表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
34/37

空飛ぶ帽子


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️□◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️



 テーブルの上にはグラスが2つ、アルク共和国で買ったグリーンティ。何度か飲み気に入ったので帰り際に買っていた。グラスがいつもと違う色に染まっているのを見てサラは向こうでの出来事を思い返す。

 あの日、ショヴァン将軍達が雨を降らせようとしている事を知ったサラ達はどうにか出来ないかと策を練り始めた。サラとベラは話し合いスゥクスの街の顔役に相談しようという事になったが、上手くいかなかった。


「貴族でアンブル商会支店長の話なのにか?」

「あいにく他国で取引先でもない相手に私の威光はそれ程通用しないわ。それに万が一私たちの見解が間違っている事も考えると、相手がグロンダン王国であるだけに下手に家名を出すわけにもいかなかったのよ」

「私達に出来たのは精々そんな話を聞いたと噂を流すことぐらい」

「それは意味がないのではないか?」  

 

 アインの言う通り、そんな話をすれば酔っぱらいの戯れ言だと笑われて、逆に「心配しなくても手紙は降るから、楽しみにしておいで」と励まされる始末であった。はがゆい気持ちに居た堪れなくなるが、直接的な手段を講じるわけにもいかず途方にくれていた。


「そこでサラがアイン、貴方とした会話を思い出したのよ」

「私との会話?」

「旧文明時代に人が天候を操れたのかって話をしたじゃない?」


 雲は小さな水滴や氷の集合体。その一部が結合すると大きな水滴や氷晶となり、結合によって重さを増したそれらは、重力に従って地上に落ちる。落ちてきた物を私達は雨や雪と呼んでいる。

 旧文明の時代には天候を操作する為に雲の上からドライアイスを撒き、雲の中の温度を下げる事により、氷晶を発生させて雨を降らせていたらしい。

 

 幸いスゥクスの街は観光地、お土産物屋も多くあり、中にはドライアイスを用意している店もあった。ベラと手分けして、かき集め充分な量が集まる。だが肝心の雲に撒く方法は見つからないでいた。


「空を飛んだのか」

「まさか。アレよアレ」


 サラが指差した先には固定された帽子が置かれている。お客さんが試しに被る事が出来ないように固定してある。少しの風で飛ぶという事はないが、店の中で飛ばれたら片付けが面倒だからと教えられた。


「あのゴミの帽子がどうかしたのか?」

「...貴方の視界は一体どうなっているの」


 一輪挿しであるアインの視界は360度、上下左右も自在だ。ベラが半ば呆れたような顔をしてアインを見ている。サラが帽子を使ってドライアイスを雲に撒く事を提案した時も同じような顔をしていた。

 

「ベラ。そう言えばあの時、風呼びの舞いを私に踊らせてたけどあれってホントなの?」

「え?ホントよホント」


 目を合わせようとしないベラを怪しみつつ、アインに雨の話を続ける。

 空とぶ帽子はアルク共和国は島国だけあって海近くの魔道具屋には10個以上は置いてあった。帽子が風に拐われる事例が多く存在する地域ほどは発生するという魔道具雑誌の記事の通りで、数を用意するのには困らなかった。


「潮風に乗せたのか?」

「ううん。それだと陸側に昇っていくでしょ。だから逆の陸風が吹くまで待たないといけなかったの」

「夕方になると風向きは変わったわ。魔道具で海面の温度がいつもより上がっていたようね」

「それで上手くいったのか?」

 

 手紙の降る夜の日の7日、お昼を過ぎた辺りから水平線の向こうの方に白いモヤが見え始めた。サラ達は山の頂上からグロンダン王国軍の船を見た日から、アルク共和国の天候について調べたり、ショヴァン将軍達の行動を予測したりしていた。

 思っていたよりも遠く時間も早かったが、焦りはしない。出来ることは限られている。サラはそう自分に言い聞かせてベラと共にあらかじめ決めていた岬へと歩を進めた。


 時間を確認して風の流れが変わるのを待った。そして太陽が沈みかけた頃、最初の帽子が舞い上がる。昇っていく方向を見守る二人。狙い通りに進んでいく帽子を見て頷き合う。  

 それから次々と風に乗って帽子が飛んでいった。大きな入道雲を目掛けて進んでいく姿は、巨人に立ち向かう小さな戦士のように見えた。



◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️□◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ