サラの探し物
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『私が悪いって言うの』
酷い顔。被害者を装って、私に罪悪感を覚えさせる。
『あなたの事を思って言っているのよ』
醜い顔。善人を装って、私を支配しようとする。
『どれだけ大変だったと思っているの』
怖い顔。苦労を装って、私が普通ではないと告げる。
私から私が奪われていく。感情のこめられた言葉が、私を私ではない何かにする。
「サラ」
「ん?おはよベラ。どうしたの?」
「どうしたのって、泣いてるから...」
「あ、ホントだ」
もう何年も会っていない人達を夢で見た。既に忘れてしまったと思っていたけれど、顔も声も覚えていたようだ。ベラが泣きそうな顔で見ている。サラは涙を拭いながら、その様子がおかしくて口元を綻ばせてしまう。涙を流したくらいで、そんなに心配しなくてもいいのにと。
「大丈夫よベラ。心配しないで」
「そう。どこか痛いとかではないの?」
「うん...いえ、ベラの行動には頭を痛くしているかも?」
「もうっ」
おどけて答えたサラに枕を投げつけるベラ。安心したのか、そのまま朝の身支度へと向かっていく。ひとりになったサラは目を閉じてゆっくりと呼吸を始める。
頭の中に夢と変わらない顔と声が再生される。嫌な記憶。無かった事にしたいけど、過去を変える事は出来ない。もしあのままでいたら、どうなっていたのだろうか。逃れた過去の未来を想像しても仕方がない事だけど、何故か苛立っている姿が浮かぶ。
最後に大きく息を吸って吐き、サラも朝の身支度へと行動を開始する。
「この国の人達は毎晩寝具を出して、毎朝片付けるんだっけ」
昨夜、食事を終え部屋に戻ると敷かれていた布団。宿の人が収納にしまっていたのを出したのだと言う。ルブラン王国とは食事も衣服も違えば、寝る方法も違う。
「同じ世界に生きていても、違う世界で生きてきたように思っちゃうわね」
サラの呟きが聞こえたのか、ベラが洗面所から声を出す。
“”同じ世界に違う世界“”あのおとぎ話の中で、エーギルとリラは違う世界で暮らしてきたとあった。それでも二人は、互いに想い合えた。
アインの言った1+1=2の世界と1+1=3の世界でも、それは可能なのだろうか。サラはぐっと伸びをして、窓の向こうの空を見上げた。
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