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とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


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33/38

33.経験値増加薬(10倍/10分)創造


「おい、そこの者! 何者だ!」


 ブラックフォージからソルディア川に向かう途中、カルド・ブラックフォージを乗せた馬車が停まる。


 テレポートでいきなり人影が現れたのだ。

 人影はマントをばっと放って、名乗りを上げた。


「あらァ! 奇遇ですねぼっちゃァん! 前人未踏! 最低最悪! 気分は最高ゥ! いつもアナタの背中を狙う。愛と絶望の悪魔! その名も!」


「アステリアだ! 殺せー!!」


 カルド率いる兵たちが一斉にアステリアに襲いかかった。

 問答無用である。


「あははは! ヒュー! 最高ー! 死ぬ死ぬ死ぬゥ! アステリア死んじゃゥーー!」


 剣で突かれ槍で刺され、魔法を放たれてもアステリアは無傷だった。


 大罪の悪魔アステリア。

 そう呼称されるこの女はだいたいろくでもないことを引き起こす。


 全力で攻撃すると引いてくれることも、なぜか全然死なないこともあると言われており、今回は死なないようだった。


 その場合、アステリアは無敵なのでどうすることもできない。

 それがこの世界の人間が持っている一般認識である。


 カルド・ブラックフォージは死を覚悟した。

 彼も必死に戦ったがまるでダメージを与えられなかったからだ。


「何が望みだアステリア…。我が領地を悪魔の手に落とさせはせんぞ…!」


「そう怯えなさんなってーの。アタシが人類の味方をしたことだってあったでしょーが」


 実際、その通りだった。

 気まぐれな悪魔アステリアは、なぜか何度か世界を救っている。


 理由は不明だが事実なのだ。


「今回は味方だと言うのか…? にわかには信じられ…」


「そうそうそうそう! それ! マジそう! いやー流石はブラックフォージ男爵! 話がわかるなァ! 実はブックフォージ領存亡の危機! いや、ほんとなんだってマジでェ! それでねそれでねェ~~!」


 アステリアはべらべらと喋る。喋り続ける。

 カルドはアステリアを倒す術がないので聞き続けるしかなかった。


 少なくとも危害は加えてこないようだ。


「おい、アステリア。何をしている。アタシはオズワルドを殺せと言ったわけでカルドは関係ないぞ」


 姿の見えない戯神ロキがアステリアの心に直接語りかける。

 アステリアはカルドにしゃべくりまくりながら、心の中で戯神ロキに言い返した。


「オズワルドは正面からは倒せないんだよ。少なくともアタシにはできねーの。これまでも何度か雑に殺そうとしたけど。なんかよくわかんねー不思議な力が働いて無理だったんだから」


「は? なんだそれ」


 初耳だった。


「魔法でも加護でもねェ。アタシみたいなスキル由来の概念防御でもねェ。何故か周囲の人間たちがオズワルドにとって都合の良い勘違いをした結果、なんやかんやが巡り巡ってあいつを助けやがるんだよ! 気に食わねェよなァー!」


 言われてみればそうだった。

 これまではオズワルドが何のスキルも使用できなかったから見過ごされていたが、これは異常だ。


 偶然にしてはあまりにも運が偏りすぎている。

 

 それに気づけたのがあらゆる人間をとりあえず雑に殺そうとするアステリアだったというのは皮肉だが、むしろこの人選は正解だったかもしれない。

 

 アステリアはカルドにべらべらしゃべる。


 オズワルドが【チート・クラフト】を使いこなしたこと。


 ワンポチで麦畑を生み出したこと。

 一撃でダイアウルフを消し飛ばしたこと。

 うっかり石の雨を降らせたこと。

 なんとかギリギリで防御魔法が間に合ったこと。


 およそ現在のオズワルドを倒せる者がブラックフォージ領に存在しないこと。

 オズワルドは傭兵であり、必ずしも常にブラックフォージ領の味方ではないこと。

 ブラックフォージ境界警備隊はオズワルドに心酔していること。

 グレイフォード砦の連中もオズワルドに心酔していること。

 オズワルドは現在、グレイフォード砦に滞在していること。


 オズワルドがブラックフォージ領につけば、この戦争はブラックフォージの勝利になること。


 逆にグレイフォード領についたならブラックフォージは滅亡するだろうということ。


 そのすべてが真実だった。

 言動の一切に嘘はない。


 アステリアが【管理者権限】によって閲覧した記録ログに間違いはないからだ。


「オズワルドが誤解やごまかしで身を守るなら、アタシは真実の光ですべてを焼き尽くす! 事実! 真実! 嘘偽りなく! すべての誤解をほどいてみせる! そうすりゃ流石のオズも運の尽き! どうしようもない現実とご対面って寸法よォ! ツケを支払う時が来た! 勝てるモンなら勝ってみやがれ! 真実に裏はねェ! 故に誰にも何にも負けやしねェんだァ! ヒャーッハッハッハーーー!」


 戯神ロキは心底安心した。

 真実が負けるはずがない。


 同時にアステリアを恐れた。

 この悪魔は悪魔でありながら正しさすら使いこなす。


「なるほど。仔細承知した。アステリア。先程あなたを攻撃したこと…深く詫びさせて貰う。かつて追放した兄がそのようなことになっていたとはな…。しかし、それほどまでに強大な力を持った兄に、私にできることなど…」


「うんうん、怖いし…しょんぼりしちゃうよねェ~! でも大丈夫! だって、カルドは毎日訓練を頑張ってきたじゃないかァ!」


 兵士達がなんとも言えない顔をする。

 そう力説されてもカルドは大して強くないのだ。


 周囲の雰囲気に気づいたアステリアが訝しむ。


「あれ、おっかしいな。ステータス。あれ、あれれ? なんでそんな弱っちいの? あれェ~? その人格でこっそり訓練しないはずないし…ほらやっぱ記録ログにあんじゃん。頑張り屋さんだねェ! 経験値自体は溜まってるはずなのに…なんでェ? ……バグ臭いな」


「な、何をする! や、やめ! やめたまえアステリア! あっ!」


 アステリアがしばらくカルドの胸に耳を当てたり、抱きしめたり、匂いを嗅いだりすると唐突に納得した。


「あー、そう。経験値獲得前に一時プールしてる仮参照ノードから、経験値ノードに繋がる線が切断されてんのねー。誰かに【因果切断】でも喰らったかァ? 別に調べなくてもいっか、誰かがったとかどうでもいいしィ~」


「のーど?」


 カルドが困惑する。

 それはこの世界の開発者にしかわからない単語だった。


「ここを繋げば直るが…その前に」


――――――――――


【チート・クリエイト】:レベル309


【ワールドチェンジ】


・RPG『マルクト戦記』レベル289


検索…


【経験値増加薬(10倍/10分)作成】◀ピッ


――――――――――


「はい、これ飲んで」


 カルドは言われるがままに飲む。

 それは10分間の間、獲得する経験値を10倍にするアイテムだ。


「ハッ! 無駄な努力…報われちゃいなァ!」


 アステリアがカルドをデバッグすると、これまでカルドが獲得するはずだった膨大な経験値が10倍になって流れ込んでくる。


「うお、おお!? おおおおおおお!? こ、この力は……!」


「カールド! いよっ! カールド!」


――――――――――


 カルドがレベルアップしました。


 カルドがレベルアップしました。


 カルドがレベルアップしました。


 カルドがレベルアップしました。


 カルドがレベルアップしました。


 カルドがレベルアップしました。


――――――――――


 アステリアの陽気な声が響く中、カルドの体躯は一回り大きくなり。素人目にも戦闘力が増加しているのが見て取れた。


「まーこれでいけるっしょ」


 朗らかに笑うアステリアを前に、カルドは涙を流す。


「欲して欲して、求めて求めて、それでも手に入らなかった力を…ようやく手に入れた…。ようやく……」


「うんうん、つらかったねェ。つらかったねェ。ヨシヨシ……」


 無遠慮にカルドをなで回すアステリア。

 もはやこの場にアステリアを警戒するものはいない。


 アステリア満面の笑み。

 独壇場だった。


「今日、アステリアに出会えたのも…この黄金麦の導きかもしれんな…」


 そう言って、カルドがミュルカ村で刈り取った黄金麦に触れる。

 まるで神聖なものに触れるかのようだった。


 アステリアはこれだから愚かな坊ちゃんはと思いながら、言葉を選んだ。


「あー、それさ。さっき言ったオズがワンポチで作った麦で刈れば刈ったけ無限に生えてくる量産品だから。大して価値ないよ。はい、ポイしちゃおうかァ。ポーイ!」


 言葉を選んだ…つもりである。


 少なくとも、アステリアの言葉は真実だ。


 際限なく量産されるこの麦は後世になるほど希少価値を失っていく。

 実際、カルド自身が麦を刈った時もすぐに生えてきたのだ。


「はい、ポーイ!」


 アステリアの手が麦に伸びる。


 だが、それがカルドの逆鱗に触れた。


「その麦に触れるなァ!」


 カルドはアステリアを跳ね飛ばし、黄金麦を抱きかかえる。


「えっ、ちょ。どした…。ええ? どした?」


「アステリア。お前の言葉のほとんどは真実なのだろう。だが、この黄金麦だけは別だ!」


「ええ……」


 アステリアは困惑した。

 カルドが続ける。


「この黄金麦は豊穣神アグリオンが齎した奇跡ッ! 断じて兄がワンポチで生みだした乱造植物ではなーーいッ!」


「いや、それはただの誤解で…。ノーラっていう女の子が噛んだっていうか…流れ…みたいな?」


 アステリアの言葉は真実である。

 だが、カルドは受け入れなかった。


「否! 断じて否! アステリア! この私を騙そうというのか!?」


「そういうわけじゃないんだけども…。まぁいいか、聞く耳持たなそうだし…」


 アステリアは関係性の維持を優先して黙っていることにした。

 

 大したことではないはずだ。

 戯神ロキと悪魔アステリアはひとまずそう結論づけた。


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