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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
33/37

アインのおべっか


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 AS998年一の年7月7日。



 アルク共和国の空は忙しそうにその色を変えた。朝は一面の青が広がって、昼には高い雲がそびえて、夕暮れには帽子が飛んで、夜には虹と手紙を降らした。

 スゥクスの街の人々はお祭りの上でのお祭り騒ぎ。「プロポーズをしたんだわ」「いや喧嘩したのが仲直りしたんじゃねぇのか」「子どもが出来たんだよ」「今日はめでてぇな」エーギルとリラに良いことがあったと囃し立て、お酒を飲んだり、踊ったりだ。


 浮かれる街の人達を横目に息を切らし走っていたのはサラとベラ。山羊への手紙を回収しはじめた時には立っているのもやっとだった。なんとか手紙を集めてとうとう最後には寝そべってしまう。見上げる空には星の河が昨日と変わらず輝いていた。 



***************************************



「それで雨はどうなったのだ?」


 クレマチスの花を挿したアインが昨日に続いてアルク共和国で起きた事を聞いてくる。それも朝の身支度が済んで早々に。


「待ってよ。昨日も帰ってきてからずっと話してたでしょ」

「いい所で終わってしまったではないか」

「それはアインが寝てしまったからじゃない。お店も開けないといけないから、それが終わるまではお預けよ」

「なっうわっ」


 まだ何か言いたげなアインを抱え2階の居住フロアから1階の店舗へと降りる。カウンターの定位置にアインを置いて、売り場へと乗り出す。一週間も閉じていたから少し湿っぽい。

 サラは窓を開いて風を取り込み、看板をドアの外に持ち出す。「開店開店。開店セールは要相談」パロットベルの声は相変わらず調子外れだ。 

 

 前の通りの掃除をして店内に埃が溜まっていないか確認する。アルク共和国で仕入れた魔道具も並べなくてはいけない。一週間ぶりにするルリエーブル魔法具雑貨店での仕事。カウンターに戻って定位置に座る。


「ただいま」 

「ん?なんだ?話の続きをしてくれるのか?」

「まだよ。まだ」

「なぜだ?座っているではないか?」

「それはここで作業をするためよ。一週間も空けていたのだから色々仕事が貯まっているのよ」


 サラはお店宛の手紙の束を取りだし読み始める。アインは黙ってそれを見守るようだ。時計の針がくるくると回り長い針が同じ場所を2度訪れた時「サラ」と呼ぶ声と同時にドアが開き「お客さんだよ」とパロットベルが鳴く。

 

「よくきたアンリ」


 アインが嬉しそうな顔をして入ってきたベラを出迎えた。ベラは面を食らいながらもカウンター前までやって来て眉根を寄せる。


「何?槍でも降るのかしら?変わった天気はもう暫くは御免なのだけど」

「そんなことはない、アンリ。会えて嬉しい」

「...ねぇサラ。これどうしたの?何か変な水でも入れた?」

「っ」

「ははは、そんなわけないだろう。アンリは面白いなサラ。ところでアンリ、最近はどうであった?」

「ふふっ」


 笑いを堪えているサラを見たベラがゆっくりと何度か首肯して、何か思い付いたような顔をする。そしてアインを持ち上げると胸元に寄せた。


「アイン。今まで貴方を誤解してたようね、そんなに私の事が好きだったなんて。どうかしら私と一緒に暮らさない?ただ私は貴族だから貴方には暗い倉庫で暮らしてもらう事になるけど良くって?勿論いいわよね。私の事が好きなんだもの」  

「サ、サラ」

  

 ベラの腕の中でクレマチスの花より青ざめたのような声を出して助けを求めるアイン。サラは吹き出しそうになるのを我慢しながら応える。


「そんなに好きだったの。アイン寂しくなるわ」

「!?ち、違う。こんな大きな脂肪の塊が胸についた者など好きではない!離せ、造形美の欠片もない機能特化型!」 

「...アインそれは私に対する当て付けなのかな?ベラ?笑ってない?」

「んんっ笑ってないわ。それでどうしてこの花瓶君はおべっかを使っていたのかしら?」


 カウンターに戻されたアインはすっかり大人しくなってしまって、サラが肩をつついても何も言わなくなった。   


「アインったら。アルク共和国の話してあげないわよ」

「アルク共和国の話?それで私に...まぁでもその話をしに来たんだけど」


 サラは大きく息を吐くと手元に広げていた手紙と帳簿をしまい、ベラをテーブルに座るように促す。


「いいの?」

「うん。実は一息入れようと思ってた所だから」

「サラ、雨がどうなったのかの所からで頼む」

「もう」

「サラ許してあげたら?まだ子どもだから一週間も孤独で寂しかったのよ」

「...そうね、そういう事にしておきましょうか」

「くっ、やはりアンリは嫌いだ」


 

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