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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
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手紙が降った後


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 カミーユ・ベソンがグロンダン王国の軍人の肩を押さえ、ミレーユ・ベソンが頭を下げている。


「やめなさい。こちらの方はルブラン王国の貴族ですよ、国際問題に発展させたいのですか?」

「なっ!いえ、そんな...しかし...」

「いいから、下がっていてください。申し訳ございません、ベラ・ルイーズ・アンリ様」


 先程から広場は騒然としている。軍服を来た人達が一般の人々を詰めたおかげで、管理棟の人達も出てきて事態は大きくなりつつあった。ベソン兄妹がグロンダン王国の軍人を下がらせ、前に出る。


「皆様、お騒がせして申し訳ございません。私の祖父が49年前に祖母にしたためた手紙が事故で届かず、今に至っておりまして今夜それを探しに参ったのです。先ほど皆様に手紙の事を聞いて回っておりましたのは私の友人で、情が厚いが為にいささか過ぎた行為をしてしまいました。どうかこの通りです。お許し頂けませんでしょうか。そして願わくば私に祖父の手紙を探す機会を賜れませんでしょうか?」


 兄妹揃って頭を深々と下げる。そんなカミーユ・ベソンの話を聞き「そうだったのか...」と居合わせた人達の中には協力的な態度を示しはじめる人も出始めた。そうして次々とベソン兄妹に手紙を見せる人が現れる中、サラは警戒心を強める。 

 腰を低くして手紙を見せてもらう度に感謝を伝えるベソン兄妹。その調子でベソン兄妹がサラの方に一歩、二歩と近づいてきた。だが、その前にベラが立ちふさがる。


「それで?」

「これはアンリ様、それでとは?」

「話を大きくするつもりはないのだけど、さっきの演説をこの私、ベラ・ルイーズ・アンリに信じろというの?」   

「と言いますと?」

「あの者達がグロンダン王国の軍人だと私が分からないとでも思っているの?それは私に対する侮辱では?」

「いえ、そのような事は決して」

「そうです。アンリ様、私達はただ騒動を納めようとしてですね」


 焦りを見せはじめるベソン兄妹だが、ベラは構うことなく続ける。


「そう。じゃあもういいわね。私は忙しいの、この山羊への手紙を広めるために知り合いの新聞社に掛け合うつもりなの。だから早く帰って内容を載せられないか検討しなくてはいけないのよ」

「なっ!?」

「アンリ様」

「何かしら?ミレーユ・ベソンさん」

「スゥクスの宿屋の宴会場にいませんでしたか?」

「何のお話?もういいなら行くわよ、サラ」


 端から取り合うつもりは無かったサラは頷くとベラの隣に移る。ベソン兄妹達がしようとした事には腹が立っていて、文句の一つでも言いたいが、今はベラの影に隠れて言うようで気が引けた。

 

「お待ちください!」

「今度は何?カミーユ・ベソンさん」

「取り引きをいたしませんか?そちらのレターバッグに入った手紙を買わせて下さい」

「600」

「!そんなっ、山羊への手紙はウェイストですよ。出せて100です」

「いいのよ、私は無理に売らなくて」

「200...なら300!これが限界です」

「そう、まっそれでいいわ。私とサラの分、合わせて600万フラン。用意でき次第、受け渡すという事でよろしくて?」

「ふざけないで!」


 ベラの話を聞いていたミレーユ・ベソンが声を震わせて食いかかるが、カミーユ・ベソンがそれを止める。


「いいんだ、ミレーユ」

「兄さん...」

「話は済んだかしら。商人はあまり話をコロコロと変えないものよ。それとこの件は私、ベラ・ルイーズ・アンリを通すようにお伝えしておきますわ。それではあの将軍によろしく」

「やっぱり...」


 帰り道、ベラが言うにはグロンダン王国から多額の依頼料が出ている筈で、ベソン兄妹は信用を失わなかった事を含めれば、今回の損失はそれほど痛くはないだろうと言っていた。

 サラはこういう形で報酬を得る事に後ろ暗い気持ちを覚えたが、ベソン兄妹の望みは叶えていたのだからと、帰りのフェリーに乗る前には忘れる事にした。

 昨日の夜は輝いて見えた星の河も今は青い空に消えている。

 

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「ベラ。良い仕事をしたな」

「随分上からな誉め言葉だけど、まぁ悪い気はしないわね」


 そう言うとベラはアインの胴を指でつつく。アインもいつの間にかベラ呼びだ。話を始めてから長い針は既に一周している。

 

「もうこんな時間、商会に戻らないと。お茶ごちそうさま、またねサラ。それにアイン」


 ベラが手を振り帰って行くのをアインと二人で見送る。次はいつ会えるだろうか、今度会った時はリヌスの球根について相談してみるのも面白いかもしれない。


「サラ、オランドは手紙を届けられただろうか?」

「きっと届けられたよ。手紙は差出人から受取人まで届くものだから」


 くるっと回れ右をして店に戻る。パロットベルが「おかえりなさい」と声をあげる、ルリエーブル魔道具雑貨店は営業中。次はどんなお客さんがやって来るだろうか。サラは棚に並んだ、魔道具に目をやる。


「今の話だが、あのワゴンに残っている山羊への手紙はどういう事になるんだ?」

「.....さぁね」


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これにて1章完結です。この後外伝としてオランドの話を書きます。

その後は未定です。今後ともよろしくお願いいたします。

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