ……」
彼女は少し心配そうに言った。
「大丈夫。 俺ならやれる。 」
カズキは自信に満ちた笑顔を見せた。
「分かった。 信じるわ。 ここにサインして。 」
彼は羽ペンで依頼書に署名した。
「これで完了。 討伐証明としてオーガの心臓を持ってきてね。 報酬を渡すわ。 」
「了解。 それじゃ、行ってくる。 」
「気をつけてね、カズキ。 」
カズキはバッグを背負い、出口へ向かった。 途中、指名手配の掲示板が目に入る。
【指名手配】
ハヤト・シモ — 金のアウリン55枚(生死問わず)
ヒカル — 金のアウリン24枚
ダリウス — 金のアウリン35枚(生死問わず)
しばらく見つめた後、カズキは静かに背を向けた。
(あいつらは危険すぎる…… サファイア級以上の傭兵しか狩れない。 )
(傭兵ランクは9段階――
ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、サファイア、エメラルド、ルビー、アメジスト、ダイヤモンド。 )
(俺は今プラチナ級。 まだサファイアには届かない。 でも関係ない。 軍に入れれば、最前線で戦える。 )
(今は任務に集中だ。 ヤマギリ村…… ヒカニムラの近くだな。 今出れば明日には着く。 )
出発前にカズキは一度家へ戻り、残っている食料をバッグに詰めた。
そして決意の眼差しでニクスヘイヴンに別れを告げ、ヒカニムラへ向けて旅立った。




