表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
21/37

エーギルとリラのお伽噺

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□■□□□


 サラが山羊への手紙について調べた中に、アルク共和国のある場所に手紙が降ってくるというものがあった。だから鞄の中には、空から降ってくる手紙を沢山集められるような魔道具を入れていた。


「山羊への手紙というのは商品名。エーギルとリラの手紙じゃ売れないと思ったのでしょう。実際にもエーギルとリラの手紙ではないのだし」

「49年前の届かなかった手紙が空から降ってくるんですよね」

「ええ、年を記した手紙からそう判明しているわ」

「それで、どうしてアルク共和国ではエーギルとリラの手紙と呼ばれているのですか?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 マルテ大陸の南西に位置する島国、アルク共和国。そこで伝わる御伽話の中にこんな話がある。

 

 エーギルとリラの物語。


 ある所にエーギルとリラという二人の男女がいました。二人は住む世界が違っていて、通常では出会う筈はありませんでした。

 けど。

 ある日、時の流れに歪みが起きて、二人は出会います。

 

 時の中では短い間でしたが、互いに惹かれ合うようになります。住む世界が違うことを知っても、二人は想い合い共に過ごしていきました。


 エーギルとリラは夜の星を見上げ、この時が続くことを願います。星は静かに輝くばかりで、返事をすることはありません。

 やがて時の流れの歪みが直り、彼らに別れが訪れます。


 元の世界に戻った二人は、皆の前では何事もないように振る舞い。夜ひとりになると空を見上げエーギルはリラをリラはエーギルの事を想うのでした。


 二人の想いは、いつまでも変わりませんでした。


 そんな二人を見ていた空の星たち。どうにか二人を逢わせられないかと考えます。もう一度時の流れに歪みを起こす事ができれば良いのですが、それは千年に一度と決まっていました。


 星たちが言います。


「あの時、僕たちは薄情な事をしてしまった。二人の願いを聞いていたのに知らない振りをした」

「ああ、そうだ」

「それなのに、今になって二人の姿を見る事が耐えられないなんて」

「星にあるまじき行為。ヒトデになる」

「後悔を抱えたまま輝くことは出来ない」


 星は遠くの星に声をかけ、二つの世界を繋ぐ路となることにしました。

 星たちはその力をもって、二人のいるの世界を半日だけ繋ぐことが出来たのです。


 それは一の年の7と7の日でした。夜、二人はいつもと同じように星を見上げていました。

 星がエーギルとリラに語り掛けます。


「今から僕たちが、君たち二人の世界を繋ぐ路になってあげる」

「但し、本来二人は相容れない存在。君たちが互いの世界を行き来する事は出来ない」

「それに路は作れても半日。それでも構わなければ会いに行くといい」

「路の真ん中で待つ人がいるなら」


 二人は一も二もなく頷くと、星の路を駆けていきます。互いに路の真ん中で待つ人がいると信じて。


 束の間の逢瀬。

 二人は語り合い、ふれ合い、同じときを過ごします。星はその様子に、輝きをいっそう増します。

 星から見ても、二人は本当に本当に嬉しそうにしているのでした。

 それでも、終わりはやって来ます。


「さぁ、もう時間だ」


 悲しそうにする二人。


「互いに想い続けていれば、世界が再びこの場所に来た時に路を作ろう」


 それぞれの世界に戻った後、星がそんな事を二人に言うのでした。

 

 その日から、二人は互いに手紙を書き始めます。世界が太陽の周りを巡ってこの場所に来る日まで。

 今日あった出来事や、どんな事を考えたか、その時々の思いを綴るのでした。


 そして、また一の年の7と7の日がやって来ました。


 エーギルとリラは星の路が出来ると、手紙を抱えて駆けていきます。ですが逸る気持ちから、いくつかの手紙を落としてしまいます。 

 でも、手紙は必要ありません。


 二人は会えるのですから。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「アルクで伝わるお伽噺だから、ルブランでは知られていないけど。そこからエーギルとリラの手紙と呼ばれているのよ」

「そうだったのですね。そっかぁ、なんとなく山羊への手紙の現れる理由がわかった気がします。アンリさん。ありがとうございます」


 サラは目を見開いて、嬉しそうにする。


「どういたしまして」


 アンリもまた笑みを見せて、テーブルの上の料理も二人のお腹の中に収まっていく。

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□■□□□


お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ