偵察部隊
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「ドニは歩兵部隊か、お互いに死力を尽くそうな」
「うん。グロンダン王国の兵を、一人残らず撃ち倒そうね」
前線基地へと赴任した初日に一人が帰還するという事態が起きたものの、その後は問題なく進みセルジュはレミ少佐との面談を経て偵察部隊に振り分けられた。
「皆、揃っているな。こいつが新人のセルジュだ」
「セルジュ・オランド。本日より偵察部隊に配属されました」
偵察部隊の隊員達が敬礼するセルジュを見る。偵察部隊には隊長のレノー中尉をはじめとする21人が所属しており、以前にセルジュ達を笑ったヴァレリー・フォールもそこにいた。
「なんだ。来ちまったのか」
「ヴァレリー、知り合いか?」
「いえ、前に少し話をした事があるくらいです」
「そうか。だが、ちょうどいいな。お前がこいつの教育をしてやれ」
「え」
誰かの小さな感嘆符は流され、レノー中尉はルブラン王国軍の状況説明へと移る。話は淡々と進み、現在ルブラン王国軍はグロンダン王国軍を追い返す事に成功している事。戦争が長引いており、負傷者が多くなってきている事。また、次の展開次第では規模の拡大も考えられる事が伝えられた。
話が終わり、レノー中尉は各自任務に付くように指示を出す。セルジュはしぶしぶ、ヴァレリーの後に付いて行く。
「セルジュ、この戦争で何人の人間が亡くなったか知っているか?」
ヴァレリーに消耗品の場所を教わっている時だった。セルジュは、急な質問に戸惑い、安易に返してしまう。
「えっと確か、10人でしたか?」
「違う12人以上だ」
「以上?」
「ルブラン王国軍では12人だが、グロンダン王国軍にも死者は出ている。だから12人以上だ」
「グロンダン王国の奴等を含めないで下さい!」
思わず声を荒げる。セルジュがヴァレリーに対し声を荒げるのは、これで二度目だ。周囲の関心を引いてしまい、ばつが悪い。
「お前、ホント何もわかってねぇのな。モリス・クーザンって奴の方が優秀かもな」
「な!?」
快く思っていない相手より劣っていると言われたセルジュは苛立ちに言葉を失い、ヴァレリーを睨みつける。だがヴァレリーは意にも介さず、消耗品について話し出す。
「まぁ、いいか。ここに銃弾がある、収納する時は必ず除湿剤が入っている事を確認しろ。弾が湿気で腐食するからな」
ヴァレリーは、その後もたんたんと偵察部隊に必要な事を話し続ける。セルジュは問題を起こせば帰還させられるかも知れないと思い、何とか苛立ちを抑え、言われた事を頭に入れていく。
宿泊所に戻ると、感情を抑え込む事に疲れたセルジュはベッドに寝転び大きくため息をついた。
「どうしたんだ?セルジュ」
「ドニ、アイツがいたんだよ」
「アイツって?」
「アイツだよ。以前、補給部隊のテントで俺たちをバカにしてきた、ヴァレリーって奴だ」
「ああ、あの人か。それがどうかしたの?」
「私があのモリス・クーザンより劣っていると言ってきた。臆病者の何が優秀だと言う!何が、まぁいいかだ!それはこっちの台詞だ、そっちが教育係だから我慢しているんだ!」
ひとしきり吐き出し、体が軽くなる。
「うるさいぞ!新入り」
「!すいません」
思っていたよりも、声が響いていたようだ。ドニが外で話そうとセルジュを誘い出す。民家から出ると、辺りには見張りをしている兵がいる。
二人は邪魔にならないように少し離れた場所へと歩く。一の年の3月の夜はまだ寒く、二人はモーターサイクルコートを羽織っている。
「その、ヴァレリーとは大丈夫なの?」
「まぁ何とかな、教え方は丁寧で分かりやすいんだ」
ヴァレリーはセルジュに対し思う所があるようだが、邪険に扱う事は無く、むしろ教え方は丁寧すぎるくらいであった。セルジュも敵意を向けられる訳ではないので、ただ合わないのだろうと思う。
「そうなんだ」
「ドニの方は何ともないのか?」
「えっ、ああ、うん。大丈夫だよ」
空に浮かぶ二つの月がセルジュとドニを照らしていた。
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