海の上
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フェリーの一室で目を覚ましたサラ。ベッドの上で伸びをすると、部屋をぐるりと見回す。小さな窓の向こうはまだ暗い。
隣のベッドではアンリが寝ていて、サイドテーブルには美容関係の魔道具が置かれている。アンブル商会は美に関する魔道具を取り扱うことで有名だ。アンリに聞いたエーギルとリラのお伽噺。魔道具の中にはお伽噺が元になったと思われる物がいくつかあり、サイドテーブルの上の【魔法の鏡】もそう言われている。
魔法の鏡は「世界で一番美しいのは誰?」と問いかけると自身の最も美しい状態の姿を見せ、その状態になるまでの必要な栄養と運動を写し出してくれる魔道具だ。お伽噺の中では鏡が自身の最も美しい姿に変身させてくれるのだが、そこまで不思議な現象は起きない。
朝の身支度を終えると、サラは一人でフェリーの甲板に出てきた。東の空は白んでいて、じきに太陽が顔を見せる頃合いだ。
「ん~」
両腕を上げて体を大きく伸ばす。甲板を潮風が通り抜けていく。他の人影もなく、寂しさを感じてしまう。アインはまだ寝ている時間だ。インテリジェンスインテリアは決まった時間に眠る。人と違ってそのタイミングが変わることはない。
「帰ったら、話を聞かせてあげないとな」
アインはひとりでいる時、何を考えているのだろう。聞いても教えてくれないが、同じ様に寂しく思ったりするのだろうか。
眩しい光に、目を閉じる。太陽が現れ、光が世界に溢れていく。毎朝、何処でも見れる特別でもない景色。そこに思いを馳せるのは何故だろうか。
「サラ」
「アンリさん」
アンリが片手を腰に当てて、怒っていた。綺麗な人が怒ると怖いというが、子どもっぽい一面を見た今となってはそうでもない。
「起こしてくれても良かったのに。一緒に日の出を見たかったのに」
姿勢とは裏腹に小さな声で、 いじけたように言う。
「ふふっ」
「あっ!何がおかしいのよ」
寝起きなのも合間って、吹き出してしまう。アンリが両手を腰に当てて詰め寄ってくる。
謝意を込めて隣に案内するサラ。太陽は完全に姿を現していて、海にキラキラと反射する。
「綺麗ですね」
「ええ」
風に煽られて、アンリの金色の髪が靡く。
見える景色は海だけで、こんなにも広い場所があったのかと思ってしまう。
「海は広くて、大きいです」
「あら、かわいい感想。お手て繋ぎましょうか?」
「アンリさん。まだ怒っていますか?」
「さぁ、どうかしら」
いたずらな笑顔に仕返しがしたくなって、手を繋いでみせる。アンリが驚いた顔になったので、サラもっと愉快な気持ちになった。フェリーは緩やかな波を乗り越え、南西へと進んでいく。
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