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とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


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36.火蓋


「隊長!」

「オズ!」


 石橋の崩壊を見て、メルとミレイユが叫ぶ。


 戦争を足止めし続けた男とブラックフォージ家の男爵。

 二人が流されていく。


 メルが副隊長として思考する。


(グレイフォードからすれば、カルド男爵を倒せば勝ち)


(つまり、あのグレイフォードの司令官は即座にソルディア川を下降して、カルド男爵を倒そうとするはず……。それにしても、単騎で敵陣に向かうとか、カルド男爵はマジで何がしたかったんすか~!)


 ミレイユが司令官として思考する。


(おそらく、ブラックフォージ男爵はオズとレティア嬢に和平をまとめられると困るのだろう…)


(一枚岩ではないことは想定していたが、男爵自身が直談判するほど切迫していたとは……ともあれ、こちらの勝利条件はすぐに追いかけてカルド男爵を確保することだ)


 つまり

 二人の結論は一つだった。


「早馬! 早馬を出して早く男爵を取り返すっす!」


「先手を打たれるな! すぐに追いかけろ!」

 

「弓兵! 魔法兵! 馬車へ! 出てきた馬にたたき込んで!」


「魔法兵! ブラックフォージ砦にデカいのをぶち込んでやれ! 戦力を砦に縫い止めろ!」


「げぇー! あいつらここにまで撃ってきたっす! 反撃! 反撃! 反撃--!」


 争いは加速していく

 まるで倒れだしたドミノのように止まらない。


 戦時中にこういうことが起きたらこうする。という、事前に決めた手順に則って動く破壊の連鎖。


 その速度に市井の商人であるレティは混乱していた。



 通常であればここまで素早く計画的に暴力が振るわれることなどないのだ。


 町の喧嘩も魔物の脅威も恐ろしいが、人間が組織だって行う戦争はもっと恐ろしい。


 何より恐ろしかったのは、さっきまで目の前で笑っていた人たちが急に殺し合っていることだった。


 心が追いつかない。


(オズワルドさんは、みんなに戦って欲しくなかったのに、なんで)


 レティに両陣営の立場などわからない。

 どこかしこから怪我をした兵士の悲鳴が聞こえてくる。


 オズワルドの訓練によって足止めになるよう牽制に留めているが、それでも百発百中ではない。狙いを違えて命中することだってあるのだ。


 でも、それもこのまま加速していったら。


 レティにはオズワルドのような戦局を見通す力もなければ、悪魔アステリアのような【閲覧権限】もない。


 何で攻撃し始めたんですか?

 なんて聞けば、何もわかっていない奴扱いされて以降の発言は無視されるだろう。


 的外れなことを言うわけにもいかない。


 つまり、誤解させるのだ。

 嘘に嘘を重ねることになったとしても、今誰かが死ぬよりずっといい。


(オズワルドさんも同じ気持ちだったのかもしれないな)


 きっと、それを何年も何年も続けてきたのだ。

 レティは川縁に走り出した。


「わっ! ばか! 死ぬ気か!?」


 ミレイユが止めるがレティは聞く耳持たない。

 ブラックフォージの兵たちが攻撃を逸らす。


 最近まで仲良く話していたただの商人が非武装で走ってきているのだ。


「メルさん! 攻撃を止めてください!」


「は、はぁぁ!? できるわけないっしょ! あんたならそのくらいわかってるはずじゃん! それとも、グレイフォードに寝返ったわけ!?」


 わからない。何も知らないし、寝返ってはいない。

 ただ、みんなに争わないでほしいだけ。


 そんな子供みたいな理由でこの戦争が止まるはずがない。


 だから。


「メルさん、隊長を信じてください!」


 だから、情に訴える。


 戦略なんて知らない。損得なんて知らない。

 正しいかなんてわからない。


「それは隊長からの指示か?」


 それでも思考を停止せず。

 言葉を使え。


「隊長は…こんなこと…望んでないです」


 メルの表情が変わった。

 オズワルドからの指示だと誤解したのだ。


「総員! 攻撃止め! 隊長の指示だ!」


 何も状況がわからないのに戦況を変えてしまった。

 レティの胸が早鐘を打つ。


 そんな指示は受けていないのに、まるでそんな指示があったかのように振る舞って、メルを誤解させて。


 これでミレイユが攻撃を止めなかったらメルたちは一方的にやられるだけ。

 そうなったら…私が嘘で殺したも同然だ。


 幼いレティはようやく、事の重大さに気づく。

 暴力を前にしたことで心が麻痺しているのかもしれなかった。


 じゃあ、何もせずにいたらよかったの?

 黙って、自分だけ綺麗なまま、安全なところに隠れて震えていればよかったの?


 わたしは、みんなに死んで欲しくなかったんじゃなかったの?


「止めなくちゃ…」


 そう呟くレティを見て、メルはぞっとした。

 場数を踏んだ者だけが持つ格を感じたのだ。


 レティがグレイフォード砦へゆっくりと歩き出す。


 グレイフォード砦からの攻撃は散発的になり、ゆっくりと停止していく。

 レティが丸腰で敵地へ赴き、敵の重要人物らしき女と会話をしてから攻撃が止まったのだ。


 そんな状況で総攻撃を仕掛けるほど、憎む理由もない。


 グレイフォード砦へ戻り、ミレイユに言う。

 できるだけ偉そうに、怒っているかのように、見せかけた。


「このまま攻撃を止めてください。それともグレイフォードは平和をお望みでないのかしら?」


「すみません、部下に厳命しておきます」


 誤解された姿を真似るような、令嬢めいた言葉遣いだった。

 ミレイユは大人しく引き下がる。


 これで止まった。


 レティの心は燃えていた。

 

 私は誤解を恐れない。

 嘘をついてもごまかしても、すべてを使って、望んだ未来を手に入れる。


 そして、どんな形になろうとも。

 嘘を真実に変えてみせる。


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