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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
3/36

A.S.948

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 A.S.(アンノステラ)948 二の年12月21日 宣戦布告後、国境を越えてグロンダン王国の兵士がルブラン王国フエフトに降り立ち、開戦の狼煙はあがった。

 

 開戦した理由について、グロンダン王国は宗教観の違いにより国民が被害を受けた為としていたが、真相は不明である。


 当時から戦争の大義名分に宗教観の違いが使われるのは主流であり、兵士の間では関税率の交渉の結果だとか、アンコモンの魔道具が目当てだとか、はたまた痴情のもつれなんていう噂もあるぐらいだった。

 ルブラン王国軍はグロンダン王国の宣戦布告を外交パフォーマンスと捉えており、戦いの火は時期に収まるだろうと予想していた。


 だが、その予想に反して戦いの火は延々と続き、その大きさを増していく。


 

 1ヶ月が経過し、フエフトに広がっていたチューリップ畑は見るも無惨な形になり、何基もの風車が倒れていた。戦況が膠着状態な事もあり、セルジュ・オランドは補給部隊でしかない状況に苛立ちを募らせる。

 

「これでは、何のために兵に志願したか分からないじゃないか!!」

「落ち着いてよ、セルジュ。後方支援は必要な役目だ」

「ドニ、そんなことは分かっている!私は故郷を踏みにじる奴等をこの手で追い返したいんだ!!」

「いいから、近くのテントには怪我人もいるんだ。静かにしてあげようよ」

「くそっ」


 仲間の兵士が傷ついている事を気遣えなかった恥ずかしさも、グロンダン王国の兵士達への恨みへと転嫁していく。

 

「...もうじき転属が発表される。フエフトを荒らされて憤っているのはセルジュに限ったことじゃない。ここにいる全員がグロンダン王国兵の奴等をこの手で無き者にしたいと思っているよ」


「くっくっく」


 喉を鳴らした音が、補給部隊のテント入り口から聞こえてきた。セルジュ達に向けあきらかにバカにしたような笑いに、ドニも目を厳しくして顔を向ける。


「何が可笑しいんですか?」

「あ?ああ、すまねぇ。少し前の自分を見ているようで、可笑しくてな」

「どういう意味だ?」


 睨むセルジュをシニカルな顔で受け、男は口を開く。 


「どういう意味も何もそのまんまだよ。何も知らねぇくせに、粋がっている姿は滑稽でしかないだろ?」

「滑稽だと!?」


 セルジュが声を荒げ、男に詰め寄ろうとした時。騒がしい音を不審に思ったのか、衛生兵が慌てて駆けつけきた。

 衛生兵はテントの中を確認し、咎めるような目を向ける。注意を受けるのだろうと身構えるセルジュとドニ。しかし、衛生兵は男の姿を見ると驚いた様子で口を開いた。


「!ヴァレリーさん。こんな所で何しているんですか。体に障ります、大人しく休んでいてください。ほら、行きますよ」

「分かったよ。…水を差されちまったな。まぁせいぜい、長生きしな」


 ヴァレリーはそう言い残し、衛生兵に促されるままテントを出ていった。 

  

「一体、なんだったんだ」

「大方、怪我をして恐くなったんだ。それを誤魔化そうと、ぼく達みたいな奴を見下して心の安定を図っていたんだよ」


 ドニの言い分に違和感を覚えるセルジュであったが、前線で戦えないくすぶりにどうでもいい事だと切り捨てた。

 

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「前線には行けたのですか?」


 サラの問いかけにオランドは、痛みに堪えるような表情をする。


「ああ、兵になって3ヶ月後。私の願いは叶い、前線へと配属されたよ」

「それは良い事だったのか?」

「ふふっ、どうだろうね。だが転属が決まった時、確かに私は喜んだ」


 オランドがアインに触れ、飾られたミモザの花が揺れる。

 

「転属の日、私は前線に向かう四輪駆動の魔動車に揺られながら、故郷を汚した者達をやっとこの手で追い払えると息巻いていた」

「恐くはなかったのか?」

「ん?そうだね...私は戦争というものをまだ知らなかった」 


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お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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