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外れスキル【チート・クラフト】の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死したおっさん、ゲーム世界にて神話になる  作者: 間野ハルヒコ


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2.石臼作成

 20年後。

 オズワルドは34歳のおっさんになった。


「んー、よく寝た……」


 ブラックフォージ領南部、寒村ミュルカ村。

 その小さな粉挽き小屋で目を覚ます。


 放浪生活に疲れて居座り始めたものの、割り当てられた粉挽き仕事は暇だ。


「おじさーん! 粉挽いてー!」


「おー、来たか。そこにおいといてくれ」


 村娘のノーラが麦を持ってやってくる。

 数日に一度くらいの頻度で麦を挽くだけの簡単な仕事だ。


 オズワルドはノーラから受け取った麦を拾って石臼で粉にしていく。

 ただ同じ事を繰り返すだけの仕事だが……。


「わぁー!」


 まだ10のノーラには面白いらしい、興味津々だ。


「そんなに面白いか?」


「すごくおもしろいよ!」


「そうか、それはよかったな」


 誰かが喜んでくれる。

 それだけでオズワルドには十分だった。


 オズワルドのチートスキル。

 【チート・クラフト】は何の役にも立たなかった。


 発動しようとすると、熱を出して寝込んでしまうのだ。


 断片的な記憶から、オズワルドは前世の自分は死ぬほど働いて死んだらしいと察しているが、前世の自分がこの世界を作ったゲームクリエイターだとは気づいていない。


「おじさんは何のスキル持ちなの?」


 スキルが気になる年頃らしい。

 オズワルドは自嘲気味にこう言った。


「おじさんのスキルは【クラフト】なんだよ」


「あー! 知ってる! 外れスキルだ!」


 【チート・クラフト】だと言うと迫害されるので【クラフト】スキルだと伝えるのも慣れた。


 もっとも、通常の【クラフト】スキルも外れスキルとして扱われている。


 【クラフトスキル】とは「過去に作成したものを瞬時に再作成するスキル」だ。


 これだけ聞くと強そうなスキルだが、無視できないデメリットが存在する。


 たとえば、【クラフトスキル】でショートソードを作ろうとした場合。本来ショートソードを作成するのに必要な鉄や木よりも多くの素材を必要とし。


 更にクラフトに失敗した場合、素材は消滅する。


 素材を失うリスクと引き換えに時間を短縮できると言えば聞こえはいいが、資源の少ないこの領地では普通に作った方が安全なのだ。


 これが【クラフトスキル】が職人からも忌避される理由である。


 使い道といえば壊れた道具を直すくらいだが、素材が消滅するリスクを考えるとそれでも使いにくかった。


 オズワルドは「ま、俺の【チート・クラフト】は発動すらできない欠陥品だけどな」と内心で笑う。


「すごいスキルなんてなくたって人は生きていけるのさ。なんだかんだな」


 まだ10歳の少女にそんなことを言う。


 ノーラの信託の儀は早くても2年後。


 もし外れスキルを引いたとしても、人生に絶望せずにうまいこと生きてほしい。そう思った。


 あらゆるものから存在を否定される。

 地獄の底を見て来たからこそ、余計に。


「ふーん」


 地べたにうつ伏せになって頬杖をついているノーラ。


 何を考えているかよくわからないが、子供とはそういうものかもしれない。


 オズワルドがそんなことを考えていると。


――――――――――


【グランドクエストクリア】人間族の好感度が合計100万ポイントを超えました


七つのグランドクエストをクリア!


――――――――――


 そうウインドウが表示された。


 昔からたまに表示されていたが、実生活に影響がないので無視していたのだ。


 ちなみに前回ウインドウが表示されたのは一年前。


 オズワルドからすれば「あ、こんなんあったな」くらいの感覚である。


 そもそも、このウインドウが何なのか、今だよくわからずにいるのだ。


 オズワルドの疑問をよそにウインドウに文字が流れていく。


――――――――――


【グランドクエストリスト】


・人類の好感度が合計100万ポイントを超える ←NEW!


・大迷宮エンブリオ999Fを踏破する


・全能機械巨兵デウス・オブ・マキナを破壊する


・混沌の頂デッドオブヘブン・カオスドラゴンを倒す


・災厄の魔王クルエル・グリードを倒す


・海王ポセイドン・ノヴァを倒す


・世界を五回救う


・これらすべてを一切のスキルを使用せずにクリアする ←NEW!


――――――――――


 心当たりがないわけではなかった。


 ただ、オズワルドの自認では大迷宮を攻略したのも凶悪なモンスターを倒したのも、その時たまたま一緒に居合わせた知り合いたちだ。


 確かに少し手伝ったこともあったが、俺にそんな力はない。


 俺は関係ない…はずだ。




 


――――――――――


条件を満たしました。

七柱の神による決議を開始……。


承認…もう流石に十分では?

否決…創造主の力は人の身に余ります。

否決…後でなんかあったとき責任取りたくないってーかァ。

否決…あいつわたしの玩具壊した。

承認…後は器の強度次第ですね。

承認…過剰な力ではある。だが、それがいい。

承認…ずっと彼の苦労を見てきました。報われるべきです。


賛成多数によりオズワルド・ブラックフォージを神の器と認めます。


レベル上昇制限解除。


【チート・クラフト】がレベル2になりました。


――――――――――


オズワルドを置き去りにしたまま、何か大きなことが進んでいるようだった。


しかし、運命の歯車は回り続ける。


――――――――――


【チート・クラフト】:レベル2


【新たなワールドがアンロックされました】


・SLG『文明の箱庭』:レベル1


ワールドスキルが追加されます


――――――――――


 オズワルドは混乱する。


 ワールドって何だ?


 そもそも俺のスキルは使えたためしが。


 そんなことを考えると、急に目の前の石臼に既視感を覚える。

 ずっと前から、見たことがあるような気が……あ!


 オズワルドはついに思い出した。


 この石臼を作ったのは前世の自分だったと。


(確か『文明の箱庭』ってゲームに使うマテリアルで…モーションも手付けでつけて…7徹目で…。絶対に締め切り落とせなくてぇ……!)


 そこまで考えてオズワルドは考えるのをやめる。


 心臓が早鐘のようになっていた。


(落ち着け、俺は働かなくていい、もう働かなくていいんだ)


 そう自分に言い聞かせていると、石臼の上に妙な矢印が見えた。

 時計回りにシュインと出ては消えている。


「?」


 ノーラには見えていないらしい。


 こんな現象は初めてだった。

 だが、不思議とどうしたらいいかわかる。


 宙に浮遊する【まわす】と書かれたボタンを押すと、石臼がひとりでに動き出した。

 

「え、何なにこれ!」


 ノーラが身を乗り出して石臼を指さす。

 オズワルドも驚いているが大人なので平然としてみせる。


「何! 教えて! 教えてよぉ! おじさーん! 本当は魔法使いだったの?」


 ノーラがぴょんぴょん跳ねながら話しかけてきた。


 ひとりでに動く石臼を見てオズワルドは考える。

 これが【クラフトスキル】だと言うのなら、俺は「動きを作った」ということになる。


 剣だの盾だのといった物質の素材はわかる。

 金属や木だ。


 だが、動き。

 モーションの素材とは何だ?


 そもそも【クラフトスキル】は素材を消費しアイテムを作成するスキルだったはず。


 存在しないものをどうやって消費する?


 つまり。


「俺は【クラフトスキル】のコストを…踏み倒せるってことか?」


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