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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
29/36

ショヴァン将軍

■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「この様に、火を捕まえてこの籠にしまっておきます」


 サラとベラの前で、宿屋の女将が火を【火掴み】で持って【火の籠】に入れる。時刻は昼過ぎ。少し前にベソン兄妹の泊まる宿に来た二人は着物に着替えさせられ、今は宴会場での配膳の説明を受けている。


「この火は、食事の時に籠から出して使うのです」


 女将が小さな鍋を持ち上げ、その下に火を留める所があるのを見せる。この宿にはサラ達の所とは違って、大きな広間がいくつかあり、二人はそこで行われる宴会の給仕係をする事になっている。

 そうして宴会の準備が始まり、教わった通りに配膳をするサラとベラ。席毎に一人用の鍋を設置していく。二人は【ドレスアップドール】の変装とは違い、着物姿で動くのに少し手間取いながらも配膳を終えた。


 宴会場が整いサラとベラは、火の籠と火掴みを持ち部屋の端で待機する。静かになり張り詰めた空気が流れ、サラは息を飲んで待ち構える。少しすると向こう側から話し声が聞こえてきた。引き戸が開かれ、続々と現れる宿泊客。

 女将が率先して挨拶に伺い、席へと案内していく。見るからに宿泊客はアルク共和国の人ではない。サラの緊張が強くなり火の籠が揺れる。


「ええ、万事上手くいっております。ですから、こうして前祝いの席を設けさせて頂いたのです」

「ショヴァン将軍様にはごゆっくりと英気を養っていただければと存じます」


 聞き覚えのある声と共に太った男が現れた。ベソン兄妹にショヴァン将軍様と呼ばれた男は、不遜な態度を取っている。


「まったく。山羊への手紙かなんだか知らんが、はた迷惑な魔道具もあったものだ」

「仰る通りです」

「空から降るのは雨だけで充分だ」

「その通りです」


 ショヴァン将軍が、その大きなお腹を揺らして笑い、そのまま上座に座ると前に置かれた料理を見定め始めた。ベソン兄妹が離れ、女将に宴会を開始するように伝える。

 女中達が一斉に動きだし、鍋に火を付けていく。サラとベラもそつなく火を付けられたようだ。

 宴会は進み、舞台では綺麗な着物を来た踊り子達が舞いを披露している。二人はそれを見る暇もなく、お酒の追加を持っていったり、お皿を下げたりと忙しそうにしていた。


「おい!そこの女。こっちに来てオレの酌をしろ」


 上座から大きな声が発せられた。丸々とした指がベラを差している。それまで歓談を楽しんでいた者達が一斉に声のした方に向き異様な雰囲気となるも、声の主がショヴァン将軍だと分かると、皆そっぽを向くような態度を取った。


「早く来い」


 声は止まらず、大きくなる。止めようとする者も諌めようとする者もいない。ベラはサラに微笑むと、お酒の瓶を持ちショヴァン将軍の元へと向かった。


「お待たせいたしました」 

「遅いぞ。さぁここに座れ」


 隣の者を退かし、イスを自分の方へと近付ける。女将が申し訳なさそうな表情でサラを見るので愛想笑いで返す。当のベラはショヴァン将軍の不躾な目に晒されても表情に変わりはない。


「さきほど将軍と呼ばれていましたが、どちらから来られたのですか?」

「おお。オレの国か?グロンダン王国だ。素晴らしい所でな、今度オレが連れていってやろうか?」

「素敵なお誘いですね。こちらには、いつまでいらっしゃるのですか?」


 ベラの質問に上機嫌に答えるショヴァン将軍。先程の高圧的な態度とは異なり、ベラに気に入られようとしているようだ。

 

「どういったご用件で、アルクには来られたのですか?」

「む?それはだな、山羊への手紙は知っておるか?」

「ショヴァン将軍」 


 いつの間にか来ていたカミーユ・ベソンがショヴァン将軍の隣で声を掛けた。上機嫌に話していたショヴァン将軍だが、カミーユに向き合うと表情をしかめる。   

 

「なんだ?うるさいぞ。今良いところだ。邪魔をするな、お前らとの契約を見直しても良いのだぞ」

「も、申し訳ございません」


 咎められたカミーユ・ベソンが頭を下げたまま元の座席に戻って行く。その隣のミレーユ・ベソンは目を閉じて、見ない振りをしているようだ。宴会場の空気は悪く、前にも増してショヴァン将軍の声が聞こえるようになる。


「ふん。それで何の話だったかな?」

「山羊への手紙です」

「そうだったそうだった。それをだな、オレの力で、雨を降らして無きものにしてやるんだ」

「え?」

「どうだ、驚いたか」

「え、ええ」

「そうだろ、どうだ?この後オレの部屋でゆっくりとはなしを・・・」


 会話の途中、潰れるようにショヴァン将軍が寝入ってしまった。ベラも驚いて周りに助けを求めようとした時、再びカミーユ・ベソンが現れショヴァン将軍を介抱する。今度はミレーユ・ベソンも一緒だ。


「将軍はお疲れのようです。お相手して頂き、ありがとうございました」

「いえ...」

「ん?あなた何処かでお会いしましたか?」

「いいえ。こんな所で口説かれても困りますわ」

「そういう訳では..いえ、これは失礼しました。将軍は酔うと妄言を吐く事がございますので、先程の話は聞かなかった事にいて頂ければ」


 そう言うとカミーユは女将を呼び寄せ、いくらかの金銭を手渡す。


「酔った上での話ですが国の威信にも関わります。皆様、他言無用でお願いいたします」

 

 ベソン兄妹が深々と頭を下げ、抱えられたショヴァン将軍と共に宴会場を後にする。サラとベラは宴会場が片付けに加勢した後、ベソン兄妹の居る宿屋から立ち去る事にした。その際、女将から客の相手をさせてしまい申し訳なかったとスゥクスで有名なお菓子を手渡された。


「星の路菓子だって」

「ふふっ。軽くご飯食べてから、部屋で食べようか」

「うん、そうしよう」


 雨を降らすと言ったショヴァン将軍。ベソン兄妹は妄言と言っていたが、気にならにない訳はない。ふと見上げた空には数えきれない星が輝いていた。


■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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