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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
31/37

大きな声

■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■


 山の麓まで駆け降りる。登りの時と違い、重力が手伝ってくれる。支える脚は「そんな事はない」と言うだろうけど。

 駆け降りて山の中腹に差し掛かった頃、後ろにあった筈の気配をがなくなっている事にはたと気付く。振り向くと離れた所で息を切らし膝に手をついたベラの姿が目に入った。何かあったのかと思い慌てて駆け寄る。


「ベラ。大丈夫?」

「だいじょうぶ、大丈夫。でも走らないでくれると助かるわ」

「ごめん、つい」


 衝動的な行動を取ってしまった事が恥ずかしくて下を向いた。その頭に笑い声がかかる。顔を上げた先にはベラが大きく口を開けて笑っていた。どう反応していいか分からずに固まってしまう。

   

「はぁ~ぁ。なに?固まってんの?」

「いや、だって」

「ほら港まで行くんでしょ。魔道車を運転出来るのは私だけよ」

「そうだった」


 ベラが軽快にそう言うので気恥ずかしい思いも軽くなり、今度は二人並んで山道を下る。山の木々が風に揺れ、葉のふれ合う音が過ぎていった。


 

 二人が魔道車に乗り港に着いたのはショヴァン将軍を乗せた船がちょうど停泊しようとしていた時だった。どうすればさっきの霧について知ることが出来るだろうかと考えあぐねていると、ベラが魔道車のダッシュボード下の収納からドレスアップドールを取り出した。


「覚えているかしら」


 髪の色を黒に変えて服装もいつもより地味な感じに変わる。ウィンクひとつでサラに待っているように伝えると、ベラはひとり船のある方向へと向かう。グロンダン王国の海兵と思われる人達とベソン兄妹の姿もそこにはある。  

 

「おい!」


 集団の中、一際大きな声が上がる。人波をかき分け現れたのは、ショヴァン将軍。手でかき分けたのではなく、お腹で押し退けたと言った方が正確だろう。ショヴァン将軍はそのまま儚げに海を眺めているベラに向かって歩みを進める。

 

「お前は昨日の宿の、女」

「はい?」


 振り向く姿に気品を感じる。ショヴァン将軍がたじろぐのように後ずさりした。押し退けられた海兵達が指を差し、顔を隠す。その横ではベソン兄妹が肩を落としている。 

 ショヴァン将軍は、なおも大きな声で話しを続ける。声が大きい方が魅力があるとでも思っているのだろうか。だとすれば将軍は、スズドリの生まれ変わりなのかも知れない。


「運命というやつだ」 

 

 聞こえてくるのはショヴァン将軍の声のみ。何を話しているのかはわからないけど、聞こえてきたのは運命という言葉。本当に偶然に出会ったのだとしたら、そう言えなくはないのかも知れない。ただ運命という言葉は人の手には負えないものではないかとサラは思う。

 益体もない事を考えている合間に、ベラとショヴァン将軍の方には進展が見られたようだ。将軍がベラを引き連れて船へと戻っていく。時折、肩に手を回そうと右腕を不自然に動かしているのが、海兵達の笑いを誘う。

 

 船の前で「オレの船だ」とでも言っているのだろうか。自慢げに告げる口は、広げた翼のように大きく弧を描く。ベラが感心するように船を見渡して、指を差している。海兵達の中でベラとショヴァン将軍だけが、異分子のようだった。

 

 魔道車の助手席で待つこと数分、ベラがひとりで戻ってきた。


「所詮は田舎者なのだ。オレの誘いを断った事、後悔するぞ」


 ショヴァン将軍の声を背中に受けて。運転席へと座ったベラは肩を竦めて、それから真剣な面持ちになる。 


「サラ。さっきの霧の正体はわかったわよ」

「ほんと?」

「ええ

「頭の悪い女だ」

 ...一先ずここを離れましょうか」


 海の風が強く吹き、波の音が騒がしく聞こえる。

 

■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■


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