診療所にて
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セルジュが目を覚ましたのは次の日の朝だった。
「ここは...診療所か」
頭が重く、体調は芳しくない。
身体は綺麗にしてもらったようだが、髪の毛はごわついており、肌もすっきりしていない。何より喉が乾いていた。寝たまま上半身を起こし、部屋を見渡す。
ここも元は民家だった所だ。部屋の隅には、元の住人の物であろう猫のぬいぐるみが置かれている。グロンダン王国軍が攻めてこなければ、今も他愛ない笑顔があふれていただろう。
ベッドサイドのテーブルに水差しが置かれているのを見つけると、セルジュは喉に流し込むように飲み干す。
「ふぅ、生きかえる」
ふと浮かんでくる、グロンダン王国軍の兵士の顔。
「うっ」
途端、吐き気を催し、いま飲んだ水をもどしてしまう。手を着いたテーブルが揺れ、水差しが落ちた。セルジュの呼吸は乱れ、額には汗が浮かんでいる。
「セルジュさん?起きたのですか?」
ガラスの割れる音に気付いたのか、衛生兵が部屋へと入ってきた。
「!?大丈夫ですか?」
部屋の惨状を見た衛生兵が、セルジュを警戒した面持ちで見ている。良い心地のしない視線にセルジュは、無理矢理に呼吸を整える。
「だ、大丈夫ですから、すいません。ちょっと、先に顔を洗いに行かせて下さい」
「...片付けておきますから」
衛生兵の言葉に返答すること無く、洗面所へと急ぐ。脚がやけに重たく感じた。
「ヴァレリーさん達は、どうしただろうか」
この診療所にはセルジュひとりしか休んでおらず、負傷している者はいなかった。無事だろうとは思うが、衛生兵には気軽に聞けそうにない。用を済ませ、顔を洗う。鏡に映った顔は昨日と変わりないように見える。
「何も変わりはない」
独り自分に告げ、部屋へと戻る。片付けは済んでおり、衛生兵の姿は無かった。
ベッドに腰掛け、もう一度水を飲んでみる。暫く経っても、さっきの様に吐き気を催しはしない。目も覚め体も起きてきたのだろう。調子も良くなっている気がする。
「何か食べれそうですか?」
顔を上げると、衛生兵が果物の入ったかごを持ってドアの所で立っていた。まだ警戒しているのか、すぐに近付こうとはしない。その様子に苦笑いしそうになる。
「先ほどはすみませんでした。片付けも、ありがとうございました」
「いえいえ。それでお体は大丈夫ですか?」
「そうですね。まだ、少し体が重たいです」
セルジュの受け答えを見て安心したのか、衛生兵は果物のかごをセルジュの目の前まで持ってきた。
甘い香りにお腹が空いている事を思いだし、セルジュは果物を貰う。一口、二口と食べる内に活力が湧く気がした。もう少し休んで、シャワーでも浴びれば元通りになるだろうとセルジュは思う。
「入るよ」
声と共にレノー中尉が部屋へと現れ、セルジュが起きているのを見て笑顔になる。その笑顔にセルジュの気持ちが軽くなる。
「あの、ヴァレリーさん達は?」
「ああ、全員無事だよ。ただ、彼らは新たな任務に着いているからここには来れそうにないんだ」
「いえ、そんな。中尉に来て頂いているだけでも恐れ多いです、ご迷惑をおかけしました」
「はは、構わんさ。それよりも体調はどうだ?」
「あと少し休めば、良くなりそうです」
レノー中尉は軍の事については話さなかった。セルジュの様子を確認しに来ただけのようで、それが済むと席を立った。
見送りの際、セルジュはレノー中尉に2日ほど休むように言われる。衛生兵も去り、部屋にひとりになったセルジュは、体をほぐし始める。
「3日後には、また任務に就かなくてはいけない。それまでには体調を整えなければ」
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