38.レベルを上げて物理で殴れ
「遅かったな」
ソルディア川下流。
満身創痍で川底から登ってきたカルドにオズワルドが声をかける。
カルドが周囲を警戒すると、そこら中に破壊された人骨や魔物の骨が流れ着いていた。
これはドラザール・ブラックフォージが計画し、偶然オズワルドの【メテオレイン】によって倒された魔物達だ。
アステリアから事の次第を聞いていたカルドは武者震いする。
「これを…兄が…」
その有様はまるで地獄の顕現かのように思えた。
この光景を生みだした兄とこれから戦うのだ。
『ヒャーハッハッハ! 満身創痍だなァ! レベルアップしとくかァ!?』
「いや、まだその時ではない。こちらが指示するタイミングで頼む」
『指示だァ? ……わかったよ』
頭の中に響くアステリアの声は一瞬不機嫌になったものの、了承する。
『あー、そっちこそわかってんだろうなァ。オズワルド相手にスキルは意味ねーからな』
アステリアによれば、オズワルドはその戦闘経験から大抵のスキルを記憶しており、その発動を目視してさえいればほぼ回避できる。
それ故にオズワルドは獲得した膨大な経験値をレベルアップのみに当てられ、使えるスキルは元々覚えていた【ライトニング・スラッシュ】のみとなっていた。
『それにRPGなんつーもんは、レベルを上げて物理で殴ればクリアできるからな』
RPGというものが何を意味するか…カルドにはわからなかったが、世の武人や魔法使い達の研鑽を無意味としているように聞こえて腹が立った。
だが、現在のカルドにこの悪魔を倒すすべはない。
ならばせめて、その力を己が利のために使い尽くすまで。
カルドが剣を正眼に構えると、オズワルドは用心深く下段に構える。
川から上がり水浸しの二人は、奇しくもかつて信託の儀で争った時の構え。
しかし、それぞれが辿り着いた答えはまったく逆である。
その構えに辿り着くまでに何があったのか、カルドにはわからない。
だからこそ、知りたくなった。
「やはり、この戦いにはこの技がふさわしい…」
『おい! スキルは使うなって』
【ライトニング・スラッシュ!】
雷を纏う飛ぶ斬撃。
オズワルドが水に濡れている今ならその威力も増すだろう。
かつてよりも遙かに広範囲になった飛ぶ斬撃を、オズワルドは完全に読み切っていた。
カルドが剣を握り込んだ時点で前方へ走り出し、斬撃が剣から離れた頃には身を低くし、斬撃を潜り抜けていた。
だが、カルドもかつての技量ではない。
オズワルドの接近を許す前に次の【ライトニング・スラッシュ】を放つ。
オズワルドから見て左から右へ振られる剣から斬撃が放たれる前に、オズワルドも左から右へ流れるように踵を返す。
【ライトニング・スラッシュ】が外れる。
切っ先に張り付くようにオズワルドが追従していた。
剣は振らなければ威力が出ない。
こうも張り付くように動かれてはダメージの与えようもなかった。
「ここだ」
オズワルドが下段の構えから切り上げ、カルドが咄嗟に防御するが剣が弾かれ浮かされる。
切っ先が反転。
雷のごとく、カルドの胸元に剣を振り下ろす!
流れるような組み立てに、カルドは腕力のみで強引に剣を引き戻して受ける!
ギギギギギ!
つばぜり合いながら、オズワルドとカルドは互いの力量を推し量っていた。
「魔法系だと思ったら剣までこのレベルですか…。兄さんは滅茶苦茶ですね」
「対【ライトニング・スラッシュ】用に作られた組み立てを腕力だけで止められた俺の身にもなれ」
技量ではオズワルド、力ではカルドが勝っている。
少なくともカルドの技はオズワルドに当たるまい。
カルドはアステリアが言っていた『オズワルドにスキルを使うな』の意味を身体で理解した。
確かにレベルを上げて物理で殴るべきなのかもしれない。
だが、カルドは【ライトニングスラッシュ】という技が好きだ。
それしか使えないというのもあるが、とにかく好きなのだ。
なぜかは自分でもよくわからない。
「この距離なら躱せまい」
「何…!?」
カルドはつばぜり合う剣を押し込みながら、そのスキルを使用した。
【ライトニング・スラッシュ・ゼロ!】
遠距離攻撃であるはずの【ライトニング・スラッシュ】がゼロ距離で放たれる。
こうなれば、もはや剣を振る距離など関係ない。
スキルが持つ破壊力だけでオズワルドを吹き飛ばした!
目の前で爆弾を爆発させたようなものである。
当然、カルド自身も無事ではない。
「はぁ、はぁ…やったか?」
吹き飛ばした方向には土煙が舞い、雷の余波が残っていた。
オズワルドの声がする。
「【チート・クラフト】……【ワールドチェンジ】…【RPG『マルクト戦記』】」
「……【魔法】!」
――――――――――
【チート・クラフト】:レベル23
【ワールドチェンジ】
・RPG『マルクト戦記』レベル18
【通常攻撃】
【戦技】
【魔法】◀ピッ
【防御】
【換装】
【逃げる】
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