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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
4/32

前線基地

□□□■□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


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 元はチューリップ畑であった場所に魔動車が7台。歯車の音が響かせ前線基地へと進む。その内の一台に乗るセルジュの顔が前線に近づくにつれ沈んでいく。

 見知った土地の変わりように怒りよりも悲しみが深くなる。銃撃戦の為に出来た塹壕、無造作に積まれた土嚢がセルジュの記憶の中の風景を歪めていた。


 魔動車のタイヤが黒ずんだ土を巻き上げて止まる。現在ルブラン軍が拠点として利用している集落は先日までグロンダン軍に占拠されていた場所だった。


「新たに配属された者は、荷物を持ってあちらの宿泊所に入りなさい。各自のベッドが割り振られているので、荷物を置き次第、銃を携行し戻るように」


 ここまでセルジュ達を引率していた中尉に告げられ、セルジュとドニは他18人と共に駆け足で、宿泊所として利用されている民家へと急いだ。

 配置転換で新たに前線へと送られた20人は、モーターサイクルコートに身を包んでいる。20人の内、志願兵はセルジュとドニと、もう一人モリスという青年の3人で、他は正規兵であった。


 民家の中には血の跡と思われる染みがあり視線を奪われるセルジュであったが、ドニに背中を叩かれると思い出したように動き出す。並んで置かれているベッドに荷物を置き、銃を肩に掛け上官の待つ場所へと足を早める。

 魔動車が到着した場所に戻ると、そこには上官をはじめ、前から赴任していた思われる兵士が整列していた。セルジュ達は対面する形で並ぶ。


「よく来たな。私はこの前線基地を任されている少佐のレミ・ガルニエだ。早速だが、お前達の兵としての練度を見させてもらう事にする」


 一歩前に出て話始めたガルニエ少佐の指す方向に、射撃用の的と体力測定器が設置されていた。

 射撃用の的は一般的な物だが、それと違い体力測定器は魔道具だ。これ一つで、基礎運動能力を測る事ができる。体重計のように乗るだけで、握力から持久力に遺伝子情報に至る迄分かった。

 20人の新しく配属された者達が、次々と名前を呼ばれ測定器に乗っていく。セルジュは測定を前に緊張しつつも、前線基地で行う事なのかと疑問に感じるのであった。


「次、セルジュ・オランド」

「はい」


 セルジュは少尉に声を掛けられると、気を取り直し体力測定器に乗る。


“握力右62㎏左59㎏ 跳躍力83㎝ 耐久力247N/m・・・・” 


 体力測定器に付属するメーターが基礎運動の能力値を各々に示す。それを少尉が書き写し、記録していく。

 前線に異動願いを出した時から、自主的に訓練を行っていた。その甲斐あってか兵に志願した時より数値が伸びており、セルジュは気を良くする。

 

「まずまずといった所か」


 記録をつけ終えた少尉の呟きが聞こえた。思いがけない言葉にセルジュは少尉の顔を見る。


「何かあったか?」

「いえ」

「次、ドニ・ミッテラン」


 全く悪気の無い様子に困惑するも、念願した前線へとやってきたのだ。些細なことは気にしないようにしようと自分に言い聞かせる。

 場所を変え、射撃の測定へと移る。既に8人が試射を終えていたが、結果は芳しくないようだ。


「装填」


 セルジュ達の引率をしていた中尉の号令に合わせて、ライフル銃に弾をこめる。

 このライフル銃も魔道具だ。旧文明時代には火薬を撃力(げきりょく)に用いていたらしいが、このライフル銃は高密に圧縮された空気がその代わりをしている。

    

「構え」


 脚を広げ、ストックを肩につける。正面の的に狙いを定めてトリガーを引く。

 空気の漏れる音と共に、銃の孔から温かい空気が排出される。反動で上半身が揺れ、射出された弾は10m先の的の端に当たった。

 

「もう一度」


「貴様!モリス・クーザンではないな!」


 セルジュが再度銃を構えた時、体力測定器の記録をしていた上官が声を荒げた。その様子に中尉はセルジュに構えを解かせる。

 

「たまに居るんだ、替え玉を送ってくる奴がな。家の面子の為に前線希望を出し、いざって時になって怖じ気づいてしまう」

 

 何をバカなとセルジュは鼻で笑う。


「バカな奴って思うだろ?でもな、人間、一度恐怖というものに取りつかれたら、そう簡単に拭えないものさ」 

「レノー中尉。そうであれば辞退を申し出れば良かったのではないのですか?」

「セルジュ。面子ってのは恐怖よりもやっかいなんだ」

 

 面子の為に、戦場に来ようとするなんて自分には考えられない。


「どうした?リュドヴィック少尉」

「レノー中尉、こちらを」

 

 記録をしていたリュドヴィック少尉がファイルを見せ、遺伝子情報の違いをレノー中尉に説明する。当の偽モリス・クーザンは棒立ちのまま冷や汗を流している。


「クーザン家の面子は、地に叩きつけられるだろうね」

「ハーフヘブンだな」


 後ろに来たドニの軽口にエスプリを効かせるセルジュであったが、モリス・クーザンに対し郷土愛を汚されたような気がして不快な心証を抱くのであった。

 

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お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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