自然の中で
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テーブルの上にお菓子が切り分けられている。黒い長方形の表面にはキラキラと輝く細工がされていて、夜空に浮かぶ星のようだ。サラは備え付けられている【湯沸かし石】を使いお茶を淹れて、温かなカップをベラと自分の前に置く。カップの中はエメラルドの色が満ちている。
「ねぇショヴァン将軍の言っていた話だけど、どう思う?」
「ありがと。うーん、嘘みたいな話だけど怪しいのは確かね」
ベラが爪楊枝でお菓子を一切れ、口へと運ぶ。その仕草で金色の髪がやわらかに流れた。黒い髪も似合っていたけどやっぱり今の髪色の方が彼女らしい。
「どうして?」
「だって、こうしていたもの」
サラと自分のカップを入れ換えるベラ。サラは種も仕掛けもないマジックを披露されたように、どういう事か分からないと首を傾げる。
「ミレーユがショヴァン将軍の飲み物を入れ換えていたのよ。それで、その後すぐに寝入ってしまったでしょ?怪しさ満点ね」
「そうだったんだ、明らかに不自然だったもんね。でも雨を降らせる魔道具なんてあった?」
「聞いた事ないわね。そんなものがあったら噂でも聞いていると思うのだけど。魔道具はいつ生まれるかも分からないから確実な事は言えないわ」
「じゃあ、今まで山羊への手紙が降る夜に雨が降った事ってあるの?」
「それは...どうかしら?その辺も含めて明日は現地に行ってみようか」
翌朝、サラ達は山羊への手紙が降るという場所に出掛ける。街の中心部から少し離れた小さな山、その頂上に手紙は降るらしい。山道を歩く二人。高地とはいえ汗ばむ陽気の中、歩く事1時間。ようやく頂上が見えてきた。
「はぁ。やっと頂上」
「結構疲れたね」
山の頂上は整備されていて管理棟と名のついた建物もあった。二人はそこで山羊への手紙について尋ねる。答えてくれたのは壮年の男性で二人の若い女性が相手であってか、聞いてもいない事も話してくれた。
「祭りの後片付けは誰も気乗りしないからって、まぁそうだよね」
「手紙の降る景色は壮観だけど、紙が散らばるだけ...か..」
落ちてきた手紙は自由に持って帰って良く、拾得物の権利などは無いのだそうだ。また雨については毎年記録を付けているが、一度もないとの話だった。そのまま辺りを散策する事にしたサラとベラ。
山の頂上だけあって見晴らしが良く、遠くには海も見える。展望台では望遠鏡が設置されていて二人して覗きこんだ。
「海が眩しいわ」
「ねぇ、あの船はどこに行くのかな」
「ん?どれ?ってあれはグロンダン王国の船じゃない?あの将軍さんがいるわ」
「え?ほんとだ。何かを海に降ろしている?」
船の上で指示を出しているショヴァン将軍。何やら機嫌が悪そうである。腕をしきりに動かしている。船は何かを下ろした途端、逃げるようにその場から離れる。二人は不可解な動きが気になり、船のいなくなった海面を見張る。
3分ほど経過した時、にわかに海面が白く濁り霧が現れ始めた。その現象に驚く二人だが、地元の人達は気付かなかったようで騒ぎにはなっていない。
「怪しいわね」
「うん」
海上に霧が発生する事はあるにはあるが、今の時間帯では考えにくい。霧は暫くすると昇るように消えていく。
「行こう」
「え?」
サラは走り出す。ショヴァン将軍の件も気になるが、目の前で起きた光景がどうして起きたのか知りたい。そう思うと体が勝手に走り出していた。
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